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日本における実質的支配者リスト制度の概要について

2021年11月15日(月)

日本における実質的支配者リスト制度の概要についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

実質的支配者リスト制度の概要

 

実質的支配者リスト制度の概要

2021年11月15日 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers 東京事務所 <style=”text-align: right;”>弁護士 松宮浩典

  2021年9月17日に「商業登記所における実質的支配者情報一覧に保管等に関する規則」(以下「本規則」といいます。)が公布され、「実質的支配者リスト制度」(以下「本制度」といいます。)の運用が2022年1月31日より開始されます。本ニュースレターでは、本制度について解説します。

1 背景

 法人の実質的支配者に関する情報を把握することは、法人の透明性を向上させ、資金洗浄等の目的による法人の悪用を防止する観点から、国内外の要請が高まっています。

このような状況を踏まえ、法人設立後の継続的な実質的支配者の把握についての取組の1つとして、本制度が創設されることになりました。

2 概要

 本制度は、株式会社(特例有限会社を含みます。)が、商業登記所の登記官に対し、当該株式会社が作成した実質的支配者に関する情報等を記載した書面(以下「実質的支配者情報一覧」といいます。)を所定の添付書面とともに提出し、その保管及び登記官の認証付きの写しの交付の申出を行うことができるとするものです。なお、本制度は無料で利用できます。

 本制度における実質的支配者とは、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則第11条第2項第1号の自然人(同条第4項の規定により自然人とみなされるものを含む。)に該当する者をいいます。

 具体的には以下の(1)又は(2)に該当する者です。

(1) 会社の議決権の総数の50%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合は除く。)

(2) (1)に該当する者がいない場合は、会社の議決権の総数の25%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合は除く。)

 ここで「自然人とみなされるもの」には、国、地方公共団体、人格のない社団又は財団、上場企業等及びその子会社が該当します(犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条第5項、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令第14条、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則第11条第4項参照)。

3 手続の流れ

 実質的支配者情報一覧の保管及び写しの交付の流れは、以下の通りです。

(1) 会社の代表者又は代理人による申出   ①実質的支配者情報一覧の作成   ②申出書の作成   ③添付書面の準備(以下<添付を要する書面>及び<添付可能な書面>参照)   ④申出書を申出会社の本店所在地を管轄する商業登記所に提出

(2) 商業登記所による確認及び交付   ①登記官による申出内容の確認   ②実質的支配者情報の保存   ③商業登記所に保管された実質的支配者情報一覧の写しである旨の認証文付きの実質的支配者情報一覧の写しの交付

 申出書に添付する書面として、以下のものが挙げられています。

<添付を要する書面(本規則第4条第1項)>

(1) 実質的支配者情報一覧

(2) 申出会社に係る次に掲げる書面のいずれか   ①申出日における株主名簿の写し   ②公証人が発行する申告受理及び認証証明書(設立後最初の事業年度を経過していない場合に限る。)   ③法人税確定申告書別表二の写し(申出日の属する事業年度の直前事業年度に係るもの。設立後最初の事業年度を経過している場合に限る。)。

(3) 上記(1)の実質的支配者情報一覧の記載と上記(2)の書面の記載とで内容が合致しない場合には合致していない理由を明らかにする書面

<添付可能な書面(本規則第4条第2項)>

(1) 実質的支配者の氏名及び住居と同一の氏名及び住居が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該実質的支配者が原本と相違ない旨を記載した謄本を含む。) ※例:運転免許証の表裏両面のコピー、住民票の写し

(2) 上位会社(実質的支配者の支配法人)に係る<添付を要する書面>(2)①から③までに掲げる書面のいずれか

 ただし、実質的支配者リストの記載と上記書面の記載とで内容が合致しない場合には、その理由を明らかにする書面の添付を要する。

4 本制度における留意点

 (1) 実質的支配者に関する情報の真実性を証明するものではないこと

 本制度の実質的支配者は、申出会社の申告による情報に基づき、議決権の保有割合を形式な基準として判断されるものであり、登記官が実質的支配者自体を証明するものではありません。実際に、実質的支配者情報リストの写しには、「これは、会社において作成した実質的支配者情報一覧について、登記官が各添付書面欄記載の書面と整合することを確認して保管を行ったものの写しであり、記載されている内容が事実であることを証明するものではない。」と付記されます(「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則の施行に伴う事務の取扱いについて(通達)」、第2の2(4)イ(ウ))。

 なお、申出会社が虚偽の資料を用いるなどして申出を行った場合には、個別の事案に応じて、関係法令に基づき制裁が科される可能性があります(「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規定案に関する意見募集の結果について」、15番)。例えば、申出会社が株主名簿に虚偽の記載をした場合には、会社法976条7号の規定により、100万円以下の過料に処せられることになります。

(2) 実質的支配者が変更された場合の申出は任意であること

 本制度は、任意の申出に基づいて実質的支配者リストの写しを発行するものであるため、実質的支配者リストに記載されている情報に変更があった場合でも、変更後の実質的支配者リストの保管及び写しの交付の申出をするかどうかも任意となります。したがって、新たな情報が記載された実質的支配者リストの写しを必要な場合は、改めて申出をする必要があります(法務省「実質的支配者リスト制度Q&A」、5-2)。

以上