タイにおける債権回収と倒産対応の実務(第8回)について
タイにおける債権回収と倒産の対応の実務(第8回)について報告いたします。
タイにおける債権回収と倒産対応の実務 第8回
2021年5月6日
One Asia Lawyersタイ事務所
第8回 タイの仲裁機構での仲裁手続について その1
前回までは、タイにおける裁判制度や債権回収のポイント、保全手続、判決に基づく強制執行手続きについて紹介してきた。今回は裁判以外での紛争解決手続きである仲裁機構による仲裁手続について紹介する。
1 仲裁について
仲裁とは、当事者間の紛争について、当事者により選任された第三者(仲裁人)の判断に従うことを合意する紛争解決制度をいう。仲裁には、合意した仲裁機関において行う仲裁である機関仲裁と仲裁機関を選択せず当事者で合意した仲裁規則にしたがって行うアドホック仲裁があるが、アドホック仲裁は、手続き進め方や仲裁人の選任を当事者のみで決めることになるので、仲裁人の選任や仲裁手続の管理に困難が生じることが少なくないので、一般的には機関仲裁による仲裁が選択される。
裁判と異なる点は、裁判は裁判所が公開の法廷で審理を行い訴状の請求を認めるか否かを判断し判決は公開されるのに対し、仲裁手続は、仲裁機関が非公開の場で申立書の請求内容について判断され、その仲裁判断は原則として公開されない点である。また、裁判を行うには、当事者間の同意は不要だが、仲裁手続を利用する為には紛争当事者の同意が必要となる。さらに、裁判所での手続費用は請求額が大きくないかぎり高額となることは少ないが、仲裁手続では私人である仲裁機関が行うため仲裁人の費用が発生し、裁判所での手続費用に比べ高額になるのが一般的である。
加えて、実務上、最も重要な相違点は、タイの裁判所で判決を取得したとしても、タイはハーグ条約を批准しておらず、かつ、外国判決の承認に関する規定もないので、タイ国外でこの判決にもとづきタイ国内にある財産に強制執行することができないのに対し、仲裁については、タイは外国仲裁判断の承認及び執行に関するニューヨーク条約を批准しているので、日本や中国、シンガポールなどのニューヨーク条約を批准している国で、その仲裁判断にもとづき強制執行することができる点である。
なお、国外の仲裁機関において下された仲裁判断にもとづき、国内の財産に強制執行するためにはその財産がある国の裁判所において承認を受けた上で執行を申し立てる必要がある。
2 タイの仲裁機関
タイでは、1985年国際商事仲裁に関する国連国際商取引委員会(UNCITRAL)モデル法に準拠したタイ仲裁法により規律されている。タイにおける主な仲裁機関は、Thai Arbitration Institute (TAI)、Thailand Arbitration Center (THAC)の2つの機関である。
TAIは、1990年に設立されたタイの司法省(Office of the Judiciary)の監督下にある仲裁機関であり、仲裁手続の取扱いがもっとも多い。
また、THACは、2007年に設立された比較的新しい仲裁機関であり、タイにおける国際仲裁の促進を目的として設立された仲裁機関であり、Singapore International Arbitration Center(SIAC)の仲裁規則をモデルとした独自の仲裁規則を持っている。
TAI、THACともに、仲裁の対象となる係争の経済的価値に応じた仲裁人報酬が発生するが、THAIでは、経済的価値に応じた仲裁管理費用が別途必要となる。
なお、Thai Commercial Arbitration Committee of the Board of Trade of Thailand(TCAC)は、タイ国がニューヨーク条約を批准するにあたり設置された最初の仲裁機関であるが、現在はあまり利用されていない。
TAI |
THAC |
司法省が監督 1990年の設⽴から30年の実績 |
⾮政府組織 2007年設⽴、⽐較的、新しい仲裁機関 |
外国⼈仲裁⼈はある程度充実 |
外国⼈仲裁⼈はある程度充実 |
仲裁人の70%以上は裁判所OBといわれている |
仲裁人は弁護⼠事務所で勤務する等の実務者が⽐較的多い |
裁判所での⼿続を踏襲 |
⽐較的に柔軟な設計(SIAC、HKIACを参考) |
仲裁管理費用なし |
仲裁管理費用あり |
THACと⽐較すると、費⽤は低廉 |
TAIと⽐較すると、費⽤は⾼額 |
取扱件数はTHACよりも多い |
取扱件数はTHACより少ない |
3 仲裁手続にかかる費用
仲裁手続費用と主要な費用である仲裁人費用の概要は以下のとおりである。実際の手続きでは、仲裁人費用以外にも申立時の費用やTHACについては仲裁管理費用などその他の費用が発生する。
(1) TAIの仲裁人費用
TAIのWEBサイト(https://tai.coj.go.th/th/content/article/detail/id/46/iid/70)によれば、仲裁人1名の場合の大凡の仲裁人費用は、紛争額が200万バーツの場合3万バーツ、紛争額が500万バーツの場合6万バーツ、1000万バーツの場合10万バーツ、2000万バーツの場合16万バーツ、5000万バーツの場合25万バーツとされているが、事案に応じて仲裁人費用が増額される場合がある。
(2) THACの仲裁人費用
THACの仲裁費用算定サイト(https://thac.or.th/fee-calculator/)によれば、仲裁人1名の仲裁人費用は、紛争額が200万バーツの場合15万バーツ、500万バーツの場合は28万7500バーツ、1000万バーツの場合は56万2500バーツ、2,000万バーツの場合は100万バーツとされている。なお、これらはあくまで推定額であり、実際の仲裁手続の長短などにより実際にかかる費用は異なってくることに注意されたい。
以 上
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