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日本の特定整備につき無認証である自動車整備工場でなされた請負契約の有効性について

2023年01月17日(火)

日本の特定整備につき無認証である自動車整備工場でなされた請負契約の有効性についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:特定整備につき無認証である自動車整備工場でなされた請負契約の有効性

 

日本:特定整備につき無認証である自動車整備工場でなされた請負契約の有効性

2023年1月
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia京都オフィス
弁護士 渡邉 貴士

1.事案の概要

  本事案は、クラシックカーの修理先探しに困っていたクライアントが、クラシックカーの取り扱いに慣れていて整備も可能と紹介された事業者に対し、自動車整備を委託したところ、その完了後に、委託先事業者が実は分解整備事業を行うために必要な認証を受けていないことが発覚したため、無認証事業者との整備契約は公序良俗に反し無効であるとして、支払済みの整備費用の返還を求めた事案です。

  自動車整備における分解整備(道路運送車両法(以下「法」といいます)49条2項。なお、令和2年4月1日改正後は「特定整備」と呼称変更されましたが本稿では分解整備と呼びます。)とは、原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置又は連結装置を取り外して行う自動車の整備又は改造のことです(法49条2項、同法施行規則3条)。この分解整備は、趣味の範囲で自身のためや無償で行うときは認証などは不要であるのに対し、有償で(業として)行う場合は、地方運輸局の認証を受ける必要があり(法78条1項)、この認証を受けずに無認証で整備を請け負った事業者に対しては、50万円以下の罰金という罰則もあります(法109条11号)。

  本件では、クラシックカーのキャブレター(燃料を吸い上げて空気と混合させ、その混合気を燃料としてバルブを通じて供給する部品。現在生産される自動車では用いられることは減ったが、クラシックカーにおいては原動機の中心的機能を担っていた。)の不具合、ブレーキシューがブレーキドラムに噛み込んでブレーキが作動しないという不具合があり、キャブレターの交換修理とブレーキの噛込み修理が行われました。当方としては、それら修理が分解整備にあたることを前提に、まさか委託先が無認証事業者だとは思わず、また、無認証事業者による修理だったとすると杜撰な修理がなされた可能性、危険性があると考え、整備に係る請負契約の無効を理由に整備費用の返還を求めたところ、事業者側は、無認証であることは認めながら契約は有効で整備費用の返還をする理由がないと支払拒絶したために、訴訟提起に至りました。

2.争点

  本件は、行政法規に違反する行為が私法上効力を有するのかという、公法と私法の関係に関する検討が必要なケースでした。

  (1) キャブレター交換及びブレーキシュー噛込み修理作業の「分解整備」(現在の「特定整備」)該当性
  (2) 無認証業者が分解整備を請け負う請負契約の有効性

3.判決要旨

  控訴審である大阪高等裁判所は、以下のとおり判示しました(一部抜粋、下線追記)。

 (1)-a キャブレター交換作業の「分解整備」該当性について

  「キャブレターは、エンジンに燃料を供給するための燃料装置であることが認められるところ、旧法49条2項は、原動機(同条1号)と燃料装置(同条6号)とを区別しており、旧法49条2項は、同項の規律の対象となる整備又は改造に原動機を含めているものの、燃料装置を含めていないから、同項の適用上、キャブレターの整備又は改造は、同項所定の分解整備には該当しないというべきである。」

 (1)-b ブレーキシュー噛込み修理作業の「分解整備」該当性について

  以下の当方主張を採用し、本件におけるブレーキシューの噛込み修理については、黙示的に分解整備に該当する旨認めました。

  「ドラムブレーキにおけるブレーキシューとは、ブレーキペダルを踏んで生じる油圧によりドラム部分に押し付けて摩擦を生じさせる部品である。ブレーキシューがドラムに噛み込むと摩擦が生じなくなり、制動措置が講じられなくなる。そして、その噛み込みに異常がある場合は、ドラムを取り外して分解し、スプリングなどの部品も外した上、ブレーキシューを取り替える必要がある。そのため、ブレーキシューの噛込み修理は分解整備に該当する。」

  なお、当該認定根拠としては、当方提出の神戸運輸監理部による以下の内容の「回答書」(弁護士会照会結果)が証拠として引用されています。

  「ドラムブレーキの整備作業の際に、ブレーキドラム、ブレーキシュー、ホイールシリンダー、バックプレート、シューアジャスタ又はブレーキスプリングを取り外す作業が伴う場合は、分解整備に該当します。」

