• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

シンガポールにおける銀行の支店(Branch)の設立方法について

2022年01月03日(月)

シンガポールにおける銀行の支店(Branch)の設立方法についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

シンガポール:シンガポールにおける銀行の支店(Branch)の設立方法

 

シンガポール:シンガポールにおける銀行の支店(Branch)の設立方法

2022年1月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

 日本企業の東南アジア進出が進み、さらに香港などに支店を有していた銀行が今後の支店の移転先などを検討する際に、シンガポールを候補と考えるケースが増加しています。本稿においては、シンガポールの銀行の支店の設立方法について解説いたします。

 シンガポールで支店を設立するには、銀行はシンガポール通貨庁(以下、「MAS」という)からホールセール・バンキング・ライセンスを取得する必要があります。MASはまた、シンガポールにおける銀行業務の主要な規制当局でもあります。

第1 シンガポールにおける銀行の種類

 まず、シンガポールにおける銀行の主な種類は以下の通りです。

1 フルバンク(Full Banks)

 フルバンクはシンガポール銀行法(Banking Act )に基づき認可され、管理されており、フルバンクは以下の業務を含むあらゆる銀行業務を行うことができます。

 ・預金の取り扱い  ・小切手サービスおよび融資  ・金融顧問サービス、保険仲介および資本市場サービスなどを含む、MASに規制もしくは認可されるその他の業務

 他方、フルバンクは非金融業務に従事することを禁じられています。また、銀行法第30条は許容される業務を定義しています。銀行およびその担当者は上記の業務を行うにあたって、別途認可を受ける必要はありませんが、金融アドバイザー法(Financial Advisers Act (FAA) )、保険法(Insurance Act (IA) )および 証券先物法(Securities and Futures Act (SFA) )にて規定される業務遂行要件を遵守しなければなりません[1]

 なお、このフルバンクのライセンスは、2016年から凍結されており、外国の銀行に付与される可能性は極めて低いものとなっている。

2 適格フルバンク(Qualified Full Banks)

 適格フルバンク(Qualifying Full Bank (QFB))の特権を持つ外資系フルバンクは、全25拠点までの運営することが可能であり、以下の業務が可能です。

 ・ATMを共有し、支店を自由に移転すること  ・銀行のクレジットカード保有者が、地元銀行のATMネットワークを通じて、現金を引き出すことができるよう商業ベースで地元銀行と交渉すること  ・EERPOSネットワークを通じてデビットサービスを提供すること  ・補足退職スキーム(Supplementary Retirement Scheme )およびCPF投資スキーム(CPF Investment Scheme )のための口座の提供  ・CPF投資スキームおよびCPFリタイアメントサムスキーム(CPF Retirement Sum Scheme )に基づく定期預金を受け入れること

 適格フルバンク(QFBスキーム)は、シンガポールの銀行部門を自由化し、地元銀行の発展を促進するための取り組みとして1999年に導入されたものです。通常のフルバンクライセンスを保有する外資系銀行は限定された数の支店とATMを運営することしかできません。しかし、QFBスキームのもと、フルバンクライセンスを保有することに選ばれた外資銀行は、QFBの恩恵を受けることができ、更なる支店、オフサイトATM、他銀行との共有ATMの設置、年金基金投資スキームおよび電子決済POS(EFTPOS)ネットワークを通じたデビットサービスの提供などの特典を受けることができます。

 なお、フルバンクライセンスを保有していることが、外資銀行がQFBの恩恵を受けるために必要不可欠なものとなるため、現時点から新しく日本の銀行がこのスキームを適用することは困難であると考えられています。

3 ホールセール銀行(Whole Sale Bank

 ホールセール銀行は、銀行法(Banking Act )に基づき認可され、管理されるもので、ホールセール銀行は、シンガポールドルのリテールバンキング業務を行うことは認められていませんが、それ以外については、概ねフルバンクとしての銀行業務と同じ範囲の業務に従事することが可能です。 ホールセール銀行も非金融業務に従事することは禁じられています。

 後述する通り、ホールセール銀行は、ホールセール銀行の業務に関するガイドライン(Guidelines for Operations of Wholesale Banks)の範囲内で運営されています[2]。このホールセール銀行の詳細は第2において詳述します。

4 マーチャント銀行(Merchant Bank

 マーチャント銀行は銀行法に基づき認可され、管理されており、銀行法第55V条によって許容される業務を行うことが可能です[3]

マーチャント銀行ライセンスは通常、ポートフォリオ管理や資本市場サービスなどを専門とする投資銀行により取得されます。一般的な制限として、シンガポールドルでの預金獲得やシンガポールドルでの債権発行ができません。また、マーチャント銀行に許可される業務の範囲はホールセール銀行よりさらに制限されたものとなります。

