• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

建築物への太陽光発電設備の設置義務化について

2022年06月06日(月)

日本における建築物への太陽光発電設備の設置義務化についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

建築物への太陽光発電設備の設置義務化

 

建築物への太陽光発電設備の設置義務化について

2022年6月3日 
  弁護士法人One Asia  
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

. はじめに

 2022年5月18日、東京都では、環境審議会の分科会を開催し、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」(環境確保条例)の改正に関する中間のまとめ素案(以下、「本案」といいます。)が示されました。本案の中では、カーボンハーフ(温暖化ガス半減)実現に向け、住宅等の中小規模新築建物に太陽光発電設置を義務付ける等の規定が盛り込まれています。温暖化ガス抑制、再生可能エネルギーの利用促進に向けた類似の取り組みとしては、既に京都府にて、延床面積2000㎡以上の建築物について再生可能エネルギー設備の設置を義務付けており(京都府再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例)、群馬県においても、一定規模以上の建築物の新築・増改築に当たっては再生可能エネルギー発電設備等の導入を求めています(二千五十年に向けた「ぐんま5つのゼロ宣言」実現条例)[1]

2.本案の概要

 ⑴ 骨子

   本案では、カーボンハーフの実現に向けた行動を加速し、脱炭素に向けた社会基盤を早期に確立することを目指し、建物の規模等によって、それぞれ規定の強化・拡充、新設事項を定めています。なお、本改正案における対象事項は多岐にわたるため[2]、本ニューズレターでは、太陽光発電設備等(以下、「再エネ設備」といいます。)の設置に関わる事項等を取り上げて紹介させていただきます。

 ⑵ 新築建物に関する事項

  ア 延べ床面積2000㎡以上の新築建物|発電義務量に係る最低基準の設定

    同対象建築物に対しては、建築主に環境配慮の措置を求める「建築物環境計画書制度」を定めていますが、再エネ設備の設置が3割程度に留まっていることから、新たに再エネ設備の設置に関する最低基準を設定し、太陽光発電に適した屋根に一定容量の設備が設置されるよう促進すべきとの案が示されました。この中で、「太陽光発電に適した場所(屋根等)に、一定の割合を乗じる等して設置義務量を設定」「太陽光発電の設備が困難な場合は、地中熱等他の再エネに代替して設置」等の考え方のイメージが示されており、当該対象建築物の設計や建築場所の状況に即した再エネ設備の設置が必要となります。

  イ 延べ床面積2000㎡未満の新築建物|新制度の創設、事業者単位での義務量設定

    同対象建築物は、都の定める「建築物環境計画書制度」の対象となっていないことから、新たな制度の創設が本案で示されました。新制度では、対象として都内に供給する新築中小規模建物(1棟の延床面積が2000㎡未満)の延床面積を事業者単位で合算して判断し、供給総延床面積2万㎡以上を供給する供給事業者を制度対象とすることが示されました。そのうえで、同対象事業者に対して、再エネ設備の設置に関して一定の義務量[3]を定めることで、再エネ設備の設置促進を図るものとしました。

 ⑶ 既存建物に関する事項|2050年のゼロエミッションビル化に向けた規制強化

   既存建物については、大規模事業所に対してCO₂排出総量の削減を義務化した「キャップ&トレード制度」、中小規模事業所に対して事業所ごと・事業者単位でCO₂排出量等の報告を求める「地球温暖化対策報告書制度」を導入し、気候変動対策としての取組を推進しているところではありますが、「ゼロエミッション東京戦略」[4]において、2050年に「都内全ての建物がゼロエミッションビル」を掲げていることから、既存建物においてもゼロエミッションビルが標準化されている姿を目指すため、上記新築建物への取組と同様に、再エネの利用を一層高め、建物のエネルギーマネジメント性能を高める(エネルギー利用の効率化)こととしました。概要としては、①大規模事業所に対して、温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度の強化を図るとともに、②中小規模事業所を所有・仕様して一定以上のエネルギーを使用する企業を対象に実施される「地球温暖化対策報告書制度」の強化を図ることを掲げています。

3.今後の展望

  本国においては、2021年8月公表の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方・進め方」にて、「2050年において設置が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備が設置されていることが一般的となることを目指し」「2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す」等を提示しており、今後も各都道府県において東京都等と同様に設備設置義務化の動きは進んでいくものと思われます。そのため、各事業者においては、事業地域における法令改正の動向は注視していく必要がありますし、使用する契約書・約款等についても、改正状況に照らしたアップデートが必要とならないか、定期的に確認する意識を持っていただきたいところです。

[1] このほか、京都市、福島県大熊町においても太陽光発電設備等の設置義務付けが定められています。一般財団法人地方自治研究機構「太陽光発電設備等の建物への設置を義務づける条例」(令和4年5月27日作成)参照。

[2] 本案の全体像・詳細に関しては、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)の改正について(中間のまとめ(案))」をご確認ください。

https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/basic/conference/council/kikaku.html

[3] 義務量の算定に当たっては、住宅等の「年間供給棟数」に対して「設置可能率」及び「1棟当たりの最低基準」を乗じることにより算定し、対象事業者単位で送料として義務量を課す仕組みとすることで、事業者が柔軟に義務履行できるよう規定されることが想定されています。

[4] 2050年にCO₂排出実質ゼロに貢献するとして、2019年5月に東京都により宣言されたもので、6分野14政策を体系化し、2050年に目指すべき姿(ゴール)とロードマップを明示する等している。

 

以上