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ニュージーランド競争法:企業結合規制の概要について

2022年07月08日(金)

ニュージーランド競争法:企業結合規制の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ニュージーランド競争法:企業結合規制の概要

 

ニュージーランド競争法:企業結合規制の概要

2022年7月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.競争法の概要

 ニュージーランドの競争関連規制は、Commerce Act 1986(以下「本法令」という)に規定されています。本法令の規制当局は、商務委員会(Commerce Commission)です。本法令の競争法に関連する規制事項は、大別して以下の通りです。

・カルテル
 ➣価格カルテル(Price Fixing)
 ➣生産調整(Output Restriction)
 ➣市場分割(Market Sharing)
・市場支配力の濫用(Misuse of Market Power)
・再販価格調整(Resale Price Maintenance)
・競争を実質的に減少させる合意(Substantially Lessening Competition)
・企業結合(Mergers)

 ニュージーランドにて上記違反行為を行った場合は、企業の場合に最高で、①10M豪ドル、②行為によって得た利益の3倍、または③年間売上の10%のいずれか最も大きい額の民事制裁金が課されます。その他、被害者への損害賠償、取締役の解任、企業結合に関しては実行後の取引の解除(資産の売却等含む)の命令等が下される可能性があります。

 本稿では、日系企業がニュージーランドの企業・事業が絡む買収を実行する際に特に留意されたい、ニュージーランドの企業結合に関する規制の概要についてご紹介いたします。

2.企業結合に関する規制

 競争法上の企業結合に関する規制は、Commerce Act 1986の第47条に規定されており、具体的には、競争を実質的に減少させる(Substantially Lessening Competition)効果を有する、またはその可能性のある企業結合が禁止されます。競争を実質的に減少させる効果を有する、またはその可能性があるか否かは、以下を含む様々な事情を考慮してケースバイケースで判断されます[1]

・競争的制限を提供していた競合他社が排除され、その結果として価格または利益率を引き上げることができる可能性
・結合後の企業と残りの競業他社とが協力して市場の生産調整または価格調整をすることができる可能性
・市場シェアおよび市場集中の程度
・市場への参入障壁
・市場における対抗力の程度
・顧客が結合後の企業に対し価格、質、その他供給条件に重大な影響を与えられるか否か
・企業結合が顧客に転嫁される効率性を生み出すか否か
・市場においてどの程度代替品が入手可能であるか、または入手可能となる可能性    など

 Commerce Commissionは、上記事項の定量的分析のためのガイドラインを発行しています:https://comcom.govt.nz/__data/assets/pdf_file/0010/111520/How-to-use-quantitative-analysis-in-your-merger-analysis-Advisory-note-December-2018.pdf

 企業結合が第47条に該当するか否かは、以上のような様々な事情を考慮して総合的に判断されるため、企業結合後の市場シェアや対象会社に対する支配権が比較的少ないにも関わらず、規制の対象となる場合も考えられます。当局は、一般的な基準として、企業結合後に、①市場の三大企業が合計70%未満の市場シェアを有し、結合後の企業の市場シェアが40%未満の場合、または②市場の三大企業が合計70%以上の市場シェアを有し、結合後の企業の市場シェアが20%未満の場合に、競争を実質的に減少させる可能性は高くないとしています。ただし、これはあくまで一般的な見解であり、当該基準を下回る場合も、競争を実質的に減少させる可能性がある取引においては、事前に当局の審査を受けることが推奨されます。

 なお、2017年の法改正により、本法令には域外適用の規制(第47A条)が盛り込まれました。具体的には、企業がニュージーランド国外での買収を通じてニュージーランドでの競争を実質的に減少させる「Controlling Interest」を取得する場合に、当局Commerce Commissionは、裁判所に対し事業の停止、関連株式・資産の売却、その他適切な措置の命令を求め申立てを行う権限を有します。外国企業がControlling Interestを取得する場合とは、ニュージーランドの会社に関して、①その取締役会の構成をコントロールする権利、②20%を超える議決権を行使またはコントロールする権限、③20%の株式、④親会社の立場、または⑤実質的に会社をコントロールする効果をもつ資産を取得する場合を意味します。

 当局は、Controlling Interestが外国企業により取得される場合は、ニュージーランドでの競争を実質的に減少させると考えると公表しているため、ニュージーランドに事業や株式を保有する企業を買収する際には、ニュージーランドでの届出の要否を検討することが推奨されます。

3.当局による審査

 ニュージーランドの競争法には、当局への事前の届出義務は存在しません。一方で、当局が競争を実質的に減少させる効果をもつと判断した場合に、当事者は当局から指摘を受け、企業結合の取引自体を解消すること(資産売却など)が命じられる可能性があります。そのため、競争を実質的に減少させる可能性がある取引においては、任意に届出を行うことが推奨されます。

 当局のスタンスとしては非公式な審査(Informal Clearance)は行わず、原則として公式な審査(Merger Clearance)の届出のみが可能とされています。ただし、届出を行う前に当局に非公式にアプローチして協議を行うことは可能です。公式な審査後、Commerce Commissionの承認が下り、12か月以内に企業結合を実行した場合にのみ、第47条に基づく責任追及から保護されます。

 Commerce Commissionによる審査が実施される場合は、一般的に、、競争を減少させる効果がないことを証明するため、市場の確定と競争への影響に関する過去の記録および将来のプロジェクション等の提出が求められます。なお、申請者は、提出する情報の機密保持を当局にリクエストすることが可能ですが、企業結合が交渉されている事実および提出される資料の機密を保持したまま審査を行うか否かは当局次第です。その場合、機密情報の部分が明確にわかるようにする作業が必要となり、提出を受けた当局は当該情報が機密であるか否かの判断を行います。

 以上の通り、企業結合に関する規制は法令に詳細には規定されておらず、当局に大きな審査権限が付与されていると言えます。審査手続きの詳細は、Commerce Commissionの発行するガイドライン[2]にて公表されています。

以 上

[1]Mergers and acquisitions Guidelines, 2022年5月Commerce Commission https://comcom.govt.nz/__data/assets/pdf_file/0020/91019/Mergers-and-acquisitions-Guidelines-May-2022.pdf

[2] https://comcom.govt.nz/__data/assets/pdf_file/0015/65202/Process-Guidelines-2008.pdf