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ベトナム人労働者の送り出しに関する新法令について

2022年01月13日(木)

ベトナム人労働者の送り出しに関する新法令についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ベトナム人労働者の送り出しに関する新法令が成立

 

<ベトナム人労働者の送り出しに関する新法令が成立>

2021年1月13日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

1 はじめに

 ベトナム政府は、2020年11月13日付で、契約に基づいて外国で就労するベトナム人労働者法(Law No.69/2020/QH14、以下「新海外労働者派遣法」といいます)を公布しました。新海外労働者派遣法は、ベトナム人労働者の送り出し事業に関する法規制について定めるものであり、旧法を14年ぶりに改正するものです。

 また、ベトナム政府は、2021年12月10日付で、海外労働者派遣法における事業活動ライセンス等に関する条項の細則を定める政令(Decree No.112/2021/ND-CP、以下「新政令」といいます)、及び2021年12月15日付で、海外労働者派遣法の詳細を規定する通達(Circular No.21/2021/TT-BLDTBXH、以下「新通達」といいます)を公布しました。

新海外労働者派遣法及び新法令は、2022年1月1日から施行されており、新通達は2022年2月1日から施行される予定です。

 ベトナム人労働者を受け入れることで人出不足の解消を図ろうとする日系企業は多く、そういった企業に対して新海外労働者派遣法、新政令、及び新通達の概要を理解することは重要です。

本ニュースレターでは、ベトナム人労働者を受け入れる日本企業の視点から、Q&A形式で上記概要をご紹介いたします。

Q1 ベトナム人労働者の送り出し事業を実施したいです。日本企業がベトナムに現地法人を設立して、ベトナム人労働者を日本に送り出す事業を実施することはできますか?

A: 日本企業がベトナムに現地法人を設立し、ベトナム人労働者を日本に送り出す事業を実施ことはできません。

 旧海外労働者派遣法(Law No.72/2006/QH11)では、外国で就労するベトナム人労働者の送り出しサービス活動許可(以下「送り出しライセンス」といいます)の発給対象を「ベトナムの組織・個人が資本金100%を有し、企業法に基づき設立され、活動する企業」と定義していました(旧海外労働者派遣法の細則を定める政令(Decree No.126/2007/NĐ-CP)第2条)。

 これに対して、新海外労働者派遣法では「オーナー、全ての出資者、株主が投資法で定める内国投資家である企業」という定義に変更されています。

 投資法上、「内国投資家」とは「ベトナム国籍を有する個人、外国投資家である出資者または株主がいない経済組織」(2020年投資法(Law No.61/2020/QH14)第3条20項)と定義されていますので、日本企業が設立した企業(経済組織)は内国投資家の定義に含まれません。

 よって、日本企業が設立したベトナム法人は、送り出しライセンスの発給対象外であるため、上記結論となります。

Q2: 送り出しライセンスを保有するベトナム企業から、ベトナム人労働者の紹介・派遣を受け、日本でベトナム人を雇用したいと思っています。そういった企業をベトナムでどのように探したらよいのでしょうか。

A: Q1において記載したとおり、ベトナム人を海外に送り出すためには、送り出しライセンスの取得が必要です。送り出しライセンスを取得しているベトナム企業を探すためには、当該ライセンスを所管する労働傷病兵社会省国外労働管理局のウェブサイト[1]に掲載されている、送り出しライセンス取得済み企業の一覧を参照することが有用です。

 または、新政令上、送り出しライセンスについては、次のような様式で発給されるため、取引実施の前にライセンス文書を確認し、正式なものかどうかを確認しておくという方法も考えられます。

Q3: 送り出しライセンスを取得するための条件を教えてください。

A: 新法に規定されている、送り出しライセンスを取得するための条件は以下のとおりです。なおライセンス取得条件の詳細は、新政令に規定されています。新政令に規定されているような詳細な条件をすべて満たしているか確認することは困難かもしれませんが、以下の新法上の基本的な条件を満たしているかどうかを確認することは、そこまで難易度が高いと思われません。したがって、取引先企業が送り出しライセンスを適切に取得しているかどうかを確認する際、以下の条件を満たしているかどうかを確認することは有用と考えられます。

【送り出しライセンスの取得条件(新法第10条1項)】

a) 50億ドン以上の資本金を有し、所有主、全ての社員(出資者)、株主が投資法で規定される内国投資家であること
b) 新法第24条で規定する保証金を預託していること[2]
c) 法定代表者がベトナム国民であり、大学卒業以上の学歴を有し、契約に基づき外国で就労するベトナム人労働者の送り出しあるいは就職サービス分野で5年以上の経験を有し、刑事責任追及をされておらず、犯罪歴[3]が無いこと
d) 新法第9条で規定する事業内容[4]を実施し得る従業員を十分に有していること
dd)契約に基づき外国で就労するベトナム人労働者を教育するために必要な物理的施設を有していること、あるいは安定的に賃借していること。
e) ウェブサイトを有すること。

 上記に関連して、旧法に基づく送り出しライセンスを取得した企業について、新法施行後12か月間は、旧法に定める条件を遵守したうえで活動可能という経過規程が設けられています。言い換えれば、2023年からは全ての企業が新法に基づく送り出しライセンスの条件を満たしていなければならないことになる点にご留意ください。

Q4: 日本への送り出しについて、上記の他、事業実施のために特別な条件はあるのでしょうか?

