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ちくぎん地域経済レポート2022冬季号に、福岡オフィス代表弁護士の越路倫有が執筆した「SDGs時代の「外国人労働者雇用の実務」」が掲載されました。

2022年01月19日(水)

ちくぎん地域経済レポート2022冬季号に、福岡オフィス代表弁護士の越路倫有が執筆した「SDGs時代の「外国人労働者雇用の実務」」が掲載されました。
PDF版は、以下からご確認ください。

SDGs時代の「外国人労働者雇用の実務」

 

SDGs時代の「外国人労働者雇用の最新実務」

2022年1月17日
One Asia lawyers Group
弁護士法人One Asia 福岡オフィス
弁護士 越路 倫有

1.福岡県下における外国人労働者の増加

 2018年の「出入国管理及び難民認定法」(入管法)の改正により、人手が不足している特定の14分野について「特定技能」という新たな資格が創設され、2019年4月から、一定の知識・経験を要する技能や熟練した技能を有する外国人労働者の受入れが拡大しました。

福岡労働局によると、2020年10月末の時点で、福岡県における外国人労働者数は、約5万5000人となっており、過去最高を更新しました。

 専業別では「製造業」が最も多く20.6%、次いで、「卸売業、小売業」の20.0%、「サービス業(他に分類されないもの)の15.4%となっています。

 国籍別では、ベトナムが最も多く35.2%、次いで中国(21.1%)、ネパール(15.0%)、フィリピン(8.0%)となっています。全国と同様に、福岡県においても、ベトナムのほか、ネパール、インドネシアの増加傾向がみられます。

 新型コロナウイルスの感染拡大による入国制限の影響で入国ができない外国人労働者が生ずるなどしましたが、出入国在留管理庁が「特定技能」について、在留期限をなくし、家族の帯同も認める方向で調整しているとの報道もなされており(2021年11月18日現在)、今後、少子高齢化に伴う各業界における人材不足も相まって、外国人労働者がますます増えることが見込まれます。

(2021年11月30日現在、新型コロナウイルス変異型「オミクロン株」の感染拡大により、外国人の日本への入国は原則禁止)

2.外国人を雇用する際の注意点

 ⑴ 労働法等の適用

 日本で就労する外国人労働者には、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働組合法等が適用されます。また、労災保険や雇用保険、国民年金や厚生年金保険、健康保険なども適用されます。

 さらに、労働基準法は、「国籍」を理由とする労働条件についての差別的取扱いを禁止しています(同法第3条)。また、特定技能外国人については、外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならないことが明示されています(入管法2条の5)。

 2021年4月1日から、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」)が中小企業を含めたすべての企業に適用され、正社員と非正規雇用労働者との間における不合理な待遇差の禁止(いわゆる「同一労働同一賃金」)や、待遇に関する労働者への説明義務の強化などの対応が求められるようになりましたが、これらも外国人労働者に適用されます。

 つまり、技能実習生を含め、外国人労働者を賃金、労働時間その他労働条件において、日本人と同等に処遇することが求められるのです。

 加えて、外国人労働者に対しては、日本の雇用慣行等に関する知識が不足していることが多く、また、言語や文化等の相違を踏まえた雇用管理の必要もあることから、労働条件、安全衛生教育などについて、母国語等、当該外国人労働者が理解できる方法により行うなど、きめ細やかな対応をすることも求められます(厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」等)。

 このように、外国人労働者を雇用するには、日本人を雇用する以上の手間暇やコストがかかるため、外国人の労働力を安く使うという発想では、外国人労働者を雇用することはできません。不足する日本人に代わる戦力として迎え入れる覚悟と準備が必要となります。

 ⑵ 業務委託について

 それでは、日本国内で外国人に対して業務委託をする場合はどうでしょうか。

在留資格の確認は必要になりますが、日本人と同様に業務委託をすることが可能で、この場合、労働法等の適用は受けません。

 ただし、労働法等の適用を逃れる目的で形だけ業務委託とすることがないよう(いわゆる「偽装請負」にならないよう)、業務の遂行方法や労働時間の管理、指揮命令や機材等の提供などにおける外国人受託者の独立性には十分にご注意ください。

3.外国での労務提供について

 ⑴ 外国での労務提供における日本の労働法等の適用

 それでは、日本法人の海外支店で外国人労働者を雇用する場合など、労働者が外国で労務を提供する場合にも、日本の労働法等は適用されるのでしょうか。

労働者が外国で労務を提供する場合には、労務提供地法は、外国法となるのが原則です。

 ただし、労働契約において日本法を準拠法としたり、労働契約の最密接関係地が日本であることが立証された場合(労働契約の締結、労働条件の決定、人事管理等が日本で行われている場合等)には、日本の労働法等が適用されることになります。

 また、最密接関係地が日本であると立証された場合には、仮に外国法を準拠法と定めたとしても、日本の強行規定が適用される場合もあります(法適用通則法12条1項)。

 このように、外国での労務提供についても、日本の労働法等が適用される場合がありますので、注意が必要です。

 ⑵ 外国での業務委託について

 リモートワークが進んだ現在において、ITエンジニアやデザイナーなど、海外にいながら日本の業務を行うことも可能な業種について、外国に住む外国人と個別に業務委託契約を締結することも考えられます。

 この場合も、いわゆる偽装請負にならないよう注意する必要がありますし、必ず準拠法や仲裁地等を網羅した業務委託契約書を締結してください。源泉徴収等の税務についての確認も忘れないようにしてください。

4.SDGsと外国人労働者の雇用

 2020年10月、日本でも「「ビジネスと人権」に関する行動計画」が策定され、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に当たっては、人権の保護と促進が重要な要素と位置付けられました。同計画において、企業に対し、企業活動における人権への影響の特定、予防・削減、対処、情報共有を行うことや、人権デュー・ディリジェンスの導入促進への期待が表明されています。

 現在、日本企業の国内におけるサプライチェーンの適正化・透明化が課題とされており、外国人の雇用については厳しい目が向けられています。技能実習生を酷使するなどの外国人の不法な雇用や人権侵害が発覚した場合には、不買運動(風評リスク)、取引先からの訴訟(リーガルリスク)、融資や投資の引き上げ(財務リスク)などによる、厳しい責任追及をされることになりかねません。

 現在、外国人労働者を雇用する際には、特に「人権」を強く意識することが求められるといえるでしょう。