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オーストラリアにおける企業結合規制の概要について

2022年06月03日(金)

オーストラリアにおける企業結合規制の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア競争法:企業結合規制の概要

 

オーストラリア競争法:企業結合規制の概要

2022年6月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.競争法の概要

 オーストラリアの競争関連規制は、Consumers and Competition Act 2010 (Cth)(以下「本法令」という)に規定されています。本法令の規制当局は、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC:Australia Consumer and Competition Commission)です。本法令の競争法に関連する規制事項は、大別して以下の通りです。

・ カルテル条項
  -価格カルテル(Price Fixing)
  -生産調整(Output Restriction)
  -市場分割(Market Division)
  -入札談合(Bid Rigging)

・ その他違反行為
  -協調行為(Concerted Practice)
  -市場支配力の濫用(Misuse of Market Power)
  -排他的取引(Exclusive Dealing)
  -再販価格調整(Resale Price Maintenance)

・ キャッチオール規制
  -競争を実質的に減少させる(Substantially Lessening Competition)目的または効果をもつ契約、取決め、理解の形成の禁止

・企業結合(Mergers)

 本稿では、日系企業がオーストラリアにて企業買収を実施する際に特に留意されたいオーストラリアの企業結合に関する規制の概要についてご紹介いたします。

2.企業結合に関する規制

 競争法上の企業結合に関する規制は、Competition and Consumer Act 2010 (Cth)の第50条に規定されており、具体的には、競争を実質的に減少させる(Substantially Lessening Competition)効果をもつ、またはその可能性のある企業結合が禁止されます。競争を実質的に減少させる効果をもつ、またはその可能性があるか否かは、市場シェア等の具体的な基準が存在せず、様々な事情を考慮してケースバイケースで判断されます。第50条には、裁判所が考慮する事情の例として、以下のような事項が記載されています。

・ 市場における実際のまたは潜在的な輸入品競争の程度
・ 市場への参入障壁
・ 市場集中の程度
・ 市場における対抗力の程度
・ 買収により買手側が重大かつ持続的に価格または利益率を引き上げることができる可能性
・ 市場においてどの程度代替品が入手可能であるか、または入手可能となる可能性
・ 成長、技術革新、製品の差別化等、市場のダイナミックな特性
・ 買収により、活発で効果的な競合他社が市場から排除される可能性
・ 市場における垂直統合の性質と程度

 以上のような様々な事情を考慮して総合的に判断されるため、企業結合後の市場シェアや対象会社に対する支配権が比較的少ないにも関わらず、規制の対象となる場合も考えられます。当局は、一般的な基準として、企業結合後の市場シェアが20%を超える場合に届出を行うことを推奨していますが、これはあくまで一般的な見解であり、20%以下の場合にも、競争を実質的に減少させる可能性がある取引においては、事前に当局の審査を受けることが推奨されます。

3.当局による審査

 オーストラリアの競争法には、当局への事前の届出義務は存在しません。一方で、当局が競争を実質的に減少させる効果をもつと判断した場合に、当事者は当局から指摘を受け、企業結合の取引自体を解消すること(資産売却など)が命じられる可能性があります。そのため、競争を実質的に減少させる可能性がある取引においては、任意に届出を行うことが推奨されます。

 届出を行う場合には、公式な審査(Merger Authorisation)と非公式な審査(Informal Merger Review)のいずれかの方法を選択することが可能です。ただし、公式な審査を申請した場合にのみ、(ACCCの承認が下りた場合に)第50条に基づく責任追及から保護されます。過去の件数としては、公式な審査の実施案件は限られており、大多数の案件において非公式な審査手続きが取られています。

 ACCCによる審査が実施される場合は、一般的に、、競争を減少させる効果がないことを証明するため、市場の確定と競争への影響に関する過去の記録および将来のプロジェクション等の提出が求められます。なお、公式か非公式かを問わず、企業結合が交渉されている事実および提出される資料の機密を保持したまま審査を行うか否かは当局次第です。非公式な審査であっても、当局の判断で、外部のステークホルダー(競争の影響を受ける可能性のある競合先、取引先、消費者等)の見解を求めることが提案される場合があります(割合としては、現時点で全件数のおよそ1割強)。

 以上の通り、企業結合に関する規制は法令に詳細には規定されておらず、当局に大きな審査権限が付与されていると言えます。当局の審査方針や手続きの詳細は、ACCCの発行するガイドライン[1]に記載されています。

4.法改正の動向

 2021年8月に、当局ACCCにより、主に以下の様な企業結合の規制強化が提案されています[2]

 ①一定の基準値を満たす場合の届出義務の導入

 ②一定の市場支配力を有する当事者による企業結合が競争を実質的に減少させる効果をもつとする「みなし規定」の導入

 ③競争を実質的に減少させる効果の可能性(Likely)について広義の法定定義の追加(ACCCの立証基準を下げることが意図されています)。

 ④ACCCによる一連のデジタルプラットフォームに関する調査[3]に基づき、データ・テクノロジー分野の新興企業の買収に関する規制強化、大規模デジタルプラットフォームへの追加規制等

 当該改正の具体的な詳細は発表されていませんが、政権交代された今、新連邦政府による各分野の法改正の動きが加速される可能性があり、競争法においても、今後改正案の更なる詳細が発表されることが予想されます。弊所では今後の動向に注目しながら、最新の情報を発信して参ります。

以 上

[1] https://www.accc.gov.au/system/files/Merger%20guidelines%20-%20Final.PDF

https://www.accc.gov.au/system/files/Merger%20Authorisation%20Guidelines%20-%20October%202018.pdf

[2] https://www.accc.gov.au/speech/protecting-and-promoting-competition-in-australia

[3] https://www.accc.gov.au/focus-areas/inquiries-finalised/digital-platforms-inquiry-0

https://www.accc.gov.au/focus-areas/inquiries-ongoing/digital-platform-services-inquiry-2020-2025/september-2022-interim-report