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マレーシアにおける仲裁について

2023年02月14日(火)

マレーシアにおける仲裁についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける仲裁 – アジア国際仲裁センター(AIAC)-

 

マレーシアにおける仲裁
アジア国際仲裁センター(AIAC

2023年2月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士Najad Zulkipli

1.はじめに

 国際的な紛争解決手法として確立した地位を得つつある 仲裁は、マレーシアにおいても確立された紛争解決手段の一つである。

 アジア国際仲裁センター(以下AIAC)は、マレーシアにおける国立の仲裁センターであり、国内および国際を問わず紛争を解決するための仲裁手段を提供している。特に、仲裁判断は様々な国で執行可能であることから、マレーシアの外国人投資家にとって、契約上の権利を保護するために紛争解決メカニズムとして仲裁を定める必要性がかなり大きいと言える。

 この記事では、AIACを通じた紛争解決のプロセス、準拠法、スケジュール、費用などについて説明する。

2.仲裁法

(1)仲裁とは何か

 仲裁は、当事者双方によって又は各当事者から指名された仲裁人によって紛争を解決するものであり、当事者が仲裁を紛争解決方法として合意した場合に初めて利用可能なものである。

 この点、訴訟については、当事者が紛争解決方法としてこれを合意しなくても利用可能なこととは対照的である。

 仲裁は、このように両当事者が仲裁によって紛争を解決することに相互に合意する、私的なプロセスとして特徴付けられる。

(2)仲裁と訴訟の比較、メリット

 仲裁は、訴訟とは大きく異なる特徴を持っており、ここにそれを整理した。

 ア 柔軟性

   まず、仲裁は、以下の点を当事者の合意によって自由に決定することが出来るという、訴訟にはない柔軟性を有する。

  ① 誰を仲裁人とするか

    訴訟:判断を行う裁判官を選べないため、紛争に関する専門知識を有さない裁判官が判断を行う場合があり得る。

    仲裁:当事者が、誰を仲裁人とするか選択することが出来る。

       なお、当事者が誰を仲裁人とするか合意しなかった場合はAIACのルール

  ② 仲裁人の数

    訴訟:裁判官の数は、法令によって決定される。

    仲裁:仲裁人は、1人でも良いし、2人以上の複数でも良いが、これも当事者が決定できる。

  ③ 使用言語

    訴訟:訴訟では、英語及びマレー語の両方が使用されることがまま見受けられるが、いずれにせよ裁判官の裁量に委ねられている。

    仲裁:当事者が自由に決定できる。

  ④ 手続のルール

    訴訟:ルールは法令によって決まっている。

    仲裁:当事者が選択できる。

  ⑤ 仲裁地

    訴訟:管轄裁判所は法令によって決まっている。

    仲裁:例えば、AIACを仲裁機関と定めながら、東京を仲裁地として定めるということも可能である。

       なお、何も定めなければAIACの規則(Rule7)に従い、Kuala Lumpurが仲裁地となる。

 イ 機密性

   訴訟:マレーシアの訴訟は、日本と同様、公開の法廷にて審理されることになる。また、裁判所の行った判断を示す判決は、オンラインにて公開される(e-filing system (EFS))。

   仲裁:AIAC規則のRule16は、当事者及び仲裁人のみならず、これに関与した専門家や証人までも、仲裁に関する事項を秘匿することを要求している。したがって、仲裁手続きの内容のみならず、仲裁手続きが進行していることそれ自体や、判断内容を公に開示しないで紛争解決を図ることが出来る。

 ウ 終局性

   訴訟:マレーシアの訴訟も基本的には日本同様、三審制を採用しているため、第一審の判断に不服のある当事者は控訴審に不服申立てをすることが出来、さらに控訴審の判断に不服がある場合は、上告審に不服申立てをすることが出来る。

   仲裁:仲裁判断は、例外的な事情がない限り、終局的なものであり、執行可能である。AIAC規則が採用されている場合、「当事者は仲裁判断を直ちに実行し、裁判所に不服申し立てをする権利を放棄するものとし、仲裁判断は、終局的かつ執行可能なものである」と規定されている(Rule12(10))。

 エ 執行

   訴訟:マレーシアにおける外国判決の執行については、シンガポール等のごく限られた国の判決のみ執行可能であり、日本、アメリカ、イギリス、中国等の判決を執行することは出来ない。

