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マレーシアにおける商標登録の概要について

2022年06月13日(月)

マレーシアにおける商標登録の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける商標登録の概要

 

マレーシアにおける商標登録の概要

2022年6月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士 橋本有輝
マレーシア法弁護士 Najad Zulkipli

1. はじめに

商標は、マレーシアで最もよく知られた知的財産の一つです。2019年に制定された商標法(The Trademarks Act 2019、以下「商標法」)は、商標の登録に関する仕組み、商標登録者の権利及びその救済を規定しています。

マレーシアでは、マレーシア知的財産公社(MyIPO)がマレーシアの知的財産システムの開発と管理を担っており、商標法を含む知的財産権に関する法律の管理及び執行を行っています。

本稿では、マレーシアにおける商標登録の仕組みの概要について、また、ブランド名を法律に基づいて登録することの重要性について説明します。

2. 商標(Trademark)とは?

「商標」とは、ある事業者の商品または役務を他の事業者のものと区別することができる図案化可能な標識をいいます[1]

ここでいう「標識(Sign)」は、任意の単語、文字、名前、署名、数字、ブランド、ラベル、形状、色、音、香り、ホログラム、位置、動きのシーケンス、またはそれらの組み合わせを含むことができます[2]

このように、貴社のブランドを表す上記のカテゴリーは、貴社のブランドが確実に保護され、貴社のビジネス取引においてそれを使用する独占権を有するために、マレーシアで商標登録することが可能です。

3. 商標の登録

マレーシアではMyIPOが知的財産制度を管理しているため、商標登録の出願も、同機関の定める一定の条件及び手続きに従って、MyIPOに対して行う必要があります。

3.1 申請の流れ(概要)

登録申請の手続きは概ね以下の通りであり、登録までに要する期間は、凡そ12から18カ月とされています。

Step 1:           申請に係るMarkが他者によって既に登録がなされていないかを確認するためのPreliminary searchの実施

Step 2:           MyIPO登録機関に対する申請 (窓口又はオンライン[3]による申請).

Step 3:           申請が法定要件を充足しているかを確認する審査の実施

Step 4:           登録機関は、上記を充足を確認した後、商標候補につき公報を行い(publication of the trademark)、公からの異議申立の機会を付与します (異議申し立ては広告の日から2カ月以内となります)。

Step 5:           仮に何ら異議申立がなかった場合、登録通知がなされることで、商標の登録は完了します。

3.2 有効期間

商標の有効期間は、申請から10年で、申請すれば10年毎に更新可能です。

3.3 外国法人が申請する場合の注意点

申請者が外国法人である場合、マレーシア現地の商標申請代理人を任命しなければならないことに注意してください。

4. 登録できない標識

MyIPOで商標登録できる標識には様々な種類がありますが、ある一定の標識はマレーシアでは登録できません。そのため、商標の登録を希望する場合は、その名称が以下に該当しないことを確認する必要があります。

4.1 登録できない場合

 (i) 禁止マーク

  その使用により、公衆を混乱させたり、欺いたりする可能性がある場合、または法令に違反する場合

 (ii) スキャンダラスなもの、不快なもの

  スキャンダラスまたは不快な内容を含んでいる場合

 (iii) 国家の利益または安全保障に不利なもの

  商標が国家の利益や安全保障を害する可能性がある場合

4.2 申請却下の根拠               

上記に加えて、商標法第23条および第24条に規定された一定の理由に基づいて、出願が却下される場合があります。その根拠は、絶対的根拠と相対的根拠の2つに分けられます。これらの理由には、申請に係るMarkに、識別力がない、既存の登録商標と同一である、商品又はサービスの性質、品質又は地理的起源について公衆を欺き又は誤解させるおそれがある商標、公衆及びその他の者に混同が生じるおそれが存在する場合、等がこれに該当します。

5. ブランド名を商標登録する利点

5.1 ブランド名の保護

ブランド名につき商標登録を行うことは、ブランド名を保護するにおいて極めて重要です。ブランド名を商標登録することで、その使用につき排他的使用権を持ち、他者による無権限の使用から保護を受けることが来ます。

5.2 不正使用に対する民事訴訟

商標法は、登録商標、公衆に混同を引き起こす可能性のあるその他の類似若しくは同一のマークを使用した、または使用しようとした無許可の使用者に対して、知的財産権の侵害を根拠に民事請求を行うことができる救済措置を定めています。

商標法第54条は、「登録名義人の承諾を得ないで、業として、その商標と同一の標識を、その登録の対象となる商品又は役務について使用したとき、登録商標を侵害する」と規定しています。

これに関する判例として、Danone Biscuit Manufacturing (M) Sdn Bhd v Hwa Tai Industries Bhd の事例があります。Danone(原告)は1990年から“ChipsMore”チョコレートチップを製造・販売しており、Hwa Tai(被告)は“ChipsPlus”の商標を持つチョコレートチップクッキーの別の製造業者です。

原告は、被告の商標である“ChipsPlus”が“ChipsMore”に類似しており、公衆に混同を生じさせ、顧客を欺く可能性が高いとして、被告に対し商標権侵害訴訟を提起しました。また、パッケージも類似していたため、不法行為法上の「パッシングオフ」を根拠に請求も行いました。判決は、“ChipsPlus”は同一の商品につき“ChipsMore”の標識と類似しており、欺瞞や混同を引き起こす可能性があるとして、商標権侵害であると判断し、原告が勝訴しました。

6. 結論

以上の通り、マレーシアにおける商標申請の概要及び商標申請によって得られる保護の概要を述べました。我々は、Preliminary Searchの実施をはじめ、商標申請に関するアドバイスを提供しています。

商標法に関する法的アドバイスをご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

 

[1]商標法第3条1項 “Trademark” means any sign capable of being represented graphically which is capable of distinguishing goods or services of one undertaking from those of other undertakings”

[2] 商標法第2条

[3] https://www.myipo.gov.my/en/home/