【第4回】「企業買収における行動指針」の概要 ~買収への対応方針・対抗措置~
「企業買収における行動指針」の概要に関するニュースレターを発行いたしました。今回は、第4回として、買収への対応方針・対抗措置について解説しています。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
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【第4回】「企業買収における行動指針」の概要
~買収への対応方針・対抗措置~
2024年2月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典
今月のニューズレターでは、最終回として、本指針[1]第5章の「買収への対応方針・対抗措置」について解説いたします。
第5章では、買収への対応方針・対抗措置の総論について、これまでの裁判例を踏まえ、株主意思の尊重、必要性・相当性の確保、事前の開示、資本市場との対話という観点から言及されています。なお、各項目の詳細な整理については、「別紙3:買収への対応方針・対抗措置(各論)」にて説明されています。
1 買収への対応方針・対抗措置に関する考え方
買収を巡る当事者が適切に行動することにより、真摯に検討・交渉がされるとともに、対象会社及び買収者の双方から必要な情報が提供され、透明性・公正性が確保された上で株主が買収者による株主の取得に応じるか否かを判断(インフォームド・ジャッジメント)することが本来在るべき姿であると述べられています。
一方、対象会社やその株主に対して必要な時間や情報が提供されずに買収がされることや、買収者が対象会社や一般株主の犠牲のもとに不当な利益を得ることを目的として経営支配権を取得することなどで、企業価値ひいては株主共同の利益を損なう可能性もあるため、こうした買収への対応方針が適切に用いられる場合には、株主に検討のための十分な情報や時間を提供するとともに、取締役会に買収者に対する交渉力を付与し、買収者や第三者からより良い買収条件を引き出すことを通じて、株主共同の利益や透明性の確保に寄与する可能性もあるとされています。
もっとも、前述のような対応方針が用いられる可能性があることが、望ましい買収提案をすることへの躊躇や、買収を通じた規律付けの低下、買収提案に対する真摯な検討の阻害を生む結果となってはならない、買収への対応方針は「経営陣にとって好ましくない者」から経営陣を守るためのものではない、公開買付け等に応じて株式を換価する権利を対抗措置を用いて不当に妨げることは望ましくない等の留意点を指摘しつつ、とりわけ、買収への対応方針は、経営を改善する余地が大きく買収の経済的意義が発揮されやすい企業において用いられるおそれや、買収を成立させない方向での設計・運用がなされるおそれが内在している点について強調されています。したがって、買収への対応方針について株主意思の確認や時間・情報・交渉機会の確保を目的とする場合でも、当事者にとって中立な手続ルールとして機能しないおそれがあることに留意した上で、その懸念を払拭する努力をすべきであると指摘されています。
2 株主意思の尊重
対応方針に基づく対抗措置の発動は、会社の経営支配権に関わるものであることから、株主の合理的な意思に依拠すべきであるとした上で、対応方針の導入の段階、又はこれに基づく対抗措置の発動の段階で、株主総会における承認を得ることは、株主の合理的な意思に依拠していることを示すための措置といえると述べられています。
また、株主総会を経る場合においても、取締役会は、対抗措置の必要性や、公正性の確保等について慎重に検討し、十分な説明責任を果たすべきとされています。
3 必要性・相当性の確保
対応方針に基づく対抗措置の発動は、株主平等の原則、財産権の保護、経営陣の保身のための濫用防止等に配慮し、必要かつ相当な方法によるべきであり、日本の裁判所は、対抗措置の発動が不公正発行又は株主平等原則違反に該当するかについて、必要性と相当性の観点から審査を行っているものと考えられています。
4 事前の開示
対応方針を平時に導入し、開示することによって、一定以上の株式を取得する場合には対抗措置が用いられ得ることについて、買収者・株主等の事前の予見可能性が相対的に高まり、対応方針の内容を見て投資の意思決定を慎重に行う、買収の手法を工夫して買収を試みるなどの対応が可能となり得ると示されています。一方で、事前に開示されていることで、導入企業は(望ましい買収も含めて)潜在的な買収先候補から除外されている可能性があり、経営への外部からの規律が弱まるという指摘がなされています。
5 資本市場との対話
我が国において、業績が低迷するなど経営を改善する余地が大きく、買収の経済的意義が発揮されやすい企業において対応方針が導入されやすい傾向があったことを示した上で、会社としては、対応方針の導入を検討するのであれば、まずもって平時から企業価値を高めるための合理的な努力を貫徹するとともに、それが時価総額に反映されるよう取り組むことが求められると述べられています。
このような取り組みを行いつつも、会社が平時から対応方針を導入しておく必要があると判断する場合は、中長期的な企業価値の向上の観点から、対象会社と機関投資家との間で建設的な対話がされることが、本来望ましい姿であり、対象会社は、対応方針の導入が一つの経営戦略として必要だと考える場合には、その理由について丁寧に対話や情報開示を行うとともに、取締役会の構成の独立性を高めていく(例えば社外取締役の比率を過半数とする)ことや、社外取締役を主体とする特別委員会の判断を最大限尊重することで公正さを担保すべきであると述べられています。
また、機関投資家や議決権行使助言会社も、費用対効果の視点も含めて考慮しつつも、基準をもって形式的に判断するのではなく、対象会社の状況や当該会社との対話の内容、対応方針の内容等を踏まえた上で、対応方針の導入や対抗措置の発動に対する賛否を判断することが望ましいとも述べられています。
対話や情報開示を行うにあたり、対象会社と機関投資家の目線合わせをするために、あり得る方策として、以下の内容が例示されています。
①対抗措置の発動時に必ず株主総会に諮る設計とすること
②発動要件を限定した設計とすること
③特殊な状況下の時限的な措置として設計すること