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チュニジアの投資規制と法制度について

2022年06月13日(月)

チュニジアの投資規制と法制度についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

チュニジアの投資規制と法制度

 

チュニジアの投資規制と法制度

2022年6月13日
One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム[1]
インフラ輸出リーガルプラクティスチーム

2022年8月に控える第8回アフリカ開発会議「TICAD8」は、2016年のケニア以来2回目のアフリカ開催となる、チュニジアでの開催が決定しています[1]。前回2019年のTICAD7では、政府や民間企業から1万人以上が参加する中、特に「ビジネス促進」が議論の中心となり、対アフリカ民間投資を日本政府として全力で後押しすることを表明していることから、民間企業のアフリカ進出がますます期待されています。

今回は第4弾として、チュニジアの各種投資規制と法制度を紹介して参ります。

なお、南西アジアプラクティスチーム代表の志村弁護士は、チュニジアに3ヶ月間駐在経験があり、現地法律事務所とのコネクションや法事情に通じています。

ナイジェリアhttps://oneasia.legal/7141)、南アフリカhttps://oneasia.legal/7734)、エチオピアhttps://oneasia.legal/7938)も公開しています。

 

【チュニジアの概要】

国名

チュニジア共和国

首都

チュニス

ISO国名コード

TN、TUN

面積

16万3,610平方キロメートル

人口

1,182万人(2020年)[2]

言語

アラビア語(公用語)、フランス語

民族

アラブ人(98%)、その他(2%)

宗教

イスラム教スンニ派(その他ユダヤ教、イスラム教シーア派、キリスト教が少数)

政治体制

政体:共和制

元首:カイス・サイード大統領(2019年10月就任)

議会:国民代表議会

政府

首相 ナジュラ・ブーデン=ラマダーン(同国初の女性首相、2021年9月就任)

外相 オスマン・ジェランディ

通貨

チュニジア・ディナール(TND)

会計年度

1月1日~12月31日

1.地理

チュニジアは、北アフリカに位置し、西はアルジェリアと、東はリビアと国境を接している。国土の北部と東部の海岸線は地中海に面した地理的条件から、歴史上重要な土地とみなされてきた。

北部や沿岸部は観光開発が進んでおり、南部や内陸部との、地位間経済格差が課題である。

2.人口

人口は1,182万、生産年齢人口(15~64歳)は全人口の66.8%。北アフリカ諸国に比べて人口増加率は1.1%(2020年)[3]と低く、平均寿命も77歳とアフリカで最も高い国の1つである。

失業率の高さが大きな課題であり、後述するように、革命当時2011年の失業率[4]は18.3%、なかでも高学歴層の失業率[5]は年々悪化しており、2005年の14%から、2011年には29%にまでのぼっていた。革命後も現在に至るまで失業率は高止まりしており、2021年は16.8%(高学歴者は最新2017年の統計で29%)である。

【人口動態(1,000人)】

1990

1995

2000

2005

2010

2015

2020

8,243

9,125

9,708

10,107

10,635

11,180

11,819

3.国家・政治体制[6]

国家元首である大統領の任期は5年、再選は一度まで(憲法75条)。首相は大統領により任命され、任期の定めはないが、アラブの春以降の2011年から現在までの10年間に9人の首相が就いている。

特に近年は、2020年2月にファフファーフ新首相率いる新内閣が発足するも5カ月弱で同氏が辞任、同年9月に発足したムシーシー新政権では、新型コロナ感染拡大に伴う経済悪化に対する政府の対応への不満から反政府抗議デモが続く中、2021年7月にサイード大統領が首相解任と議会の停止(憲法第80条に基づく緊急事態における大統領特別措置[7])を発表し、大統領が行政権も掌握する措置をとるなど政治的混乱が続いている。同年10月にブーデン現首相による新内閣が誕生しているが、先の特別措置は再延長されるだけでなく大統領の権力集中を強化する追加措置が大統領令により発表されている。

サイード大統領による強権的な手段に対し、2022年3月には、停止措置の中で議会が強行開催され、先の大統領令の無効化が可決。これを受け大統領は議会を解散し、憲法および選挙法改正の是非を問う国民投票を7月25日に実施する方針を示しており、また重要な国政選挙も2022年内に予定されることから、今後の国の在り方が注目される。

