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カーボン・トレーディング:日本・オーストラリア間のネット・ゼロの未来について

2022年12月02日(金)

日本・オーストラリア間のネット・ゼロの未来についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

カーボン・トレーディング:日本・オーストラリア間のネット・ゼロの未来

 

カーボン・トレーディング:日本・オーストラリア間のネット・ゼロの未来

2022年12月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.オーストラリアにおけるエネルギー市場の紹介

 オーストラリアのエネルギー市場は、低排出経済への移行に伴い、急速な変化を遂げつつあります。オーストラリア政府は、再生可能エネルギー目標(RET:Renewable Energy Target)として、再生可能エネルギーによる発電量のベンチマークを設定し、再生可能エネルギーによる発電量を一定割合以上確保できない事業者に対しては罰則を科す方針を打ち出しています。

 オーストラリアエネルギー市場を所管する独立行政機関Australian Energy Market Operator(AEMO)によると、2040年までに石炭火力発電の約63%が廃止され、風力や太陽光発電、揚水発電、蓄電池、ガスなどの安定したエネルギー源に代替されるとされており、この種の政策は益々重要となってきています。

 民間セクターでは、多くの企業がカーボンクレジットを購入することで二酸化炭素排出量を削減し、温室効果ガス排出量削減という世界的な活動を支援しています。

2.カーボン・トレーディングとは

 カーボン・トレーディング(炭素取引)とは、端的には、1トン当たりのCO2を排出する権利を与える「クレジット」を売買することを指します。カーボンクレジットは誰でも取得することができますが、実際には、規制遵守や企業の社会的責任(CSR)の観点から企業が取得するのが一般的です。

 世界的には、京都議定書やパリ協定のような国際協定や条約が、炭素排出削減のための世界的な方針を規定し、炭素取引市場の会計指針と透明性に関する目標が設定されています。

 炭素取引市場におけるもう一つの重要な違いは、コンプライアンス市場および任意市場に関するものです。コンプライアンス市場は、国家、地域、および国際的なCO2削減スキームにより創られた市場です。一方で、任意市場はコンプライアンス市場の外で機能し、コンプライアンス目的の使用を目的とせず、企業が自主的にカーボンクレジットを購入することを可能とする市場です。

 カーボンクレジットの取引は、コンプライアンス市場でも任意市場でも、他の商品と同じように行われ、先物取引所が存在し、スポットや長期間の受渡決済およびオプション取引が容易に行えます。また、カーボンクレジットは、ブローカーを通じて取得することも可能です。 

3.オーストラリアにおけるカーボン・トレーディング規制の概要

 オーストラリアのカーボンクレジットであるACCU(Australian Carbon Credit Units)は、排出削減基金(Emissions Reduction Fund)を通じてクリーンエネルギー規制局(CER:Clean Energy Regulator)により発行され、企業は、これを、オーストラリア政府の制定する排出削減法に従った遵守義務に対する排出量の相殺、自主的なカーボンニュートラルの表示、またはカーボンニュートラル認定に使用することができます。

 ACCUはオーストラリアの会社法(Corporations Act 2001 (Cth))により金融商品として分類されているため、ACCUはネット・ゼロへの道筋において単なるオフセット以上の役割を果たす可能性があり、正しく運用されれば、ネット・ゼロへの取り組みに対する資金調達の担保として利用できる可能性があります。 

 ACCUは、オーストラリア政府により、オーストラリア国内排出権登録簿(ANREU:Australian National Registry of Emissions Units)を通じて追跡されます。企業がカーボンニュートラルの表示を行う場合、その表示の時点で、公的登録簿にあるそれぞれのACCUを償却または取消を行う必要があります。

 オーストラリアの炭素取引市場のもう一つの基盤となる開発として、CERは、市場環境を通じてACCUの取引をより容易にするオーストラリア炭素取引所(ACE:Australian Carbon Exchange)を提唱しています。ACEのプラットフォームは2023年に開始される予定で、承認されたエネルギー排出基金プロジェクトから得られたACCUを個人および企業間で取引することができるようになります。

4.日本・オーストラリア間のカーボン・トレーディング活動

近年、日本企業によるオーストラリアのカーボンクレジット取引・生成事業の買収が相次いでいます。代表的な案件として、以下が挙げられます。

 a) 三井物産による、カーボンクレジットの生成・販売を行うコンサルティング会社であるClimate Friendly社への出資
 b) 三菱商事による、自然環境に配慮した排出権取引を行うAustralian Integrated Carbon社の株式40%取得
 c) 大阪ガスの現法Osaka Gas Energy OceaniaによるAustralian Integrated Carbon社への出資

 三井物産は、Carbon Friendly社と共同で2022年から2025年にかけて7000万トン以上のカーボンクレジットを創出する計画であり、カーボン・トレーディング分野における主要プレーヤーと見られていますが、他にも日本の商社がオーストラリアで同市場への多角化を図る動きが増えています。

 市場活動をさらに促進するため、オーストラリア国立大学(ANU:Australian National University)が2021年に発表した報告書では、オーストラリアと日本の間でカーボンクレジットの取引を促進するための二国間協定の締結が推奨されています。これが実現されれば、両国のさらなる取引活動の確立に向けた大きな一歩となり、自主的な炭素市場を通じて、オーストラリアと日本の両方で再生可能エネルギープロジェクトの資金調達能力を向上させることができるようになると考えられます。

5.おわりに

 多くの政府や民間企業が二酸化炭素排出量の削減に取り組む中、再生可能エネルギープロジェクトやネイチャー系炭素クレジットプロバイダーへの投資機会が益々増加することが予測されます。オーストラリアは人件費が比較的高い国であるにもかかわらず、外国企業や商社にとって投資に適した地域とみなされています。日豪両政府による二国間炭素取引協定に関する協議を継続することは不可欠であり、これにより、両国が、経済を大幅に強化し、国際的な再生可能エネルギー大国としての地位を確立することが期待されています。