グローバルビジネスと人権:海外贈賄有事対応ガイダンスの概要
グローバルビジネスと人権に関し、海外贈賄有事対応ガイダンスの概要と題するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
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グローバルビジネスと人権:
海外贈賄有事対応ガイダンスの概要
2024年11月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター
アジアESG/SDGsプラクティスグループ
1. はじめに
2024年4月に改正された不正競争防止法に伴い、海外贈賄リスクが高まる中、日本企業は適切な対応策の整備が求められています。特に新興国や途上国での贈賄行為は企業価値の毀損に直結する重大なリスクであり、適切な対策が欠かせません。万が一の有事には、迅速で適切な対応を行うことが、企業の信頼回復や事業の安定的な継続に直結します。特に社内調査や合意制度の活用は、企業価値を守るための重要な要素となっています。
2024年10月に海外贈賄防止委員会(ABCJ:Anti-Bribery Committee Japan)は、最新の実務動向を踏まえて、合意制度の活用までを視野に入れた海外贈賄の有事対応を具体的に示すことを目的として、ガイダンスを公表しています(以下「本ガイダンス」という)。
そこで、本ニューズレターでは、本ガイダンスの概要を紹介させていただきます。
2. 有事対応の基本スタンス
企業は外国公務員贈賄行為を「企業自身の犯罪」として捉え、危機管理の一環として合意制度を積極的に活用することが重要です。贈賄行為が発覚した場合、早期の対応がリスクを最小化する鍵となります。
贈賄リスクは日頃からのコンプライアンス体制の強化により低減できます。海外現地法人や支社への定期的な教育・研修、内部通報制度の整備により、問題の早期発見や迅速な対応が可能となります。ステークホルダー目線からガバナンス体制を強化し、役員や監査役がリスク管理をモニタリングする体制を整えておくことも有用です。
3. 初動対応および事後対応のポイント
企業が外国公務員への贈賄の疑いを把握した際、適切な有事対応を行わないと企業価値が著しく毀損する可能性があります。そのため、日本弁護士連合会の海外贈賄防止ガイダンス(手引)に基づき、以下の対応が推奨されます。
まず、更なる贈賄行為を防ぐため、現地に明確な指示を出し、証拠の保全措置を講じる必要があります。迅速な事実把握のため、担当役員を指名し、調査チームを設置し、独立した調査を行います。この際、調査チームは関係者から独立した専門家を含め、内部通報者の保護も徹底します。また、現地で行われた具体的行為が外国公務員贈賄罪の各構成要件に該当するかという法的判断が不可欠となるので、海外贈賄に詳しい弁護士を起用し、調査手法、証拠評価から法的判断まで助力を得ながら進めることが望ましいとされています。
さらに、調査結果は本社や社外取締役に適時報告し、必要に応じて第三者委員会を設置します。対外公表の要否についても検討が必要です。贈賄の疑いが高い場合は、捜査機関や外務省の相談窓口に通報し、企業が受ける損害を最小限に抑える対応を図ります。
最後に、原因究明と再発防止策の策定、関係者の処分を行い、継続的な教育とガバナンス体制の強化を図ることが求められます。
4. 合意制度の活用とメリット
合意制度は、捜査機関による取調べへの過度の依存姿勢からの脱却と組織的な犯罪(企業の関わる経済犯罪等を含む)の全容解明の両立を目的として2016年の刑事訴訟法改正により新設されたいわゆる司法取引の一種であり、2018年6月1日より施行されています。
合意は検察・被疑者(被告人)・弁護人の三者による協議で決定され、証拠の信用性や裏付けが重要となります。
企業がこの制度を利用する場合、贈賄の構成要件を満たす行為が認められれば、刑事弁護に精通した弁護士を早期に選任し、企業内調査で得た情報を弁護士と共有することが重要です。関係者との協力関係を維持し、弁護士が指示する調査や情報提供に迅速に対応する体制を整えることが求められます。担当弁護士は調査結果を精査し、企業に対し刑事手続きの見通しを示すとともに、必要な証拠の準備や協力行為の内容を整理します。
また、合意が企業の不起訴を含む内容となる場合、贈賄防止策や再発防止策なども検察に提出し、処分軽減に有利な材料とすることが有効です。交渉では検察官との信頼関係が不可欠で、合意成立に向けた対応や記録の保持、合意書面の作成が求められます。
本ガイダンスでは、特に合意制度の活用に向けた手順が具体的に示されているため、活用を検討する際の参考になると思われます。
5. 海外当局・公共調達への影響に対する対応
企業が外国公務員贈賄罪に関して合意制度を利用する場合、他国の贈賄規制の適用可能性に注意が必要です。規制が適用される場合、証拠の保全を徹底し、弁護士秘匿特権が保護されるよう対応します。また、公共調達に関わる取引がある場合、資格停止等のリスクを事前に確認し、リスク回避策を検討することが求められます。
6. まとめ
本ガイドラインは、日本企業が海外贈賄リスクに備えるための包括的な指針です。海外贈賄は企業価値を脅かすリスクがある一方、適切な対応と予防策により、事業の安定的な継続と企業の信頼維持が可能です。経営層を含む関係者全員が意識を高め、平時からの防止策を徹底していくことが求められています。
このニューズレターが、海外贈賄リスクへの対応や予防策についての社内理解を深める一助となれば幸いです。
以 上
〈注記〉本資料に関し、以下の点をご了承ください。
・ 本ニューズレターは2024年11月時点の情報に基づいて作成されています。
・ 今後の政府による発表や解釈の明確化、実務上の運用の変更等に伴い、その内容は変更される可能性がございます。
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