チュニジアは、2010年12月に失業中の青年が警察に抗議して焼身自殺を図ったことで、民主化を求める反政府デモが全土に広がり、翌11年1月14日にベン・アリ大統領はサウジアラビアに亡命、23年間続いた独裁政権が崩壊した。

このアラブの春(「自由と尊厳の革命」)を機に2014年に改正された憲法では、大統領は外交や安全保障を、首相は内政を担うことで権力の分散が図られ、民主化を実現した成功例として見なされてきたが、サイード大統領が「大統領制」へ移行させようとしていると危惧する声が上がっている。

4.法制度[8]

チュニジアの法制度は、フランスの保護領時代(1881年~1956年)の影響を受けたフランス民法に基づく大陸法(Civil Law)と、イスラム法(シャリーア)の混合法体系である。最高法規となる憲法は、2010年のアラブの春をきっかけに改正され、2014年に新憲法が制定されている。なお、この新憲法制定にあたっては、「チュニジア・ナショナル・ダイアログ・カルテット[9]」と称される団体が与野党間協議を仲介し世論をまとめ、民主化移行に寄与した功績により、2015年にノーベル平和賞を受賞している。

民主的プロセスで制定された憲法は、人権尊重、男女平等、信教の自由などが定められ、民主的な内容となったことから、革命後に台頭したイスラム勢力と非宗教の世俗派が、平和的に妥協してまとめた点からも「アラブ革命後の政権移行のモデル」と評価されている。

イスラム教を国教とするものの、イスラム法には言及しないことでイスラム政党アンナハダが譲歩した形となっている。

しかしながら、首相が主な行政権を握り、大統領が国防・外交政策などの方針を決めることで権力を分散させた政治体制は、前項のとおり混乱をきたしていると言える。

司法は、大審院/最高裁(Cour de Cassation)、控訴院(appellate courts)、第一審裁判所(courts of first instance)から構成される。

※大審院(Court of Cassation、「大審院」、「破棄院」)は、フランスにおいて刑事および民事控訴の最高裁判所(highest court)であり、下級裁判所の決定を破棄する(casser)権限を持つ。高等裁判所は、下級裁判所が法律を正しく適用したかどうかという観点からのみ判決を検討し、事件の事実関係を扱うことはなく、再審も行わない。大審院の目的は、すべての裁判所の間で法の解釈の統一を図ることにある。米国や日本の最高裁判所、ドイツの憲法裁判所のように、特定の法律そのものが合憲かどうかを判断することはない。

5.通貨・経済状況[10]

通貨は、1USドル=3.05TND(2022年5月現在)。世界銀行の低中所得国(Lower middle income countries)に分類される。

主な経済指標と推移は以下のとおり。1990年代からアラブの春までのチュニジア経済は、年率平均4.5%と比較的安定した成長を遂げていた。

指標

2016

2017

2018

2019

2020

名目GDP(10億USドル)[11]

44.4

42.2

42.6

41.8

41.6

1人当たり名目GDP(USドル)[12]

3,924

3,688

3,681

3,575

3,522

GDP成長率[13]

1.1%

2.2%

2.5%

1.4%

▲9.2%

1987年の大統領就任から2011年の国外退去まで23年間続いたベン・アリ政権(2014年の改憲により現在の大統領は任期5年、再選1回まで)は、高い教育水準や経済成長を実現したものの、ベン・アリ一族の利権支配や汚職、若年層の高い失業率、地域間の経済格差、政府による自由や人権の抑圧といった強権支配に対し、民衆の不満は高まっていた。

ベン・アリ大統領が国外亡命した2011年1月14日の革命以降、下図のとおり、2011年の経済成長率はマイナス1.7%にまで激減している。これは、失業問題をめぐる労働争議や抗議活動、サラフィスト(シャリーア(イスラム法)の実現を求めるイスラム急進派勢力)による暴力活動等により経済活動が大きく影響を受けた他、世界中に政変が報道されたことによる外国人観光客の激減、新規投資の減少等による一時的なもので、翌2012年には一旦回復している。

