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日本における所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の改正について

2022年05月09日(月)

日本における所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の改正

 

日本:所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の改正

2022年5月7日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

1. はじめに

 2022年4月27日、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律案(以下、「本改正法」といいます。)が、参議院本会議にて全会一致で可決されました。人口減少・少子高齢化が進行し相続件数が増加する一方で、ニュースレター「日本:賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解説」(2022年1月7日発行)でも取り上げたように、持家よりも賃貸住宅を指向する消費者の割合が増加傾向にある等、土地の利用ニーズの低下、所有意識の希薄化等により、所有者が確知できない土地(所有者不明土地)の増加が見込まれています。そのため、その利用の円滑化と促進、管理の適正化は喫緊の課題となっており、本改正法は、このような問題意識を反映したものとなります。本改正法は、公布日(現時点では未定)から6カ月を超えない範囲で施行されることとなります。

2.本改正法の概要

 ⑴ 本改正法の骨子

   本改正法では、①所有者不明土地の利用円滑化の促進、②所有者不明土地における災害等の発生防止に向けた管理の適正化、③所有者不明土地対策の推進体制の強化の3点に係る改正が行われました。

 ⑵ 所有者不明土地の利用円滑化の促進

   所有者不明土地は、所有者の意思確認ができないことから、その土地利活用が制限されている現状があります。そのため本改正法では、利活用の可能性を広げるため、主に地域福利増進事業に関連して、以下の改正が行われました。

  ⅰ 地域福利増進事業の拡充

    現行法では、地域福利増進事業として、公民館や病院、公園等の整備に関する事業等が対象となっていたところ、これらに加え、備蓄倉庫等の災害関連施設や再生可能エネルギー発電設備の整備等に関する事業が追加されました。地域福利増進事業に該当する場合、所有者不明土地を当該事業に利活用できるようになり、同時に当該土地の適切な管理が期待されます。対象事業が追加されることで、所有者不明土地の一層の利活用・管理の適正化が促進されることとなります。

  ⅱ 地域福利増進事業の事業期間の延長等

    現行法では、購買施設や再生可能エネルギー発電設備等を民間事業者が整備する場合、土地の使用権の上限期間が10年とされていますが、本改正法により、20年に延長されることになります。また、事業計画書等の縦覧期間は6月から2月に短縮されました。

  ⅲ 地域福利増進事業等の対象土地の拡大

    本改正法により、損傷、腐蝕等により利用が困難であり、引き続き利用されないと見込まれる建築物が存する土地であっても、地域福利増進事業や土地収用法の特例手続の対象として適用されることとなりました。

 ⑶ 災害等の発生防止に向けた管理の適正化

   所有者不明土地は、その管理が適切に行われないことから、重大な災害発生や周辺環境の悪化の危険性が危惧されるところです。本改正法では、行政が所有者不明土地の適正な管理に向けた諸措置を講ずることができるように、以下のような改正が行われました。

  ⅰ 勧告・命令・代執行制度

    今後引き続き管理が実施されないと見込まれる所有者不明土地等について、周辺の地域における災害等の発生を防止するため、市町村長による勧告・命令・代執行制度が創設されることとなりました。同制度は、管理が実施されておらず、今後も管理が実施されないことが確実であると見込まれるもの(管理不全所有者不明土地)について、災害の発生等の防止が必要かつ適当であると認められる場合に、市町村長が当該土地の所有者に対して、災害などの発生防止のための必要な措置を講ずるよう勧告、災害等防止措置命令することができ、また、当該措置の代執行を行うことができることを内容とします。

  ⅱ 管理不全土地管理制度に係る民法の特例

    引き続き管理が実施されないと見込まれる所有者不明土地等について、民法上利害関係人に限定されている管理不全土地管理命令の請求権を市町村長に付与することにより、行政によって土地管理をできるようにしました。この管理不全土地管理制度(所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利等が侵害されるような場合に、裁判所の命令によって、管理不全土地管理人を選任する制度)は、令和3年に成立した民法改正(一部遡求適用がありますが、施行は2023年4月1日となります。)によって新たに制定された制度ですが、土地管理をより一層促進するため、本改正法によって適用対象が拡大されることとなりました。

  ⅲ 管理の適正化のための所有者探索の迅速化

    ⅰの勧告等の制度の創設に伴い、その前段階として、土地の所有者の探索のために必要な公的情報の利用・提供を可能とする措置が導入されました。

 ⑷ 所有者不明土地対策の推進体制の強化

   先に説明したとおり、所有者不明土地の更なる増加が予想される中、今後の関連施策の実施に係る体制を整備・強化するための改正も、本改正法にて組み込まれました。

  ⅰ 所有者不明土地対策に関する計画制度及び協議会制度

    市町村は、所有者不明土地の利用等に係る施策に関して、所有者不明土地対策計画の作成や所有者不明土地対策協議会の設置が可能となりました。

  ⅱ 所有者不明土地利用円滑化等推進法人の指定制度

    市町村長が特定非営利活動法人や一般社団法人等を所有者不明土地利用円滑化等推進法人(以下、「推進法人」といいます。)として指定する制度が導入されることになりました。推進法人は、市町村長に対して、計画作成の提案や管理不全土地管理命令の請求を要請することが可能であり、市町村の人的リソースを補い、所有者不明土地対策を一層推進することが期待されます。

  ⅲ 国土交通省職員の派遣の要請

    市町村長は、計画の作成や所有者探索を行う上で、必要に応じ、国土交通省職員の派遣の要請が可能となりました。行政職員の不足や地方の地町村におけるノウハウ不足を解消するための措置として期待されます。

3.おわりに

  本改正法の施行後5年間の運用目標を、①地域福利増進事業における土地の使用権設定が累計75件、②所有者不明土地対策計画の作成数が累計150件、③推進法人の指定数が累計75団体とすることが示されており、今後、本改正法を皮切りに、所有者不明土地の更なる利活用・管理に向けた施策が各自治体においても実施されることが期待されます。各社、新たな事業展開に際して、本改正法及び関連施策を有効活用することも想定されますので、今後の動向を注視いただきたいところです。