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日本からベトナムへの越境 EC 法制について

2021年09月14日(火)

日本からベトナムへの越境 EC 法制についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本からベトナムへの越境 EC 法制①

 

<日本からベトナムへの越境 EC 法制①>

2021 年 9 月 14 日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

はじめに  

ベトナムは、近年、世界で最も急速に成長している Eコマース市場として注目されています。ベトナム商工省、ベトナム電子商取引・デジタル経済庁が発表した「White Book on Vietnamese E-Business 2020」によれば、2019 年の電子商取引(B2C)の売上高は約 10 億米ドルに達し、小売業の総売上高の 4.9%を占め、電子商取引プラットフォームの利用者は、ベトナム全体の人口の 42%を占めているとされています。

 しかしながら、ベトナムにおける電子商取引の問題点として、特に、国境を越えた電子商取引(いわゆる越境 EC)をエンド・ツー・エンド(E2E)で運営するための統一された法的文書がないことが挙げられます。
 この問題点を解決すべく、2020 年 3 月 27 日、ベトナム首相は「越境 EC の管理スキームの承認に関する Decision No.431/QD-TTg」(以下「Decision431 号」といいます)を発行し、これを受けて政府は、(i)取引管理と通関業務の効率を高めることを目的とした電子商取引の輸出入に関する情報の受領と処理のためのインフラストラクチャー、(ii)通関手続き、関税評価、ライセンス、ライセンス条件、検査、及びライセンス・ライセンス条件・検査の免除に関する越境電子商取引に関するルール策定を進めています。

 本稿は、ベトナムにおいて電子商取引(EC)プラットフォーム(以下「ECPF」といいます)を運営し、日本に所在する販売者が ECPF を介してベトナム人顧客に商品を販売する際の現状の法的な解釈・方法について紹介をしております。なお、本稿は、以下 7 つのパートから成ります。

目次
1 ベトナムにおける越境 EC の法的位置づけ
2 ECPF サービスに関する投資条件
(以上、本稿にて紹介)
3 商工省への登録
4 プラットフォームに関するその他の条件
5 日本の販売者に課せられる条件と商品損害賠償責任
6 代金の支払い方法
7 E-ロジスティック輸入税


1 ベトナムにおける越境 EC の法的位置づけ

 日本からベトナムへの越境 EC は、ECPF 上でベトナム在住の顧客が ECPF に日本の商品を注文し、売買が成立した後、物流会社を経由してベトナムの購入者に海外発送されます。

 上記は、ベトナム法上、電子商取引に関する Decree No.52/2013/ND-CP(以下「政令 52 号」といいます)第 35 条 1 項に定める ECPF サービスに該当します1。

2 ECPF サービスに関する投資条件

(1)ECPF 市場への参入条件―ベトナム法の適用

 WTO コミットメントにおいて、ベトナムは、ECPF サービスを含む EC 事業に関連するいかなるサービスについても、外国投資家への市場開放をコミットしていません。

 その他投資条件について参照すべき国際協定がなければ、に、外国投資家は、ベトナムの法律にしたがってその分野の投資を実施することとなります(2020 年投資法(Law No.61/2020/QH14、以下「投資法」といいます)の細則である Decree No.31/2021/ND-CP(以下「政令 31 号」といいます)第 17 条 4.b 項2)。

 したがって、ECPF サービスについても、ベトナムの法律にしたがって投資を実施する必要が
あります。

(2)ベトナム法における ECPF の投資条件

 ECPF は、電子商取引活動として、外国投資家の条件付投資分野に該当します(政令 31 号付録 I B. 55 項)。そして、電子商取引活動に関する投資条件は、Decree No.09/2018/ND-CP 号(以下「政令 9 号」といいます)に規定されており、そこに外国投資家に適用される電子商取引活動の投資条件についても規定されています。

 具体的には、外国投資家がベトナムで電子商取引活動を行うためには、次ページ表の条件を満たした上で、政令 9 号第 5 条および第 9.3 条に基づくビジネスライセンスを取得する必要があります。

(3)ECPF に関するビジネスライセンスの取得

 外国投資家は、投資法および 2020 年企業法(Law No. 59/2020/QH14)に基づき、外資企業の本社が所在する地域の計画投資局(以下「DPI」といいます)で投資登録を行うこととなります。提出された各申請書に基づき、DPI は以下を発行します。

① 投資登録証明書(以下「IRC」)及び企業登録証明書(以下「ERC」)、又は
② ベトナム企業への出資または株式購入の登録確認書(Confirmation of Registration)

 上記の発行を受けて DPI での投資登録が完了した後、外国投資家は産業貿易省(以下「DIT」といいます)に電子商取引登録申請書を提出します。

 DIT は、上記の条件を満たすだけでなく、プラットフォームのビジネスライセンスを承認・発行する前に、申請者の事業計画が同一市場に属する国内企業の競争力の程度と比較して不適合ではないかどうかを検討します。

 Lazada、Shopee、Tiki などのベトナム国内の販売者を対象とした既存のプラットフォームとは異なり、越境 EC における ECPF は、ベトナム所在の顧客が日本の販売者の商品を購入する機会を得ることができるということに特徴があります。これは、ベトナムの顧客に商品を販売することで、国内品の市場シェアを奪い、国内の販売者と競争する結果を生じさせます。当該事情に加えて、税金、外国為替管理、税関申告、偽造品・侵害品・不適格品の管理、e-ロジスティックなど越境 EC に関する統一的な法制度が未整備であることからすると、DIT が越境 EC を行う ECPF についてビジネスライセンスを付与されるかどうかはかなり不透明な状況と考えられます。実際に、現在ベトナムに拠点を置きながら越境 EC が可能な ECPF を運営している企業は見当たらず、国外の EC サイトからベトナムの顧客へ商品を販売している、というのが現状となります。

 以上から、ベトナムの法令にしたがって、越境 EC を実施しようとする場合には、ECPF に関するビジネスライセンスの取得見通しが立たない、という点が問題点の一つとして挙げられます。前述した Decision431 号を受けて政府が検討している新たなルールによって、この問題点が早期に解決されることが期待されています。

 なお、次節以降は、ビジネスライセンスが取得できた場合を前提にして、その後必要な手続きや留意点等について紹介をしています。

(②へ続く)

 

1 政令 52 号 第 35 条 ECPF サービスの提供 第 1 項
「ECPF サービスを提供する事業者・組織は、他の事業者・組織のために電子商取引のためのウェブサイトを開設し、当該ウェブサイト上で商品やサービスの売買プロセスの一部または全部を行う事業者・組織をいう。」
2 政令 31 号 第 17 条 外国投資家に対する投資条件に関する制限の適用 第 4 項
「ベトナムが外国投資家に対して投資を認めていない分野、業種への投資条件は、以下のとおり:
b) ベトナムの法令が当該事業分野における外国投資家の投資を制限している場合、ベトナムの法令を適用する。」