しかしながら、革命後も政権が繰り返し交代するなど政治的な不安定が続き、地域間の経済格差や雇用問題が改善されたとは言えず、依然として課題である。また、前述のとおりコロナ禍による経済悪化が深刻化しており、今後の経済回復が期待される。

6.産業

チュニジアの主要産業は観光・ICT等のサービス業、繊維・電気部品等の製造業、鉱工業、小麦・大麦・柑橘類・オリーブ・なつめやし等の農業等である。

主要な貿易相手国は、輸出入ともにフランス、イタリア、ドイツ等の欧州である。

産業ごとのGDP寄与率[15]は、農業が10.1%、工業が26.2%、サービス業が63.8%(2017年)と、同じマグリブのモロッコと類似した産業構成となっている。

7.外国投資

チュニジアには、2021年時点で3,650社以上の外国企業が活動している[16]。外国投資は首都チュニスとその近郊(46%)、北部沿岸地方(23%)、北西部(14.4%)、東部沿岸部(12%%)に集中している。

日本企業については、2020年時点で24社が拠点を設けている[17]

世界銀行の「Doing Business 2020」[18]では世界190カ国中78位であり、課題は多いものの、起業のしやすさ(Starting a Business)ではスコア100中94.6で世界19位である。Doing Business 2020の国別レポート[19]によると、起業までの手続き所要日数は9日間と、中東・北アフリカ地域平均の19.7日間を大きく下回る。

外国企業がチュニジアで事業を行う際の投資促進機関として、チュニジア外国投資促進機関(FIPA)[20]が、開発・投資・国際協力省[21]の管轄下に設置されている。

また、外国投資の受入れ窓口として産業・技術革新促進庁(APII)[22]があり、株式会社設立にかかる申請はオンラインで手続きが可能。事務所はチュニス、スース、スファックスの3か所にある。

株式会社の設立手続きは、24~72 時間で行われる。オンラインの申請が可能。

【入国1ヶ月以内の携帯端末登録義務:Sajalniサービス[23]

2021年2月1日以降、チュニジア国外から持ち込んだスマートフォンなどの情報端末は、入国後1ヶ月以内に登録をすることが義務化されている。これを怠ると、1ヶ月経過時にSIMカードに紐づく端末がブロックされ、国内通信ネットワークが使用できなくなる可能性がある

運用開始までに移行期間が設けられてはいたものの、当該義務に関する情報の周知がなされておらず、SIMを販売する通信会社側も購入者に対し特段の説明をしないことも多く、入国1カ月後に携帯電話が突如使用できなくなるケースが多発している。

このSajalniの目的は、海外からの違法または偽造ルートで輸入される携帯端末で国内市場が混乱することを防止することにある。そのため、現地でSIMカードを購入した場合、最大30日間ネットワークへの一時アクセスが提供される「サービス」制度とされる。

ただし、1)登録サイト(https://sajalni.tn)は、端末の設定やセキュリティソフトの違い等により、アクセス自体ができないこともある、2)登録サイトで登録をしても手続きが完了したのか不明で進捗もフォローできない、3)SIMカード発行会社の対応にも差異があり、1ヶ月経過後に未登録の場合に音声通話はできなくなってもネット通信はできるというケースも多い、等の混乱も多く、手続等詳細について今後改善される可能性はあるものの、長期滞在を計画する場合には事前の準備が必須となる。

(1)投資規制

投資に関わる主要な法律である「投資法」[24]は、2016年に大きな改定がなされ、2017年4月に発効している。同法では、チュニジアへの自由な投資という原則が改めて示された他、外国人投資家による資金の海外送金の自由化(同法9条)や、非農業用不動産の所有、賃貸、利用(5条)が認められるなど、チュニジアへの投資自由化の促進がはかられている。

【ネガティブリスト】

投資自体は認められるものの、投資にあたり規制当局による事前承認が必要となる分野が規定されている。これはいわゆる「ネガティブリスト」と呼ばれ、投資法第4条では、国家安全保障や環境保全等の観点から、許認可の対象となる分野のリストやその手続き、条件等は、政令により定めるものとしている。