 (2)  無認証業者が分解整備を請け負う請負契約の有効性

  「旧法78条1項に基づく認証は、道路運送車両に関し、安全性の確保や整備についての技術の向上を図り、併せて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより、公共の福祉を増進させる目的(法1条)を達成するため、一定の水準に達していない事業者が自動車の分解整備を行う結果道路運送車両の安全性が損なわれる事態が招来されることがないように、罰則を設けてこうした事態の一般予防を図る趣旨に出たものと解されるものの、旧法は、分解整備を目的とする契約をだれとの間で締結するかに関しては、当該認証を受けている事業者に所定の標識を掲げなければならないとする一方で(旧法89条1項)、当該認証を受けていない事業者がこうした標識に類似する標識を掲げることを禁止することで(同条2項)、当該事業者と契約を締結するかどうかを判断するに当たって重要な情報が提供されていることを可能にする規定を置いているにすぎず、当該認証を受けていない事業者が当該認証を受けている事業者の名義を借りて営業を行うことを禁止するような規定を置いていない(その点では、例えば、許可制が採用されている宅地建物取引業について、無許可者の営業が禁止されているだけでなく(宅地建物取引業法12条)、名義貸しをも禁止し(同法13条)、いずれの違反についても罰則(同法79条2号、3号(いずれも令和4年法律第68号による改正前のもの))を設けている同法の規制とは異なる規制にとどまっている。)。そうすると、旧法78条1項に基づく認証を受けていない事業者が道路運送車両の修理又は整備・車検に係る請負契約を締結した場合であっても、そのことだけで、当該行為の反社会性が強いとまで評価することはできず、①旧法80条所定の認証基準に適合する設備及び従業員を有していないのに、顧客に対してこれを有するかのごとき説明をするなどして旧法89条の趣旨を潜脱するような態様で分解整備を伴う作業を依頼する契約を締結したとか、②実際の分解整備が、旧法80条所定の認証基準に適合する従業員によらない分解整備が行われた結果、現に道路運送車両の安全性を損なう状態になったことが明らかであるとかの特段の事情がない限り、請負契約が公序良俗に反することを理由に無効になるとはいえないものと解するのが相当である。」

4.実務の影響

  本判決は、上記(1)について、法令上明確でない「分解整備」の該当性判断をどのように行うかついて、まずは整備を行った各部品が、その機能からすると法41条1項のいずれに該当するかを検討し、そして、同項各号の部品に関わる道路運送車両法上の規律内容を参照して判断するとの枠組みを示しました。また、分解整備該当性は法的判断ではあるものの、地方運輸局からの回答書に基づく判断もなされている点で、運輸局への照会は有効な立証方法でした。

  そして、上記(2)については、無認証業者による不正受検や不適切整備がニュースでも取り沙汰されているなか、事後的に無認証であることが発覚した場合に、その費用返還を求められるか否かについて、請負契約の有効性(公序良俗違反の有無)に関する一般的規範を示し、画期的な判断がなされたといえます。

  本件のような行政法規違反の私法上の効力への影響という論点は、行政法上の重要テーマです。基本的には「行政法規違反の状態の反社会性」などといった抽象的規範のもと、各違反行為の事情を個別検討するケースが多く、例えば非弁行為がなされた場合の報酬の帰趨などについては先例がありますが、自動車整備の文脈においては、道路運送車両法違反が私法上いかなる影響を有するかの判断がなされたケースは本件で関わる限りありませんでした。それが今回の判決により、どのような場合には公序良俗違反となるかの一般的規範が示され、今後の自動車整備実務に大いに影響が生じると考えられます。

  たとえば、名義貸しについては本判決で許容する内容でしたが、名義貸しすらなく、あたかも自身が認証事業者のようにふるまって営業行為や説明をしたとか、現に整備後車両に不具合が生じているとかのケースにおいては、公序良俗違反を理由に、車検や整備に係る請負契約の無効を主張して報酬返還を求められます。これまでは認証有無を特に問題とせず技術があることを売りにしていた整備事業者、メカニックについては、本件の一般的規範を意識した受託が必要になるといえます。

以上