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インドネシアにおける新刑法(Kitab Undang-undang Hukum Pidana、以下「新KUHP」)の可決について

2023年02月17日(金)

インドネシアにおける新刑法(Kitab Undang-undang Hukum Pidana、以下「新KUHP」)の可決についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

新刑法(Kitab Undang-undang Hukum Pidana、以下「新KUHP」)の可決

 

新刑法(Kitab Undang-undang Hukum Pidana、以下「新KUHP」)の可決

2022年2月
One Asia Lawyers Indonesia Office
日本法弁護士 馬居 光二
NY州法弁護士 友藤 雄介
インドネシア法弁護士 プリシリア・シトンプル

1.はじめに

 2022年12月6日、インドネシアの国会/Dewan Perwakilan Rakyat (“DPR”)は、刑法に関する2023年法律第1号(以下、「新KUHP」という)を可決しました。同法は2023年1月2日に公布され、公布日から3年後の2026年1月2日に施行される予定です。今後3年間で、現在施行されている刑法は本法の内容に置き換わるとされております。

 新KUHPは、2編で構成されています。第1編には、第2編の内容を適用するためのガイドラインとなる一般的な規則として、州規則、県・市地域規則等などが規定されています。新KUHPは、インドネシアの刑法をアップデートし、現在のインドネシアの刑法体制を変革しようとするものです。

 2.本件のハイライト

A. 新KUHPによる特定の法律の改廃

・2001年法律第20号で改正された汚職の撲滅に関する1999年法律第31号(以下「1999年法律第31号」)

汚職の撲滅に関する法律

刑期及び罰金

KUHP

1999年法律第31

自分、他人、企業を富ませることを目的として国家財政や国家経済に損失を与える不法な行為

刑期:終身または2年以上20年以下

罰金:カテゴリーII(最高1,000万ルピア)の罰金とカテゴリーVI(最高20億ルピア)の罰金の間の金額(第603条及び第604条)

 

刑期:終身または2年以上20年以下

罰金:2億ルピアから10億ルピアを上限とする

(第2条第1項

権限、機会等を濫用して、自分、他人、企業を富ませることを目的として国家財政や国家経済に損失を影響を与えるような行為

刑期:終身または1年以上20年以下

罰金:5,000万ルピア以上10億ルピア以下

(第3条)

以下の活動のいずれか

1.公務が自身の義務に反して、特定の活動を行い、または行わないことを目的として、当該公務員に何かを供与すること、又はその約束をすること

 

2.公務員が、自身の義務に反して行ったこと、または行わなかったことを理由、又はそれに関連して、何かを供与すること

行為者

(第605条第1項)

刑期:1年以上5年以下

罰金:カテゴリーIII(最高額5千万ルピア)の罰金とカテゴリーV(最高額5億ルピア)の間の罰金

刑期:1年以上5年以下

罰金:最大50百万ルピアから250百万ルピアまで

(第5条)

物・約束を受けた公務員(第605条第2項)

刑期:1年以上6年以下

罰金:カテゴリーIII(最高額5千万ルピア)の罰金とカテゴリーV(最高額5億ルピア)の間の罰金

公務員に対して、当該地位や立場に付随する権力や権威を理由に、贈答や約束をすること

行為者

(第606条第1項)

刑期:3年以下

罰金:カテゴリーIV(最大2億ルピア)

 

行為者

刑期:3年以下

罰金:最大1億5,000万Rp.

(第13条)

物・約束を受けた公務員

(第606条第2項)

刑期:4年以下

罰金:カテゴリーIV(最大2億ルピア)

 

物・約束を受けた公務員

刑期:1年以上5年以下

罰金:最大50百万ルピアから250百万ルピアまで

(第11条)

* KUHPの発効後、1999年法律第31号のうち、上述の条文は、新KUHPの汚職犯罪に関連する条文に置き換えられます。

・マネーロンダリング犯罪の防止および撲滅に関する法律2010年第8号(以下、「2010年法律第8号」)

マネーロンダリング犯罪

資産の源泉

刑期及び罰金

KUHP

2010年法律第8

犯罪に起因すると疑われる、または合理的に疑われる資産に関して、当該資産の出所を隠蔽または秘匿するために その資産を

1)設置、2)譲渡、3)移転、4)支出、5)支払、6)贈与、7)委託、8)国外持出、9)形態変更、10)通貨または証券による引出した者

(第607条第1項(a))

第607条第2項にて犯罪行為に起因する資産の源泉と規定される26の特定の犯罪行為

(例)汚職、贈収賄、労働者密入国、移民密入国、資本市場における犯罪行為、ギャンブル

刑期:15年以下

罰金:カテゴリーVII(上限50億ルピア)