同法に基づき2018年に制定された政令(Governmental Decree No. 2018-417)では、許認可が必要となる100の分野が列挙され、天然資源、建設資材、陸上・海上・航空輸送、銀行・金融・保険、危険・汚染産業、健康、教育、通信等が該当する。また、プロジェクトの実施に必要な許認可143件の一覧も示されている。

ただし、同政令はアラビア語およびフランス語によるもののみであり、特に日本等のアラビア語やフランス語圏外の国からの投資家には障壁となり得る。

【投資許可】

さらに、手続きに関し、規制当局による投資の承認期限は原則60日以内と規定され、この期間内に回答がない場合、当該投資申請は承認されたものとみなされ、投資許可が交付されることと定められている(投資法4条)。

【最低資本金】

非公開有限責任会社であれば1,000TND(約4万3千円)、公開有限責任会社は5,000TND(約21万円)の最低資本金が必要(会社の形態は後述)。

【利益の本国送還】[25]

外国貿易および外国為替規制は、以下の外国為替・貿易法典、外国貿易法、およびその施行規則に基づく。

1976年1月21日制定法律N° 76-18(Code des changes et du commerce extérieur)

1994年3月7日制定法律N° 94-41(Loi n° 94-41, relative au Commerce Extérieur)

外為規制に基づく居住者・非居住者は以下のとおり分類され、非居住者として扱われる場合は、規制の適用対象外となり、投資による利益や株式売却益を自由に国外送金ができる(法律N° 76-18第1条)。

輸出専門の在外企業、チュニジア国内の輸出企業、経済活動地区(フリーゾーン)入居企業を除き、輸出または外国で受けた収益は、チュニジア通貨で銀行口座に納める必要がある。

居住者

Ÿ   チュニジアに2年以上居住し、チュニジアで活動する外国籍の個人

Ÿ   チュニジア国内で活動する法人(外国法人含む)

Ÿ   チュニジア居住のチュニジア国籍の個人、在外勤務のチュニジア人公務員

非居住者

Ÿ   非居住者である個人(国籍問わず)が資本金の66%以上を兌換通貨の輸入により保有する企業

Ÿ   投資促進制度内で設立された輸出専門企業

Ÿ   ビゼルタ(Bizerte)およびザルジス(Zarzis)のフリーゾーンに設立された企業

Ÿ   非居住者銀行(非居住者を主に顧客とし、チュニジア法に基づき設立された金融機関・銀行で、本社が海外にある法人)

Ÿ   海外で活動するチュニジア人または外国法人

Ÿ   チュニジアに居住していない外国籍の個人、2年以上海外で居住・活動するチュニジア国籍の個人、チュニジア勤務の外国人公務員

【貿易協定】

チュニジアは、その地理的な優位性のみならず、EUやアフリカ各国と貿易協定などを締結していることから、進出する外国企業はチュニジアを拠点として、100ヶ国以上の市場へのアクセスを享受することができる。

主な貿易協定等は以下のとおり[26]

EU

自由貿易協定(FTA)を含む連合協定(Association Agreement)(1995年締結、1998年発効)

ü  工業製品の双方向貿易は関税完全撤廃済み

ü  農業農業食品水産品サービス分野に関しては、特定の製品について段階的な貿易関税引下げに合意済み

非関税障壁の撤廃、農業分野の関税撤廃、サービス業や公共調達の自由化等を目指すALECA(またはDCFTA、高度かつ包括的な自由貿易協定)[27](2015年交渉開始)

ü  チュニジア経済のEU単一市場への統合強化、チュニジアの経済改革支援、貿易関連分野におけるチュニジアの法律をEUの法律に近づけること、工業製品に限定された関税撤廃に関する連合協定の分野拡大等を目的とした協定

ü  第4回交渉(2019年4月-5月)では、農業、サービス、持続可能な開発等が議論されたものの、現時点での成果は限定的

アラブ諸国

大アラブ自由貿易地域(GAFTA)[28](1998年発効)

ü  MENA(中東・北アフリカ)地域18カ国間での、農業・工業製品等、ネガティブ品目を除くすべての製品が自由化、関税撤廃済み

ü  加盟18ヶ国:アラブ首長国連邦、アルジェリア、イエメン、イラク、エジプト、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリア、スーダン、チュニジア、バーレーン、パレスチナ、モロッコ、リビア、レバノン、ヨルダン

