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デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の押印義務及び書面化義務の見直しに関する概要について

2022年01月13日(木)

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の押印義務及び書面化義務の見直しに関する概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の押印義務及び書面化義務の見直しに関する概要

 

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の
押印義務及び書面化義務の見直しに関する概要

2022年1月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2021年5月19日に「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(以下「本法律」といいます。)を含むデジタル改革関連法が公布され、一部法律を除き同年9月1日に施行されました。

1 背景

 本法律は、2021年5月19日に公布された「デジタル社会形成基本法」(以下「基本法」といいます。)に基づき、デジタル社会の形成に関する施策を実施するため、個人情報の保護に関する法律、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)等の関係法律についての所要の整備を行い、合計48の法律について押印義務及び書面化義務の見直しを図るものとなっています。

 本ニューズレターでは、押印義務及び書面化義務の見直し対象のうち、①宅地建物取引業法(以下「宅建業法」といいます。)における宅地建物の売買契約等に係る重要事項説明書等の押印義務の廃止及び重要事項説明書の電子化、並びに②借地借家法における定期借地権の設定や定期建物賃貸借における契約に係る書面・事前説明書の電子化について解説します。

 なお、宅建業法及び借地借家法に関する改正は、公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日までに施行されるとされています(本法律第37号附則第1条4項)。

2 宅建業法の改正

 これまで書面を作成して記名押印が必要とされていた重要事項説明書、契約締結時交付書面及び媒介契約について、一定の場合に電磁的方法による提供を可能とし、また、重要事項説明書及び契約締結時交付書面について押印を不要とする改正が行われました。

改正の概要は以下のとおりです。

(1)媒介契約について

 現行の宅建業法上、宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約を締結するときは、一定の事項が記載された書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければなりません(宅建業法第34条の2第1項)。

 改正後は、同条11項及び12項として、以下の条項が新設されました。

11 宅地建物取引業者は、第1項の書面の交付に代えて、政令で定めるとことにより、依頼者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。以下同じ。)であって同項の規定による記名押印に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面に記名押印し、これを交付したものとみなす。

 

12 宅地建物取引業者は、第6項の規定による書面の引渡しに代えて、政令で定めるところにより、依頼者の承認を得て、当該書面において証されるべき事項を電磁的方法であって国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を引き渡したものみなす。

 これにより、以下の2つの要件を満たす場合には、媒介契約書面への記名押印及び交付とみなされます。

 ①政令で定める方法により、依頼者の承諾を得ること。

 ②記名押印に代わる措置として国土交通省令で定める電磁的方法によること。

 現時点では、政令及び国土交通省令が制定されていないため、具体的な方法については、政省令の成立を待つ必要があります。

なお、媒介契約に関しては、後述の重要事項説明書及び契約締結時交付書面とは異なり、書面で作成する場合は記名押印が必要とされており、その点には留意する必要があります。

(2)重要事項説明書について

 現行の宅建業法上、宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者に対して、契約成立前に、宅地建物取引士をして一定の事項を記載した書面を交付して説明しなければならず(宅建業法第35条1項)、かつ、当該書面には宅地建物取引士が記名押印する必要がありました(同条5項)。

 改正後、重要事項説明書への宅地建物取引士の押印が不要とされ、記名のみで足りるものとされました(改正宅建業法第35条5項)。さらに、以下の規定が同条8項及び9項として新設されました。

8 宅地建物取引業者は、第1項から第3項までの規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第1項に規定する宅地建物取引業者の相手方等、第2項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方又は第3項に規定する売買の相手方の承諾を得て、宅地建物取引士に、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であって第5項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供させることができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該宅地建物取引士に当該書面を交付させたものとみなし、同項の規定は、適用しない。

 

9 宅地建物取引業者は、第6項の規定により読み替えて適用する第1項又は第2項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第6項の規定により読み替えて適用する第1項に規定する宅地建物取引業者の相手方等である宅地建物取引業者又は第6項の規定により読み替えて適用する第2項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方である宅地建物取引業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であって第7項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。

