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オーストラリア消費者保護法:当局の摘発と法改正の動向について

2022年10月13日(木)

オーストラリア消費者保護法:当局の摘発と法改正の動向についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア消費者保護法:当局の摘発と法改正の動向

 

オーストラリア消費者保護法:当局の摘発と法改正の動向

2022年10月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 オーストラリアでは、当局オーストラリア競争消費者委員会(ACCC:Australian Competition and Consumer Commission)により消費者保護法(ACL:The Australian Consumer Law[1])違反の摘発が活発に行われており、また、罰則の大幅増額および不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)に関する改正法案が議論されるなど、消費者保護に関する規制強化の傾向にあります。

 本稿では、オーストラリアで事業を行う企業が注視すべき消費者保護規制の最近の動向について、特にFujifilmの使用していた標準型契約(Standard Form Contract)の無効性に関する最近の連邦裁判所の判決、ACCCの予告するオンラインでのグリーンウォッシング表明の摘発、および現在議会にて議論されている改正法案に焦点を絞り概説します。

2.不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)

 オーストラリアの消費者保護法は、以前ニューズレター(https://oneasia.legal/7352)にてご紹介した通り、消費者に対する幅広い行為が規制されており、また消費者のみでなく小規模事業者に対する行為に関しても適用される可能性があります。その中でも、不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)は昨年から法改正が議会で議論されており注目されています。

 法改正の議論に先立ち、2020年10月、ACCCはFujifilmに対して、Fujifilmの締結したオフィス機器の販売・リース契約に不公正な契約条項が含まれていたとして訴訟を起こし、今年8月に当該契約はACLに基づき無効であるとする連邦裁判所の判決が下されました[2]。Fujifilmは、2016年11月から2021年12月の間に、不公正な契約条項を含み違法と判決の下された契約をおよそ34,000回にわたり締結または更新しており、それらが小規模事業者と締結されていた場合は無効ということになります。

 不公正な契約条項は、ACLの23~28条に規定されています。金融サービスの提供および消費者信用貸付については、オーストラリア証券投資委員会法(ASIC Act:Australian Securities and Investments Commission Act 2001)に規定の消費者保護規定が別途適用されますが、その内容の多くはACLと類似する規定となっています。

 本規制の対象となる契約は、標準型契約(Standard Form Contract)に分類される契約ですが、これはいわゆる標準約款だけでなく、通常の契約であっても、交渉力の違いや、相手方が文言の変更を要請できるか否か等の様々な事情を考慮して、これに該当すると判断される可能性があります。そして、標準型契約の契約内容全体を鑑みて、当事者間に重大な不均衡をもたらす、適正な利益の保護に合理的に必要ではない、または当該条項が適用もしくは依拠することで一当事者に不利益を生じさせる(金銭的な不利益か否かを問わない)条項が含まれていた場合には、この契約は無効とみなされます。なお、Fujifilm事件において無効するとみなされた契約条項は、以下を含みます。

 ・Fujifilmの過度な責任限定
 ・顧客よりも広範なFujifilmの契約終了権および契約終了に伴う過度な違約金請求権
 ・顧客との間で合意した価格または顧客の契約上の権利義務をFujifilmが単独で変更できる権利
 ・契約外の多量の文書が契約の一部を成すとし、当該文書をFujifilmが単独で変更できる権利
 ・Fujifilmが契約に基づく救済手続きまたは権利行使をする場合の費用の顧客による全額負担(顧客には同様の権利は存在しない)
 ・顧客の過度な賠償責任負担

 また、契約相手が一般消費者ではなく小規模事業者である場合も規制対象となります。現行法においては、従業員数が20人未満の場合が小規模事業者に該当します(ただし、契約の対価が30万豪ドル(契約期間が12か月を超える場合は100万豪ドル)を超える場合を除く)。改正法案では、この基準が、従業員数100名未満、または年間売上高1000万豪ドル未満に拡大され、更に、契約の対価の上限が廃止されることが提案されています。