東南部アフリカ

東南部アフリカ共同市場(COMESA)[29](1994年発足)

ü  加盟国間の関税や非関税障壁を削減し、地域統合による経済的繁栄を目的とした地域機関であり、自由貿易地域(FTA、現在16ヶ国が加盟)、関税同盟、インフラ開発等を促進

ü  チュニジアは2018年にCOMESA加盟、2020年にCOMESAのFTA加盟

ü  COMESA市場に輸出される工業製品、農産物、水産品、手工芸品は、関税やその他費用・税金は免除

ü  現在以下のアフリカ21カ国が加盟:

ブルンジ、コモロ、コンゴ民主共和国、ジブチ、エジプト、エリトリア、エチオピア、ケニア、リビア、マダガスカル、マラウイ、モーリシャス、ルワンダ、 セーシェル、スーダン、エスワティニ、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ、チュニジア、ソマリア

エジプト、モロッコ、ヨルダン

アガディール協定(2004年調印、2006年発効)

ü  チュニジア、エジプト、モロッコ、ヨルダンの4ヶ国の締約国における農業・工業製品の関税や輸入割当枠撤廃済み

ü  レバノン、パレスチナが2020年に協定に加盟

アフリカ

アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)[30](2019年発効、2021年運用開始)

ü  アフリカ連合(AU)が発足した機関

ü  AU加盟55ヶ国中、43ヶ国が批准(2022年5月時点)

ü  財とサービスの単一大陸市場の創設、人と投資の自由な移動促進、大陸関税同盟確立等、アフリカ域内での貿易活性化を目的とした、世界最大の自由貿易圏

ü  5年以内にタリフラインベースで90%の関税撤廃、残り7%はセンシティブ品目として10年以内に撤廃、3%は撤廃の対象外とすると合意されている。

ü  アフリカ進出済みの日系企業のAfCFTAへの期待も高く[31]、直近では2022年3月に、英国がAfCFTA交渉と実施を支援するために最大3,500万ポンドを投じる支援プログラムの立ち上げを発表するなど、AfCFTA加盟国との貿易の将来的な拡大が期待される。

2国間FTA

モロッコ、エジプト、ヨルダン、リビア、シリア、トルコ、英国とはそれぞれ2国間FTAを締結、発行済み

(2)進出形態[32]

外国企業がチュニジアに進出する際は、以下の事業形態があり、非公開有限責任会社の形態が一般的にとられている。

形態

最低資本金

株主数

公開有限責任会社

Société anonyme (SA)

Public Limited Company

5,000TND

最低7人

合資会社

Société en commandite par actions (SCA)

Share-limited Partnership

5,000TND

1社以上のスポンサーとゼネラルパートナー

非公開有限責任会社

Société à responsabilité limitée (SARL)

Limited Liability Company

1,000TND

2人以上50人以下

一人有限責任会社

Société unipersonnelle à responsabilité limitée (SUARL)

Sole ownership with limited liability

1,000TND

1人

投資は3つのカテゴリーに分類され、各形態に応じた優遇措置が設けられている。

完全輸出企業Régime totalement exportateur

・完全に輸出を目的とした生産を行っている企業

・海外またはチュニジア国内で、海外での利用を目的としたサービスを提供する企業

・経済活動パーク内に設立され、完全輸出を行う企業とのみ事業を行う企業

オフショア企業Régime des entreprises offshores

完全輸出企業のうち、兌換通貨の輸入により、非チュニジア人または外国居住者が資本金の66%以上を保有している場合、非居住者(オフショア)とみなされる。また、貿易を行わない国に本社を置き、トップマネージャーが当該国に居住していない場合も、オフショア企業とみなされる。