   仲裁:仲裁判断は、High Courtで承認を受けることで、判決と同様、これをもって強制執行が可能となる。

  さらに、マレーシアは、New York Conventionに加盟しているため、マレーシアでなされた仲裁判断を日本を含む同条約加盟国で執行することも、同条約加盟国でなされた仲裁判断をマレーシアで執行することもいずれも可能である。

  以上からすると、執行先が日本等マレーシア国外となり得る場合には、訴訟ではなく仲裁を紛争解決機関として指定すべきということになる。

3.AIACの役割 – 手続き、時間、費用について

(1) AIACとは?

 アジア国際仲裁センター(以下AIAC)は、以前はクアラルンプール地域仲裁センター(Kuala Lumpur Regional Centre for Arbitration)として知られていたマレーシアの主要な仲裁センターである。AIACは、2013年に改訂されたUNCITRAL仲裁規則[1] を世界で初めて採用し、「AIAC仲裁規則」として知られる仲裁手続の開始から終了までの全行程を規定する独自の手続規則を持っている。なお、マレーシアにはAIAC以外にも、マレーシア建築家協会(MIA)、マレーシア仲裁人協会(MiArb)といったセンターがある。

(2) AIAC仲裁規則 

 AIACは上記の通りAIAC仲裁規則を定めており、当事者は、国内または国際レベルでの紛争を解決するために、AIAC仲裁規則の一部または全部を仲裁に適用されるルールとして合意することができる。

(3) AIACの役割

 AIACの役割は、国内および国際仲裁の実施に中立的で独立した場を提供すること以外に、AIACのディレクターが当事者または当事者が合意した任命権者によって任命された仲裁人の任命を確認する仲裁人の任命にも及ぶ。当事者または当事者が合意した任命権者が仲裁人を任命するという当事者間の合意は、仲裁人を指名するという合意として扱われ、仲裁人を任命するという合意とはみなされない。

(4) 仲裁手続き、所要時間

 AIAC仲裁規則のもとでは、仲裁判断が出るまでの決まった期間は存在しない。しかし、以下に述べる通り、仲裁が効率的に進行することを保証する一定のメカニズムが存在する。

 例えば、AIAC仲裁規則のRule 6では、仲裁廷は適切と思われる方法で問題を処理する権限を与えられており、各当事者が弁論を行うために利用できる時間を制限することもできる。また、Rule 12は、仲裁廷に、最終の口頭による提出物または書面による陳述の提出日から3ヶ月以内に最終判断を下すことが義務付けている。この期間については、延長も認められてはいるものの、これはAIACのディレクターの承認が条件となっている。また、Part 2 のRule 25は、書面による陳述(請求の範囲および答弁の陳述を含む)のために仲裁廷が定めうる期間につき45日を超えてはならない、としている。

 そのため、当事者が仲裁人の指名・任命に合意するまでの時間を除けば、概ね4~5ヶ月で全ての手続が終了すると見積もることが可能である。

(5) 費用について

 (i) 登録料 – 申立人は、登録料として、国際案件の場合は00、国内案件の場合はRM1,500.00を支払う 必要がある(返金不可)。

 (ii) 仲裁費用及び管理費用 – 紛争の金額に応じて従価ベースで計算される。手数料を決定するための尺度は、AIAC仲裁規則の別表1パートIIIに記載されている(添付参照[2])。

4.結論

 契約交渉、特にクロスボーダー・ビジネス、当事者の出身地、適用される裁判管轄に関わる取引において、紛争解決のための適切なメカニズムや裁判地を慎重に導入することが不可欠です。多くの紛争は訴訟によって解決されるかもしれませんが、契約の技術的な問題や商業的な考慮事項など、仲裁を紛争解決のためのより良い代替案とする要因は数多くあります。

 契約書の交渉・作成はもちろん、仲裁を含む効果的な紛争解決メカニズムのアドバイスや契約書への盛り込みも行います。このトピックに関する詳細な情報が必要な場合は、弊社までお問い合わせください。

 

[1] https://admin.aiac.world/uploads/ckupload/ckupload_20210801103608_18.pdf

[2] https://admin.aiac.world/uploads/ckupload/ckupload_20210801103608_18.pdf