 これにより、以下の2つの要件が満たされれば、重要事項説明書の交付があったとみなされます。

 ①政令で定める方法により相手方の承諾を取得すること。

 ②宅地建物取引士による記名に代わる措置として国土交通省令で定める電磁的方法によること。

 現時点では、政令及び国土交通省令が制定されていないため、具体的な方法については、政省令の成立を待つ必要があります。

(3)契約締結時交付書面について

 現行の宅建業法上、宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、契約締結時にその相手方に、一定の事項が記載された書面を作成し、宅地建物取引士に記名押印させて交付しなければなりません(宅建業法第37条1項、3項)。宅地又は建物の賃貸に関して代理又は媒介をした場合も同様に契約締結時交付書面の交付が必要とされています(同条2項)。

 改正後は、契約締結時交付書面への宅地建物取引士による押印が不要とされ、記名のみで足りるものとされました(改正宅建業法第37条3項)。さらに、契約締結時に提供すべき事項を電磁的方法により提供することを可能とする以下の規定が同条4項及び5項として新設されました。

4 宅地建物取引業者は、第1項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であって前項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。

一 自ら当事者として契約を締結した場合 当該契約の相手方

二 当事者を代理して契約を締結した場合 当該契約の相手方及び代理を依頼した者

三 その媒介により契約が成立した場合 当該契約の各当事者

 

5 宅地建物取引業者は、第2項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であって第3項の規定による措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面に交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。

一 当事者を代理して契約を締結した場合 当該契約の相手方及び代理を依頼した者

二 その媒介により契約が成立した場合 当該契約の各当事者

 前述の重要事項説明書と同様、以下の2つの要件が満たされれば、契約締結時交付書面の交付があったものとみなされます。

 ①政令で定める方法により相手方の承諾を取得すること。

 ②宅地建物取引士による記名に代わる措置として国土交通省令で定める電磁的方法によること。

 現時点では、政令及び国土交通省令が制定されていないため、具体的な方法については、政省令の成立を待つ必要があります。

3 借地借家法の改正 

 これまで書面による作成を必要としていた定期借地権の特約及び定期建物賃貸借契約について、電磁的記録による作成を認める改正が行われました。

 改正の概要は以下のとおりです。

(1)定期借地権の特約について

  現行の借地借家法上、存続期間を50年以上として借地権を設定する場合においては、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、建物買取請求権を行使しない旨の特約を定めることが可能とされていますが、当該特約は公正証書による等書面により行わなければなりませんでした(借地借家法第22条)。

 改正後は、同条2項として以下のような条項が新設されました。

2 前項前段の特約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第38条第2項及び第39条第3項において同じ。)によってされたときは、その特約は、書面によってされたものとみなして、前項後段の規定を適用する。

 これにより、定期借地権の特約を電磁的記録により行うことで、書面の作成が不要となります。

なお、改正後も、事業用定期借地権は公正証書による必要があり、事業用定期借地権契約は電子契約にて行うことはできません(借地借家法第23条3項)。

(2)定期建物賃貸借契約について

 現行の借地借家法上、契約期間の更新がない定期建物賃貸借契約は、公正証書による等書面により契約をしなければならず(借地借家法第38条1項)、また、同契約の締結時には、賃貸人は、事前に賃借人に対し、契約の更新がなく期間の満了により賃貸借が終了する旨を記載した書面(事前説明書面)を交付して説明することが求められています(同条2項)。

 改正後は、以下のような規定が新設されました。

2 前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

4 建物の賃貸人は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、建物の賃借人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるものをいう。)により提供することができる。この場合において、当該建物の賃貸人は、当該書面を交付したものとみなす。

 定期建物賃貸借契約については、前述の定期借地権の特約と同様に電磁的記録による方法が許容されることとなります。

 また、事前説明書面については、以下の2つの要件を満たすことが必要とされています。

 ①政令で定める方法により賃借人の承諾を取得すること。

 ②法務省令で定める電磁的方法によること。

 現時点では、政令及び法務省令が制定されていないため、具体的な方法については、政省令の成立を待つ必要があります。

以上