非完全輸出企業・部分輸出企業Régime autre que totalement exportateur

完全輸出企業と同様の活動を行いながら、輸出による売上高が80%未満の企業

(3)土地に関する規制

外国人による土地の所有は、非農業用地であれば可能である。農業用地については、外国人による取得は禁止されているが、賃貸は認められる。

なお、チュニジア全国に現在157[33]の工業地帯があり、新規の建設も定期的に計画されている。また、経済活動地区(フリーゾーン)が、ビゼルタ(Bizerte)およびザルジス(Zarzis)に設置されており、輸出専門の産業、貿易、サービスを行う法人は利用が可能となる。土地の賃貸期間は12年間から30年間、設立にかかる手続きを一括で行う窓口が設置されているなど、メリットを享受できる。

その他、専門分野に特化したテクノパークやICT関連ビジネスのインキュベーターでもあるサイバーパークもある。

(4)労働関連法規

【雇用比率】

外国人の雇用には制限がある。法人設立から3年間は管理職の総数の30%を上限として外国人経営者の雇用が認められるが、4年目以降は10%(ただし上限人数は4人)に削減することが義務付けられ、当該割合または上限を超えて外国人管理職を雇用するには雇用当局の許可を得る必要がある(投資法6条)。

【雇用形態】

雇用は無期、有期いずれの形態でも契約が可能(労働基準法6-2条)。

・Contrat à Durée Indéterminée (無期契約:CDI)

・Contrat à Durée Déterminée (有期契約:CDD)

有期雇用については、以下の場合に契約される(同法6-4条1項)。

設立当初の業務または新規業務の遂行

・仕事量の異常な増加により必要とされる業務の遂行

・欠勤または雇用契約が停止された正社員に代わる一時的な業務

・救助活動、会社設備等の欠陥修繕のための緊急作業等の遂行

・季節労働や、慣習上またはその性質上、無期契約を利用することができない活動の遂行

ただし、前項以外の場合にも、双方の合意により、契約期間の更新を含め最長4年を限度に、有期での契約は可能とされる(同法6⁻4条2項)。この場合、期間満了後の当該労働者の採用は、試用期間を設けることなく無期雇用契約としなければならない。

有期雇用労働者であっても、同じ職務上の資格を持つ有期雇用労働者に支払われる給与を下回ってはならない(同法6⁻4条3項)。

試用期間は、労働法上は期間の定めは無いが、労働協約(Conventions Collectives ou Particulières)により以下のとおり規定される[34]

労働者 (agents d’exécution):6カ月間

監督者 (agents de maîtrise):9カ月間

経営幹部(executives):1年間

【労働時間・時間外労働[35]

原則週48時間まで。例外的な時間外労働であっても1日10時間、週60時間まで。

なお、労働時間の短縮は可能だが、週40時間を下回ることはできないと定められている(労働基準法79条)。

(ただし、農業企業の場合の法定労働時間は、有効労働日数300日、年間最大2,700時間。)

時間外労働に対する補償は、1時間あたりの基本賃金に以下の率を加算して支払うものと規定されている。

非農業(週48時間以上のフルタイム勤務)

75%

非農業(週48時間未満のフルタイム勤務)

48時間まで:25%

48時間超:50%

非農業(パートタイム)

50%

農業

25%

また、祝日の労働には200%の割増賃金の支払が必要となる(労働基準法109条)。

【週休日・祝祭日】

週休は1日(24時間)と規定されている。曜日は金土日のいずれでもよく、また、労使間の合意により他の曜日も認められている。

祝祭日は、政令または労働協約で定められる。

Jours fériés payés 有給祝日

Nouvel an 新年

1月1日

Jour anniversaire de la Révolution Tunisienne チュニジア革命記念日

1月14日

Fête de l’indépendance 独立記念日

3月20日

Jour des Martyrs 殉教者の日

4月9日

Fête de travail メーデー

5月1日

Congés Aid El Fitrイード・アル=フィトル休暇

2日間

Fête de la Réplique 共和国記念日  

6月25日

Fête de la femme 女性の日

8月13日

Congés Aid El Idhaイード・アル=アドハー休暇

2日間

Jour de l’An Hégire ヒジュラ暦(イスラム暦)新年

1日間

Fête de l’évacuation 仏軍撤退記念日

10月15日

Anniversaire du prophète Mohamed (Mouled) 預言者生誕祭

1日間

【年次有給休暇】

すべての労働者は1カ月に1日(18歳未満は月2日、18歳以上21歳未満は月1日半)の有給休暇を取得する権利を有する。勤続5年ごとに1労働日が増加されるが、年間18労働日と上限が定められている。

