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インドネシアにおける憲法裁判所による手続の瑕疵を理由としたオムニバス法の「条件付き違憲」判決について

2021年12月08日(水)

インドネシアにおける憲法裁判所による手続の瑕疵を理由としたオムニバス法の「条件付き違憲」判決についてニュースレターを発行いたしました。
PDFは以下からご確認ください。

憲法裁判所による手続の瑕疵を理由としたオムニバス法の「条件付き違憲」判決

 

憲法裁判所による手続の瑕疵を理由としたオムニバス法の「条件付き違憲」判決

2021年12月
One Asia Lawyers; Indonesia Office
日本法弁護士 馬居 光二
インドネシア法弁護士 Prisilia Sitompul

1. はじめ

 インドネシア憲法裁判所は、2021年11月25日に発表した判決で雇用創出に関する法律2021年11号(以下、「オムニバス法」という)は、立法手続に瑕疵があり、当該瑕疵を修正するのに2年間の猶予が必要であるとして、今後2年以内に必要な改正が行われなければ違憲であるという「条件付違憲判決」を行いました。

 経済分野の78の法令を改正したこのオムニバス法は、インドネシアでは民法制定以来、最も重要な法改正として評価されています。オムニバス法が制定されて以降、政府は、労働力、外国直接投資、貿易など多くの分野でオムニバス法を実施するために、少なくとも7つの大統領規則、49の政府規則、50以上の大臣規則を公布、施行しました。

 上記判決は、オムニバス法制定の手続きに問題があるとして同法が違憲である旨判決したものとなります。手続きに問題がある点、条件付とされている点が重要となります。

2. 裁判所の判断

 本件判決では、オムニバス法案が国会と大統領の共同承認を得た後に修正されたこと等を挙げ、雇用創出という同法の趣旨に鑑みても、適法な手続が省略される理由とはならず、特に、立法過程の「公開の原則」は、憲法秩序を具現化するものであり、立法手続には最大限市民参加を含む必要があるとして、それがなされていない立法手続には瑕疵がある旨判示しております。他方で、同法を無効とすることによる現行法、規則への影響の大きさに鑑みて、当該瑕疵を修正するために2年間の猶予を与え、同期間(2023年11月25日)までにオムニバス法が改正されない場合には、同法は違憲(実質的には無効)となる旨判示しました。

 上記裁判においては、関連する他の11件の事件、すなわち事件番号87、101、103、105、107、108/PUU-XVIII/2020と、事件番号3、4、5、6、55/PUU-XIX/2021についても審理をしていたところ、全ての訴えが排斥されております[1]。これは、2021年11月25日付判決91/PUU-XVIII/2020号(以下、「本件判決」という)に記載されているように、オムニバス法が条件付きで違憲とされたため、その他の訴えは、審理の対象が無くなったとされたためです。

 裁判所は、「立法手続の修正」の意味を明確にしていませんが、立法手続に関する法律2011年14号(法律2019年15号で改正)に基づけば、立法手続は、政府と立法府が、法律制定過程の5つの所定の段階、すなわち起草、改定、審議、制定、公示を経て行うべきであり、その過程で学術的な調査、公聴会によって修正され得る、あるいは政府が立法府で最終的に多数の支持を得られない場合には否決される可能性があることが必要とされております[2]

3. 本件判決の影響

 ‐オムニバス法は、上記期間内に立法府が法律制定手続の瑕疵を修正するまでは有効とされております。

 ‐判決から2年間の間に、立法府が現行の法令や法律制定の基本原則に則って適正な形で立法手続の瑕疵を修正する下腿で改正をした場合、オムニバス法は合憲とみなされ、同法とその施行規則は引き続き有効となります。

 ‐裁判所は政府に対し、オムニバス法に関連する新たな施行規則の発行を停止するよう命じました。

 ‐上記のように2年以内に改正がなされない場合、オムニバス法によって撤回または修正された法律または法律の条文や重要な内容は、その時点で再度有効なものとして制定されることになります。

 ‐本判決に遡及効はないとされております。これは、オムニバス法およびその施行規則が制定されてから2023年11月25日までの期間に行われる政府の決定や、オムニバス法およびその施行規則に基づく事業に関する決定は、たとえ立法府が2023年11月25日までに立法手続の瑕疵を修正する形で法改正をすることができなかったとしても、当然に無効となるものではないとされております。

4. 結論

 オムニバス法は、インドネシアへの投資を誘致し、雇用を創出することを目的として制定されております。他方で、昨年の同法成立後、学生、労働者、環境保護活動家など多くの団体、個人から同法に対する抗議がなされております。上記のように、これらの抗議については判決文においても、「公開の原則」に基づき、市民参加を含むべき旨が指摘されております。実際、政府による性急な手続についての違法性は多くの法律家からも指摘されておりました。

 もっとも、現在までのところ、外国人投資家に関してオムニバス法は肯定的な影響を与えていると考えられております。実際には、新しい外国投資関連のプロジェクトは増加しており、その中にはオムニバス法の成果と思われるものも多くあります。

 インドネシア大統領は、本件判決を受けた記者会見において、国内外の事業関係者や投資家がこれまで行った投資だけでなく、現在行っている投資や今後行う投資も、安全で安心なものであり続けることを改めて強調し、政府はインドネシアへの投資の安全性と確実性を確保する旨のべております[3]

 これまでの外国投資誘致に対する積極的な姿勢に鑑みると、本判決によって政府の外国投資に対する対応が大きく変更されるとは考えがたいですが、インドネシアへの投資にあたっては、上記で述べた立法手続の瑕疵の修正状況等について注意を払うべきかと思われます。

 

最高裁判所ウェブサイト, https://www.mkri.id/index.php?page=web.Berita&id=17816&menu=2, (2021年12月1日アクセス)

[2] 憲法裁判所ウェブサイト [website], https://www.mkri.id/public/content/persidangan/putusan/putusan_mkri_8240_1637822490.pdf, (2021年12月1日アクセス)

[3] Sekretariat Presiden [Youtube], https://www.youtube.com/watch?v=yQBApvSs6Pg, (2021年12月2日アクセス)