A: Q3の回答において紹介した送り出しライセンスの取得条件を満たすこととは別途、日本への送り出し事業を実施する企業については、日本語能力試験(JLPT)N2以上を取得している従業員を雇用していることといった人的要件が定められています。

【日本で就労するベトナム人労働者の送り出しサービスの活動条件(新政令第15条1項)】

人的要件:

a) JLPT N2あるいはそれ相当以上の日本語能力を有する、外国労働市場開発に従事する従業員を1名以上有すること。
b) JLPT N2あるいはそれ相当以上の日本語能力を有し、かつ日本へのベトナム人労働者の送り出しについて1年以上の経験を有する、労働者管理活動を実施する従業員を1名以上有すること。
c) 日本へのベトナム人労働者の送り出しについて1年以上の経験を有する方針教育活動に従事する従業員を1名以上有すること。

 上記に加えて、ベトナム労働傷病兵社会省と日本側当局とが合意した、日本へのベトナム人労働者の送り出しサービスを実施する企業の基準を満たしている必要があります(新政令第15条2項)。

 また、看護師・介護福祉士など個別に条件が設定されている業種があり、以下のような条件を満たしている必要があります。

【看護師・介護福祉士を送り出す企業に課される条件(新政令第17条)】

1. 日本で就労するベトナム人労働者の送り出し契約を履行中であること。
2. 次の基準を満たす、看護師・介護福祉士の技能を養成し、外国語を養成する育成施設を有すること、あるいは職業教育施設と養成について連携すること
a) 日本語を養成するための基本的な視聴覚設備を有すること、日本のプログラムに基づく看護・介護福祉業の技能を育成するための、車いす、歩行器、医療用ベッド、食事テーブル、壁に取り付けた手すり、入浴介助用いす、浴槽、自動トイレ、医療器具を収納した棚を備えた実習室を有すること。
b) 日本のプログラムに基づき労働者の看護・介護福祉技能を育成するための教員を1名以上有すること。
c) 日本のプログラムに基づいて労働者に日本語を指導するためのJLPT N2あるいはそれ相当の日本語教員を少なくとも1名以上有すること。

Q5: ベトナムから労働者を海外派遣する際に、仲介業者が徴収できる手数料に上限はありますか。

A: 仲介業者が徴収できる手数料の上限は、派遣期間12カ月につき、労働契約に定める賃金の0.5カ月分までとされています。また、派遣期間が36カ月を超える場合には、労働契約に定める賃金の1.5カ月分までが上限となります(新通達第7条1項)。

 ただし、日本の仲介業者については例外規定が設けられており、仲介手数料の上限が0VNDとされているため、仲介手数料を徴収することが認められていないと考えられます(同条2項及び別表X)。この他にも、労働派遣期間中に労働者から徴収するサービス料についても上限が設けられており、日本との関係では、「技能実習生3号」及び「特定技能」の在留資格の場合、上限が0VNDとされており、「高度専門職」及び「特定活動(建設・造船)」の場合、派遣期間12カ月ごとに賃金の0.7カ月分まで、36カ月を超える場合には、賃金の2カ月分までが上限とされています(新通達8条及び別表XI)。

 以上、ベトナムに多数存在する企業のなかから送り出しサービスの提供を受ける取引先を選定するのは容易では無いとはいえ、ベトナム側で要求される上記のような基本的な活動条件等に関する知識を有し、これらについて取引先が適切に対応を行っているか監査することで、悪質な送り出し企業と取引することを避けることができるのではないかと考えられます。また、送り出しサービスの提供者との間で締結する契約内容についても詳細が定められているため、そのようなサービスを利用する際には、現地専門家の助言を受けることが推奨されます。

 

[1]http://dolab.gov.vn/BU/Index.aspx?LIST_ID=1371&type=hdmbmtmn&MENU_ID=246&DOC_ID=1561

[2] 保証金20億ドンを銀行へ預託することが定められています(本政令第23条)。

[3] ここでの犯罪には、国家安全保障侵犯罪、人間の生命、健康、人格、名誉を侵犯する罪、詐欺罪などが限定されていますが、本ニュースレターでは割愛します。

[4] 外国での市場開発や、労働者の採用、技能・語学の育成、労働者管理など、労働者の送り出しにかかる一連の業務