【契約終了】

無期雇用契約の終了には、少なくとも1ヶ月前に相手方に書面で通知することが義務付けられている(同法398条)。

【退職金】

無期雇用契約で試用期間満了後に解雇された従業員は、勤続1ヶ月ごとに1日分の給与を基に計算された退職金を受け取る権利を有する。ただし、勤続期間にかかわらず、退職金は給与の3カ月分が上限額となる(同法22条)。

以上

 

[1] インド等経由でのアフリカ進出のご相談や、海外インフラプロジェクトに関する相談が増えてきているため、南西アジアプラクティスチームおよびインフラ輸出リーガルプラクティスチームが共同して、アフリカに関する情報発信を行っています。

[1] 本ニューズレター発行時点で開催都市等の詳細は未発表

[2] 国連世界人口推計 2019 年 https://population.un.org/wpp/Download/Standard/Population/

[3] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/SP.POP.GROW?locations=TN

[4] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/SL.UEM.TOTL.ZS?locations=TN

[5] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/SL.UEM.ADVN.ZS?locations=TN

[6] チュニジア憲法、外務省、JETRO、IDE JETRO、公安調査庁、報道記事等

[7] 2014年改定憲法80条「国家の危機に際しては、大統領が、首相や国会議長と協議の上、必要とされる措置をとることができる」が適用された。

[8] チュニジア憲法、CIAワールドファクトブック、外務省等

[9] 労働組合、工業・手工業連合会、人権団体、弁護士会の4団体からなる。

[10] 世界銀行、外務省、JICA、JETRO、IDE JETRO、公安調査庁、報道記事等

[11] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?locations=TN

[12] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.PCAP.CD?locations=TN

[13] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZG?locations=TN

[14] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZG?locations=TN

[15] CIAワールドファクトブック

[16] 米国国務省 2021年レポート https://www.state.gov/reports/2021-investment-climate-statements/tunisia/

[17] 外務省 海外進出日系企業拠点数調(2020年調査結果) https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page22_003410.html

[18] 世界銀行 https://www.doingbusiness.org/en/reports/global-reports/doing-business-2020

[19] 世界銀行 Economy Profile Tunisia Doing Business 2020:https://www.doingbusiness.org/content/dam/doingBusiness/country/t/tunisia/TUN.pdf

[20] 仏:Agence de Promotion de l’Investissement Extérieur、英:Foreign Investment Promotion Agency

[21] Ministère du développement, de l’investissement et de la cooperation internationale

[22] Agency for the Promotion of Industry and Innovation

[23] https://www.tunisietelecom.tn/Fr/Particulier/Mobile/Services/servicesajalni

[24] Loi n° 2016-71 du 30 septembre 2016, portant loi de l’investissement

世界知的所有権機関(WIPO)による投資法の非公式英訳:https://wipolex-res.wipo.int/edocs/lexdocs/laws/en/tn/tn080en.html

[25] チュニジア中央銀行 https://www.bct.gov.tn/bct/siteprod/page.jsp?id=67&la=AN

[26] 各ウェブサイト:TIA(Tunisian Investment Authority)、European Commission、African Union、COMESA、African Development Bank、英国政府、外務省、JETRO

[27] 仏:Accord de Libre Échange Complet et Approfondi、英:Deep and Comprehensive Free Trade Areas

[28] Greater Arab Free Trade Area

[29] Common Market for Eastern and Southern Africa

[30] African Continental Free Trade Area

[31]アフリカに進出する日系企業を対象にJETROが2020年に実施したアンケート調査では、約4割の企業が今後、AfCFTAの利用を検討していると回答。https://www.jetro.go.jp/news/releases/2020/4a27660ec7fa4617.html

[32] 商事会社法(Code des Sociétés Commerciales)およびTIA(Tunisian Investment Authority)ウェブサイト:https://guide.tia.gov.tn/legal_forms_and_investment_regimes

[33] https://guide.tia.gov.tn/faq

[34] 労働基準法18条、労働協約10条

[35] 労働基準法(Code du travail: La loi no 66-27)79条~94条