 現行法では、不公正な契約条項とみなされる条項を含む契約は無効とみなされるのみであり、罰則の対象となる違法行為ではありませんが、昨年提案された改正法案およびその後2022年9月28日に新たに議会に提出された改正法案[3]によると、不公正な契約条項を使用することまたはそれに依拠することが法令上の禁止事項となり、罰則の対象となることが提案されています。ACLを違反する行為に対する罰則は後記4に記述する通り、莫大な金額になる可能性があり、また、当該法改正に遡及効がない(改正法施行前に締結された契約の不公正な契約条項については罰則が科されない)場合も、無効とみなされた契約に関する対応およびレピュテーション・ダメージは避けられませんので、未対策の企業においては、速やかに現行の契約の確認を行うことが推奨されます。

 3.環境配慮に関する欺瞞的表明(グリーンウォッシング)の摘発

 2022年10月4日、ACCCは環境への配慮および持続性に関する欺瞞的表明(グリーンウォッシング)の摘発調査を開始した旨を発表しました[4]

 ACLは、誤解を招く行為または欺瞞行為(Misleading or Deceptive Conduct)、不当表示(False or Misleading Representation)、および不当行為(Unconscionable Conduct)を禁止していますが、企業が自社製品やサービスについて、「カーボンゼロ」、「ネットゼロ」、「エコ」、「グリーン」、「オーガニック」、「持続的(Sustainable)」、その他環境に配慮している旨を客観的な根拠なく表示することは、これらの消費者保護法の違反行為に該当する可能性があります。

 ACCCは、計200の企業のウェブサイトにおける表示について調査を行うと発表しています。また、グリーンウォッシングの摘発調査と併せて、100社を対象に、オンラインでの欺瞞的な評価・レビュー、および著名人やインフルエンサー等による好評価レビュー(Testimonial)の真意性の調査を行うことを発表しています。

4.ACL違反行為の罰則増額の見込み

 上述の2022年9月28日に議会に提案された改正法案では、以下の通り、ACLを含む競争消費者法(Competition and Consumer Act 2010 (Cth))における最高罰則の増額が提案されています。また、電気通信事業者に関しては、違法行為の期間に応じた特別な罰則規定が提案されています[5]

現行法における最高罰則

改正法案における最高罰則

1.企業

いずれかのうち最も高い金額:

 ・   A$10m
 ・   裁判所が違反行為から得た利益を決定できる場合は、当該利益の3倍
 ・   裁判所が違反行為から得た利益を決定できない場合は、対象企業の年間連結売上の10%

2.個人:A$500,000

1.企業

いずれかのうち最も高い金額:

・   A$50m
・   裁判所が違反行為から得た利益を決定できる場合は、当該利益の3倍
・   裁判所が違反行為から得た利益を決定できない場合は、対象企業の違反行為があった期間の年間連結売上の30%(ただし違反行為があった期間が12か月間未満の場合は、最低期間として12か月間の金額に調整される)

2.個人:A$2.5m

 5.おわりに

 以上の通り、不公正な契約条項の法改正の動き、ACCCの不当表示に対する摘発調査の活発化、そして罰則の大幅な増額の見込みを鑑み、オーストラリアにおいて事業を行う企業、または海外からオーストラリアの顧客に商品やサービスを提供する企業は、今一度、自社の取引がオーストラリアの消費者保護法の適用を受けるか否か、適用を受ける場合の使用する契約雛形の見直し、および消費者に対する表示の見直しを実施することが推奨されます。

以 上

[1] Competition and Consumer Act 2010 (Cth), Schedule 2:

https://www.legislation.gov.au/Details/C2022C00212/Html/Volume_3#_Toc109308083

[2] Australian Competition and Consumer Commission v Fujifilm Business Innovation Australia Pty Ltd [2022] FCA 928 (https://www.judgments.fedcourt.gov.au/judgments/Judgments/fca/single/2022/2022fca0928)

[3] Treasury Laws Amendment (More Competition, Better Prices) Bill 2022

[4] https://www.accc.gov.au/media-release/accc-internet-sweeps-target-greenwashing-fake-online-reviews

[5] Part XIB, Treasury Laws Amendment (More Competition, Better Prices) Bill 2022