• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

シンガポール競争法の企業結合規制について

2023年05月24日(水)

シンガポール競争法の企業結合規制についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

シンガポール競争法の企業結合規制

 

シンガポール競争法の企業結合規制

2023年5月
One Asia Lawyers Group
競争法プラクティスグループリーダー
弁護士 鴫原 洋平

第1 シンガポールでの企業結合規制

 現在のシンガポールにおける企業結合に対する規制は、競争法(Competition Act)によって行われています。日本法人同士の合併や事業譲渡等であっても、シンガポール国内の競争を阻害する場合には、競争法が適用されます(競争法第33条第1項参照)。近年、日系企業に対して当局が調査する事例も増えており、シンガポールでの企業結合規制に反しないかは、慎重に検討いただく必要があります。

第2 企業結合規制の概要

 シンガポールの国内市場における競争を実質的に減少させる又は減少させると予想される企業結合は禁止されます(第54条第1項)。企業結合には、事業者間の合併、他の事業者の支配権の取得及び事業譲渡(第54条第2項乃至第4項)、合弁会社の設立(第54条第5項)等も含まれます。

 企業結合手続に関するCCCSガイドライン(以下「企業結合ガイドライン」という。)によれば、小規模な企業のみを対象とする合併、すなわち、前会計年度について、シンガポールにおける売上高が500万シンガポールドル以下、かつ、全世界における売上高の合計が5千万シンガポールドル以下の場合等の、小規模な企業のみを対象とする合併であれば、調査を行う可能性は低いと考えられています(企業結合ガイドライン第3.5項)。また、企業結合後の企業の市場シェアが40%以上となる企業結合、又は、企業結合後の企業の市場シェアは20%から40%未満の間で当該結合後の市場上位3社の合計シェアが70%以上となる企業結合のいずれかに該当しなければ、一般的には、競争の実質的な減少が生じる可能性は低いと考えられています(企業結合ガイドライン第3.6項)。ただし、上記割合を下回る企業結合が禁止される可能性や、上記割合を上回る企業結合が認められる可能性があります(企業結合ガイドライン第3.7項)。

 企業結合規制に違反した場合は、シンガポールにおける事業者の事業の該当する売上高の10%以下の最大3年までの課徴金が課される可能性があります(競争法第69条第4項、競争法課徴金規則(Competition (Financial Penalties) Order 2007))。また、個人に対しても、シンガポール当局であるCCCS(Competition & Consumer Committee Singapore)に対して虚偽の情報提供を行う等(第77条)の競争法違反行為を行い、競争法上有罪と認定された場合には、他に特段の規定がない限り、1万シンガポールドル以下の罰金若しくは12か月以下の懲役又はこれらが併科されます(第83条)。

第3 事前届出、手続等

 企業結合に該当すると想定される取引を行おうとする事業者は、CCCSに事前届出を行う必要があります(第57条第1項)。届出基準は明確に示されていないですが、企業結合ガイドライン第3.5項や第3.6項の基準に該当する可能性のある事業者であれば、届出を行うことが推奨されます。

 CCCSは、事前届出を受けた企業結合が、第54条に違反するか否かの決定を行うことができます(第57条第2項(a))。CCCSは、第54条に違反すると決定する場合には、当事者に対し、書面による通知をしますが、当事者は、CCCSによる通知日から14日以内に、当該企業結合が第54条の適用除外に該当する旨を大臣(Minister)に申し出ることができます(第57条第3項)。当該申出に対する大臣の決定が、最終決定とされます(第57条第4項)。

 他方で、CCCSが、第54条に違反しないと決定する場合は、①第54条の適用が除外されるため、②公共の利益を理由とする禁止の免除事由に該当するため、又は③問題を解消する確約措置(commitment、第60条A第1項)を受け入れたためとされています(第57条第2項(b))。

第4 直近のCCCSの公表事例

 2023年4月27日、CCCSは、日系企業による日系企業に対する事業譲渡について、第54条に違反しないとの結論を発表しました。この事案は、いずれもシンガポール子会社を保有する日系企業間の事業譲渡であり、これにより、シンガポール国内の競争を阻害する可能性がないかが検討されました。

 同日系企業は、2022年11月8日、CCCSに対して、シンガポールでの競争を阻害すると判断されるリスクを踏まえ、事前届出を実施したものと推察されます。その後、CCCSは、2022年11月11日から同月25日までの間、同日系企業の競合他社や顧客から意見募集(public consultation)を行い、その約半年後に結論を出しました。

第5 最後に

 近年、米国、欧州や東アジアだけでなく、シンガポールをはじめとする東南アジアの国々の当局による摘発事例が増えており、日系企業が摘発の対象となっている案件も散見されます。企業結合規制を含め、各国競争法の規制内容に適合するコンプライアンス体制を整えることが推奨されます。そして、必要に応じて、上記日系企業と同様、CCCS(当局)への必要な手続を実施する必要があります。