刑期:最長20年

罰金:最大100億ルピア

(第3条)

犯罪行為に由来すると疑われる、または合理的に疑われる資産の起源、出所、場所、配分、権利の移転、または実際の所有権を隠蔽または偽した者(第607条第1項(b))

刑期:15年以下

罰金:カテゴリーVI(上限20億ルピア)

刑期:最長20年

罰金:最大50億ルピア

(第4条)

上記、資産を受領した、または、管理した者(第607条第1項(c))

刑期:5年以下

罰金:カテゴリーVI(上限20億ルピア)

刑期:5年以下

罰金:最大10億ルピア

(第5条第一項

* 新刑法発効後、2010年法律第8号の既存条文に対する言及は、新KUHPの汚職犯罪に関連する条文に置き換えられます。

 新KUHP79条1項により、刑事罰の上限は、カテゴリーに応じて決定されます。

I

II

III

IV

Rp.1,000,000.00 (100万ルピア)

Rp.10,000,000.00 (1000万ルピア)

Rp.50,000,000.00 (5,000万ルピア)

Rp.200,000,000.00 (2億ルピア)

V

VI

VII

VIII

Rp.500,000,000.00 (5億ルピア)

Rp.2,000,000,000.00 (20億ルピア)

Rp.5,000,000,000.00 (50億ルピア)

Rp.50,000,000,000.00 (500億ルピア)

・2016年法律第19号で改正された電子情報および電子取引に関する2008年法律第11号(以下、「2008年法律第11号」という。)

 2008年法律第11号に関して、新KUHPでは「情報技術による犯罪コンテンツの流布」または「放送」を行った者に対する刑事罰を導入しており、これには犯罪コンテンツを、デジタルプラットフォームを利用して、デジタル情報や文書として送信、配布、アクセス可能にすることが含まれます。なお、この規定は、情報または文書が流布されたプラットフォームの所有者又は運営者が責任を問われうるのかどうかについては、明確ではないため留意が必要です。

B. 企業の刑事責任

刑事責任を問われる企業とは何を指しますか?

 企業は、刑事罰を受ける対象となり得ます。刑事罰を受ける対象となり得る企業には、1)株式会社、協同組合、国・地域所有企業などの法人、2)(法人格を持つかに関わらず)有限責任事業組合などのパートナーシップが含まれます。さらに、組織構造の外にありながらも、企業を支配又は実質的に所有する者も対象となり得ます。

企業が責任を負うべき犯罪行為とは?

 犯罪行為が以下のいずれかの場合に責任を負います。

 1) 会社の定款またはその他の規定に定められている会社の事業または活動の範囲に含まれる場合

 2) 会社に利益をもたらす場合

 3) 会社の方針として受け入れられている場合

 4) 犯罪行為の発生を回避するために予防措置を取らず、影響の拡大に対する防止策も講じず、コンプライアンス遵守のために必要な措置を取らない場合

 5) 会社が意図的に犯罪行為の発生を許可する場合

上記のような行為にはどのような刑事罰が科されるのでしょうか?

-まず第一に以下の刑事罰が科されます(新KUHP119条)

 1) 他に規定する法がない場合、最大2億ルピア

 2) 刑期が最大7年以下の犯罪行為の場合、最大20億ルピア

 3) 刑期が最大7~15年の犯罪行為の場合、最大50億ルピア

 4) 死刑または、刑期が無期又は最大で20年の犯罪行為の場合、最大500億ルピア

-また、場合によって追加で以下が科される可能性があります。

 賠償金の支払い、原状回復、懈怠していた義務の履行、慣習的に求められる義務の履行、職業訓練に対する資金拠出、犯罪行為によって取得した物品または利益の没収、判決の公表、特定のライセンスの取り消し、特定の行為の永久的な禁止命令、企業の事業所および活動の全部または一部の閉鎖、企業の事業活動の全部または一部の停止、企業の解散等(新KUHP第120条)

C. 論争の的となっている条項

 今回の新KUHPでは、以下の行為が刑事罰の対象として刑事訴追される可能性が生じているため、言論の自由、民主主義、人権を侵害し得るものとして、論争の的となっています。

 ※対象:大統領への侮辱、国家機関への侮辱、婚前同棲、法廷侮辱、宗教犯罪、共産主義、レーニン主義、マルクス主義、避妊教育、性教育、魔術。

3.結論

 上記のとおり新KUHPについて議論いたしましたが、実際に新KUHPで定められている条項の多くは、現行のKUHPと大きく変更されているものではありません。しかし、新KUHPは発効まで3年間の期間があり、その間条項に修正が加えられる可能性があるため、外国企業は今後の新KUHPの条文に対する変更に、今後も注意が必要です。