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マレーシアの建設業界における特殊な紛争解決機関について

2022年10月13日(木)

マレーシアの建設業界における特殊な紛争解決機関についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアの建設業界における特殊な紛争解決機関

 

マレーシアの建設業界における特殊な紛争解決機関
CIPAA

November 2022
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士 橋本有輝
マレーシア法弁護士 Najad Zulkipli

1.CIPAA とは何か?

 CIPAの正式名称は、 “Construction Industry Payment and Adjudication Act 2012”であり、適時、迅速、かつ、低コストにて、建設業における支払に関する紛争を解決することを目指して2014年に施行された。

 後述する通り、この手続きは紛争解決までの期間が45営業日以内とされており、この種の紛争解決の迅速化が大きく実現されている。

 本稿では、マレーシアに固有の紛争解決の仕組みを提供するCIPAA を概観する。

2.CIPAAの適用範囲

 2.1 建設工事契約

 CIPAA は、マレーシアにおける建設工事契約(“construction contract”)全般に適用される(ただし、個人向けの4階建てより低い建物の建設工事契約は除く)。

 同法4条は、“construction contract”の用語につき、コンサルタント契約(“Consultancy contract”)も含むとしているところ、この“Consultancy contract”は、建設工事に関するコンサルタント契約のみならず、計画立案、実現可能性調査、設計、エンジニアリング、調査、外構及び内装工事等も含むと定義しているため、極めて広い範囲の契約を適用対象に加えている。

2.2 判断者は誰か

 CIPAAが提供する紛争解決の手法は、マレーシアにおける他の紛争解決手段とは大きく異なる。まず、この手続きは、「裁判」でも「仲裁」でもなく、裁定(adjudication process)と呼ばれる。そして、裁定においては、事案を取り扱うのは、当事者双方が選任する独立・中立で、当該紛争にかかる業界及び法に関し豊富な経験を有する裁定員(adjudicator)である。

3.裁定の具体的手続き

3.1 Notice of Claimの発行

 (a) 施主又は元請人が、支払を期限通り履行せず、また支払要求にも応じない場合、建設業者が採るべき最初のステップは、Notice of Claimという書面を作成し、施主又は元請人提出することである。

 (b) このNotice of Claimは、請求の性質、金額及び請求の証拠となるべき書面を示す必要がある。

 (c) 施主又は元請人がNotice of Claimを受領した場合、この請求を認めるのか争うのかを明らかにしたNotice of Responseという書面を作成、提出しなければならない。

 (d) 仮に、上(c)の返事をしない場合、施主又は元請人は、請求を争ったものとみなされ、請求者は、裁定手続きを開始することが出来る。

3.2 裁定手続きの開始

 (a) 以上の状況において、権利を侵害されたと主張する当事者は、自らを原告として、施主または元請業者に対して、必要な詳細および書類をすべて添付した Notice of Adjudicationを送達することが出来る。

 (b) Notice of Adjudicationを受け取った当事者は、その問題を決定するための裁定者を任命することに相互に合意するかAIACが裁定者を任命する。その後、この問題は、マレーシアのお機関でもある AIAC によって管理されます。

3.3 裁定者による決定

 (a) 裁定手続きにおいて、裁定人は請求を評価し、またはさらなる書類を当事者に要求する等して、原告に対する支払い額を決定する。

 (b) この決定を受領した時点で、その決定は施主または元請業者に対して強制力を持つ。

4.それでも施主乃至元請業者が支払をしない場合

4.1 この場合、同法28条に基づき、原告は、判決と同様に、高等裁判所に対して強制執行の申し立てができる。

4.2 また、支払がない場合には、原告は請負工事の履行を遅らせることが出来、それに伴う罰則も免除される(同法29条)。

4.3 原告が下請業者である場合、施主に対して自身への直接の支払いを要求することも出来る。

4.4 ただし、裁定手続きに不服のある当事者は、法定の事由をもってその取消しを高等裁判所に申し立てることが出来る。

5.CIPAAに基づく裁定手続きを利用する利点

 裁定手続きの最も大きな利点は、その紛争解決までの期間である。裁定手続きは、最終的な決定が出るまで45営業日と規定されており、裁判手続き等に比して極めて迅速な紛争解決が期待される。また、申立に必要な費用も裁判や仲裁に比して低廉なものとなっている。