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グローバルビジネスと人権: モデル契約条項2.0 (3) サプライヤーの人権尊重規範策定の留意点

2024年08月20日(火)

グローバルビジネスと人権に関し、モデル契約条項2.0 (3) サプライヤーの人権尊重規範策定の留意点と題するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

グローバルビジネスと人権: モデル契約条項2.0 (3) サプライヤーの人権尊重規範策定の留意点

 

グローバルビジネスと人権: モデル契約条項2.0 (3)
サプライヤーの人権尊重規範策定の留意点

2024年8月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター
アジアESG/SDGsプラクティスグループ

1 はじめに

 ビジネスと人権に関する問題を契約の観点から読み解く本シリーズ第3回では、サプライヤーが遵守すべき人権尊重規範(以下「サプライヤー規範」)を策定する際の留意点について取り上げる。

 MCC 2.0では、サプライヤー規範において定めるべき具体的な条項は示されていないものの、これを策定するにあたっての留意点や、ここで定めるべき条項の観点が示されている。本稿では、これらの留意点や条項として定めるべき内容について紹介したい。

 いずれにしても、MCC 2.0ではサプライヤー規範を定めるに先立って、人権デューデリジェンス(HRDD)を実施したうえで、発見された顕著なリスクについて具体的に言及すべきとしているところである。企業としては、責任ある企業行動規範を企業内部に取り入れ、HRDDを実践していくことが求められる。

2 サプライヤー規範が定めるべき要素

(1) 重要な要素

 MCC 2.0はサプライヤー規範において最低限定めるべき重要な要素として、以下の5つを掲げている。

  1. 顕著な人権リスクの定義づけ
    HRDD(人権デューデリジェンス)において当事者が特定した顕著な人権リスクを明確に特定および定義し、その発生がスケジュールPの違反を構成することを明示するとともに、契約前のHRDDで見落とされた顕著なリスクに対応するための柔軟性を残しておくこと
  2. 関連法令
    契約またはその他の関係の期間中、当事者およびすべての下請業者やその他の代理人が遵守することが期待される関連法令および規制を明示すること
  3. 当事者の内部規範
    サプライチェーン内のすべての者が認識し遵守することが期待される当事者の内部規範を明示すること
  4. 関連するマルチステークホルダー基準
  5. 関連する監査プロトコル

(2) 顕著な人権リスクの定義づけ

 サプライヤー規範においては、すべての潜在的なリスクを網羅する定型文を用いるのではなく、企業が広範な人権デューデリジェンス(HRDD)を行ったうえで、サプライチェーンで発見された顕著なリスクに、具体的に言及すべきであるとされている。そのうえで、顕著なリスクを可能な限り明確に定義づけ、人権侵害を構成する行為の具体的かつ実務的な内容を明確にし、どの侵害が契約の一時停止や解除を正当化するかを特定するべきである。

(3) 関連するマルチステークホルダー基準及び監査プロトコル

 MCC 2.0では、Ethical Trading Initiative (ETI)のベースコード、SMETA(Sedex Members Ethical Trade Audit)などの参照可能な基準や監査プロトコルを列挙している。SMETAは違反の深刻度に関する評価システムを含んでおり、これらの基準等は、リスク識別やマッピングの際の出発点として有益である。

3 その他の観点

(1) 初期的HRDDに対する是正措置

 初期のデューデリジェンスプロセス中に十分に特定されなかった、または後になって発見されたサプライチェーン内の他のリスクや侵害が存在する可能性がある。そのため、サプライヤー規範の策定に当たっては、契約前のデューデリジェンスを踏まえ、契約締結時または締結後すぐに、当事者が「是正計画」を策定することに同意することが考えられる。
 この計画においては、優先順位に基づく長期的な目標と、各当事者が単独または他者と連携して実施する中間的なステップ、およびこれらのステップの達成日、報告および監視の手続を明示する。また、これらに対処するために、一時停止や解除等を定めることも有益である。

(2) フローダウン条項

 サプライヤー規範をサプライチェーン全体で実施するためには、バイヤーの人権に対する期待を明確に示し、サプライチェーンのすべての階層でこれを実施する必要がある。
 サプライヤーおよびすべての下位サプライヤーは、サプライヤー規範のすべての条項及び条件を完全に理解し、自身の事業範囲内のすべての人権問題に関する継続的な調査に基づいて契約を締結する必要がある。そのため、各サプライヤーが調達企業に対して負うすべての履行義務および責任を下位のサプライヤーにも適用することを義務付けるための、フローダウン条項を定めることが有益である。
 これをもって、調達企業と一次サプライヤー間での契約で定められた業務の実施方法や仕様は、下位のサプライヤーに対しても適用されることとなる。

 また、一次サプライヤーは、調達企業が一次サプライヤーに対して有するすべての権利、救済措置を次の階層のサプライヤーに対して行使でき、各下位サプライヤーは、サプライヤーが調達企業に対して有するすべての権利、救済措置を、上位のサプライヤーに対して行使できるようにすることも検討に値する。さらに、調達企業が、下位のサプライヤーによる人権侵害に対しても直接権限を行使できるようにすることも同様に有益である。

(3) 第三受益者条項

 また、サプライヤー規範の実効性をより高めるため、影響を受けるステークホルダー(第三受益者)に対して、サプライヤーに対する権利や監視するための権限を与えることも提案されている。
 こちらの詳細については、Corporate Accountability Labの「Towards Operationalizing Human Rights and Environmental Protection in Supply Chains: Worker-Enforceable Codes of Conduct」(2021年2月)で確認することができる。

(以上)

 

〈注記〉本資料に関し、以下の点をご了承ください。
・ 本ニューズレターは2024年8月時点の情報に基づいて作成されています。
・ 今後の政府による発表や解釈の明確化、実務上の運用の変更等に伴い、その内容は変更される可能性がございます。
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