 一般的に、マーチャント銀行は、以下の業務のみを行うことができます。

– 株式、債権およびその他の有価証券の引き受け、購入および販売 – 投資ポートフォリオ管理(プライベートエクイティ投資を含む)、投資顧問サービスおよびノミニー/保護預かりサービス – 会社再建、M&Aによる買収、IPOおよびその他の資金市場取引へのアドバイスおよびマネジメントアドバイスの提供 – 資金調達、融資もしくはシンジケートローンへの参加のアレンジ

上記の業務はまたホールセール銀行ライセンスにも許可された業務であることに留意することが重要です。

 シンガポールで業務を行うためにマーチャント銀行ライセンスを保有する投資銀行は、野村、アメリカ銀行、JP Morganなど多くあります。一方で、その代わりホールセール銀行ライセンスを保有するBarclays、Morgan Stanley、Deutsche銀行のような投資銀行も多くあります。

5 その他の金融機関(Financial Institutions

 その他の金融機関は、金融機関法(Finance Companies Act )に基づき認可され、管理されており、その業務には以下の業務が含まれます。

 ・預金の取り扱い  ・中小企業などを含む個人や企業への融資

第2 ホールセール・バンキング・ライセンスについて

1 概要

 今般、日本の銀行が新たに支店の設立を検討するにあたっては、リテール業務を行うことは想定していないことが多いため、一般的には上記のホールセール銀行の設立を検討することが多いため、以下、ホールセール・バンキング・ライセンスについて説明します。

 ホールセール銀行(Whole Sale Bank)は、シンガポールドルのリテールバンキング業務(シンガポールドルの普通預金口座の運営など)を除き、フルライセンス銀行と同じ範囲の銀行業務に従事することができます[4]

 ホールセール銀行は、銀行業務に関連する活動を行うために別途、個別のライセンスを取得する必要はなくなりますが、証券先物取引法[5]等のシンガポールの法律を遵守する必要があります。

また、ホールセール銀行は、MASの別途の認可がある場合を除き[6]、シンガポール国内に1つ以上の事業所(オフィス、銀行支店など)を維持する必要があります。

2 申請スケジュールと時間

 ライセンス申請の準備期間は、ビジネスプランの策定、日本の金融庁の同意取得、MASからのコメントへの対応など、様々な要因に左右されます。MASは、申請者が申請書を提出する前に、事業計画やその他の関連情報について事前協議を行うことを奨励しています。

 申請書の提出後、すべての情報が適切に提出されていると仮定して、MASによる処理時間は通常3~4ヶ月かかります。

3 審査基準

 MASでは、ホールセール銀行の審査のための認可基準を以下のように定めています[7]

 1. 銀行の財務の健全性  2. 作成したビジネスプランの健全性  3. 銀行のリスク管理体制の堅牢性  4. 母国での監督の内容(日本の金融庁による監督など)

 すべての基準は、MASによって任意の判断で審査で評価されます。

 なお、日本は、日本の金融機関に対してバーゼルの枠組みを導入しているため、銀行システムに対する強力な規制環境を有していると考えられます。申請者は、(1)バーゼルフレームワークで定められた比率(例:自己資本比率)で決定される銀行の財務の健全性、(2)事業計画の経済性及び持続可能性、(3)経験豊富なスタッフ及び経営者が監視する強固なリスク管理システムの有無に注目すべきです。

 また、申請者の本社の銀行の資本金が2億SGD相当額以上であることが必要です[8]

4 申請時に必要な書類

 申請書「ホールセール銀行/マーチャント銀行設立申請書」に加えて、以下の書類が必要となります。

 a. 申請者の設立証書(定款)[9]  b. 申請者の最新の貸借対照表(3ヶ月以内のもの)[10]  c. 金融庁からのシンガポール支店設立認可書の原本  d. 申請者は、重大な不利な事態が発生した場合、MASに報告することを約束すること  e. 申請者の過去2年分の年次報告書、及び  f. 持株会社または支配株主の最新の年次報告書[11]

[1] 要件についての詳細は、フルバンク(現地法人)Full Bank (Locally Incorporated) およびフルバンク(支店) Full Bank (Branch)を参照されたい

[2] 要件の更なる詳細については、以下のホールセール銀行(現地法人)Wholesale Bank (Locally Incorporated) およびホール銀行(支店) Wholesale Bank (Branch)を参照されたい。

[3] 要件に関する詳細については、以下のマーチャント銀行(現地企業)(Merchant Bank (Locally Incorporated) )およびマーチャント銀行(支店)( Merchant Bank (Branch))を参照されたい。

[4] Guidelines for Operation of Wholesale Banks.

[5] 銀行法 30The Monetary Authority of Singapore website.

[6] 銀行法第12章

[7] The Monetary Authority of Singapore website.

[8] Supra n 2, s 9(1)(b).

[9] Id, s 7(1)(a).

[10] Id, s 7(1)(b)

[11] MAS, Application to Set Up Wholesale Bank / Merchant Bank, Section VII.