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シンガポール国際仲裁センター/2021年仲裁実績報告

2022年05月13日(金)

シンガポール国際仲裁センター/2021年仲裁実績報告についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

シンガポール国際仲裁センター/2021年仲裁実績報告

 

シンガポール国際仲裁センター/2021年仲裁実績報告

2022年5月
One Asia Lawyers シンガポール事務所
Focus Law Asia LLC
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

 シンガポール国際仲裁センター(SIAC)は、2021年版年次報告書を発表した。本稿においては、SIACの年次報告書に基づき、2021年のSIACにおける国際仲裁の状況について記載する。

1 2021年仲裁新規案件数、係争総額

 2021年において、SIACは469件の新規案件が開始され、SIACにおいて過去で3番目に高い事件数を記録したとのことである。SIACが取り扱った469件のうち、446件(95%)はSIACが管理する案件となっている。残りの23件(5%)は、アドホック仲裁となっている。下記の表の通り、SIACの事件処理件数は5年連続で400件を超えている。

 なお、2020年の新規事件数は1080件であり、この数字がコロナ禍による紛争の増加などを受けた一種特殊な数値であったことが分かる。

 SIACの2021年の係争総額は65.4億米ドル(SGD88.5億、約8300億円)となっている。1件の管理案件の最高紛争額は19億5000万米ドル(SGD26億4000万、約2300億円)で、これは2020年の最高紛争額から倍増したとのことである。

2 簡易仲裁などの実績

 SIAC規則2016に基づく手続きは引き続き利用されており、2020年からは簡易仲裁(Expedited Procedure)、早期却下(Early Dismissal)、併合(Joinder)などの申請件数が増加した。

 特に簡易仲裁(Expedited Procedure)が93件、緊急仲裁(Emergency Arbitrator)が15件と、簡易仲裁・緊急仲裁が引き続き利用されていることが分かる。また、簡易仲裁は93件の申し立てが行われたものの、26件のみがAcceptされている一方、緊急仲裁は15件のうち全件がAcceptされたこととなっており、簡易仲裁は成功率が低い一方、緊急仲裁の成功率が非常に高いことが分かる。

 その他多数当事者に関連する手続きも頻繁に利用されていることが分かる。

3 仲裁の当事者

 2021年に64法域の当事者がSIACでの仲裁を選択し、2020年の60法域から増加した。SIAC に新たに申請された事件の 86%は国際的な仲裁(International Cases)となっており、国内仲裁(Domestic Cases)は14%の64件のみとなっている。

 インド、中国、米国が引き続き外国当事者の利用者ランキングの上位を占め、その他の外国人利用者トップ10は、Civil LawおよびCommon Lawの両法域の当事者からなり、SIACでは2020年と比較して、香港特別行政区、マレーシア、韓国、UAE、ウクライナ、ベトナムの当事者数が増加した。

 日本は13件と2020年と比較して、件数は減少している。

4 紛争の類型

 紛争の類型としては、143件がTrade、111件がCommercialとなっており、一般的な契約に関する紛争が過半を占めることとなった。また、Corporate関係が66件となっている。

 他方、Maritime/ ShippingやConstruction/ Engineeringになどの専門的な紛争は20%程度となっている。

5 準拠法

 SIACにおいて紛争となった場合、合計21法域の準拠法が用いられており、そのうちシンガポール法が52%を占め、19.6%がイギリス法となっている。このため、引き続き、コモンローの法律が準拠法として利用されていることが分かる。

 日本法は準拠法として採用されたケースはなかったと思われる。

6 仲裁人

 選任された仲裁人は、シンガポール人が116件、イギリス人が110件、オーストラリアが27件、アメリカが25件、インドが18件、マレーシアが16件となっており、コモンローの法域で75%以上が占められていることが分かる。

 その後、シビルローの法域からは、中国が10件、ドイツが7件となっているが、その割合は極め低い。日本は1件のみとなっている。

7 まとめ

 以上のように2020年のような特殊な数字を除けば、SIACにおける対応案件は、順調に増加しており、そのほとんどが国際案件である。そして、その中でコモンローの準拠法・仲裁人が占める割合は極めて高く、アジアにおいて展開する日本企業も、コモンローの理解が益々重要になるといえよう。