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日本における改正建築物省エネ法の概要について

2022年06月14日(火)

日本における改正建築物省エネ法の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

改正建築物省エネ法の概要

 

改正建築物省エネ法の概要

2022年6月14日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年6月13日、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」が成立しました。この法律は、一部を除き、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとされています。

本ニューズレターでは、上記法律によって改正された「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」[1](以下、改正後の同法を「本改正法」といいます)に関して解説いたします。

1 背景

 2050年までにカーボンニュートラル、2030年度までに温室効果ガスの46%排出削減(2013年度比)の実現に向け、エネルギー消費量の約3割を占める建築物分野における省エネ対策が求められています。また、温室効果ガスの吸収源対策の強化を図る上で、木材需要の約4割を占める建築物分野での木材利用のさらなる促進に資する規制の合理化などを講じる必要があるとされています。

2 概要

 本改正法における改正は、建築物分野での省エネ対策の強化を行うものであり、主な改正点[2]は次のとおりになります。

 ①全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付け
 ②トップランナー制度(大手事業者による段階的な性能向上)の拡充
 ③販売・賃貸時における省エネ性能表示の推進

本ニューズレターでは、上記の改正点に関してそれぞれ解説いたします。

3 改正点

(1)全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付け

 現行法では、延べ床面積300㎡以上の中規模・大規模建築物(非住宅)が、建築物エネルギー消費性能基準(以下「省エネ基準」といいます)への適合が義務対象となっています(現行法11条)。その他の中規模・大規模の住宅は届出義務、300㎡未満の小規模建築物(非住宅)及び住宅は努力義務、説明義務に留まっています。

本改正法では、全ての新築住宅及び非住宅に省エネ基準への適合が義務付けられました(本改正法10条)。

第10条(建築主の基準適合義務)

建築主は、建築物の建築(エネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないものとして政令で定める規模以下のものを除く。)をしようとするときは、当該建築物(増築又は改築をする場合にあっては、当該増築又は改築をする建築物の部分)を建築物エネルギー消費性能基準に適合させなければならない。

(2)住宅トップランナー制度(大手事業者による段階的な性能向上)の拡充

 住宅トップランナー制度とは、住宅事業者が供給する分譲戸建住宅、注文戸建住宅、賃貸アパートの建築物エネルギー消費性能(以下「省エネ性能」といいます)の向上の目標(以下「トップランナー基準」といいます)を定め、断熱性能の確保や効率性の高い建築設備の導入等により、一層の省エネ性能の向上を誘導する制度のことをいいます。

 本改正法では、2030年度以降に新築される住宅と建築物についてZEH・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/ビル)水準の省エネ性能を確保するため、住宅トップランナー制度の対象に現行の注文戸建住宅、分譲戸建住宅、賃貸アパートに加え、分譲マンションが追加されました(本改正法29条1項)。

第29条(分譲型一戸建て規格住宅等のエネルギー消費性能の一層の向上に関する基準)

経済産業大臣及び国土交通大臣は、経済産業省令・国土交通省令で、分譲型一戸建て規格住宅又は分譲型規格共同住宅等(以下この条及び次条において「分譲型一戸建て規格住宅等」という。)ごとに、特定一戸建て住宅建築主又は特定共同住宅等建築主(次項及び同条において「特定一戸建て住宅建築主等」という。)の新築する分譲型一戸建て規格住宅等のエネルギー消費性能の一層の向上(建築物エネルギー消費性能基準に適合する建築物において確保されるエネルギー消費性能を超えるエネルギー消費性能を当該建築物において確保することをいう。以下同じ。)のために必要な住宅の構造及び設備に関する基準を定めなければならない。

(3)販売・賃貸時における省エネ性能表示の推進

 現行法7条では、建築物の販売又は賃貸を行う事業者に対して、建築物への省エネ性能の表示努力義務が課されています。

 本改正法では、当該省エネ性能の表示を推進するため、努力義務に加え、表示事項の告示について規定されました(本改正法33条の2)。さらに、販売事業者等に対して、告示に従った表示をしていないと認めるときは、国土交通大臣は、当該事業者に対し、告示に従った表示をすべき旨の勧告、その勧告に従わなかったときは公表、命令をすることができるとされました(本改正法33条の3)。

第33条の2(販売事業者等の表示)

建築物の販売又は賃貸(以下この項並びに次条第一項及び第四項において「販売等」という。)を行う事業者(次項及び同 条において「販売事業者等」という。)は、その販売等を行う建築物について、エネルギー消費性能を表示するよう努めなければならない。

2 国土交通大臣は、前項の規定による建築物のエネルギー消費性能の表示について、次に掲げる事項を定め、これを告示するものとする。

一 建築物のエネルギー消費性能に関し販売事業者等が表示すべき事項

二 表示の方法その他建築物のエネルギー消費性能の表示に際して販売事業者等が遵守すべき事項

第33条の3(販売業者等に対する勧告及び命令等)

国土交通大臣は、販売事業者等が、その販売等を行う建築物について前条第二項の規定により告示されたところに従ってエネルギー消費性能の表示をしていないと認めるときは、当該販売事業者等に対し、その販売等を行う建築物について、その告示されたところに従ってエネルギー消費性能に関する表示をすべき旨の勧告をすることができる。

2 国土交通大臣は、前項の勧告を受けた販売事業者等がその勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる。

3 国土交通大臣は、第一項の勧告を受けた販売事業者等が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、建築物のエネルギー消費性能の向上を著しく害すると認めるときは、社会資本整備審議会の意見を聴いて、当該販売事業者等に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

4 国土交通大臣は、前三項の規定の施行に必要な限度において、販売事業者等に対し、その販売等を行う建築物に係る業務の状況に関し報告させ、又はその職員に、販売事業者等の事務所その他の事業場若しくは販売事業者等の販売等を行う建築物に立ち入り、販売事業者等の販売等を行う建築物、帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。

5 第十七条第二項及び第三項の規定は、前項の規定による立入検査について準用する。

以上

 

[1] 国土交通省「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」新旧対照条文

[2] 国土交通省「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」概要