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ASEAN News Letter タイの不動産法制

2017年02月24日(金)

タイの不動産法制についてご紹介致します。
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タイの不動産法制

弁護士(日本法) 松 本 久 美
弁護士(タイ法) Wepjitti Somkiatjaroen

■ タイの不動産に関する法律

 タイの不動産に関する法律としては、基本法である民商法典(Civil and Commercial Code、以下、「民商法典」)特別法である土地法(Land Act B.E.2497(1954)、以下、「土地法」)、及びコンドミニアム法(Condominium Act B.E. 2522(1979)、以下、「コンドミニアム法」)等が存在します。
 民商法典は、不動産の定義、売買、賃貸借、使用貸借等に関する一般的な規則等を定めています。土地法は、公共財産としての土地に関する規定、土地の管理に関する規定の他、登記、権利証、外国人や外国法人による土地取得に関する規則等を定めています。コンドミニアム法は、コンドミニアムの区分所有権、権利証、登記、コンドミニアムの規約に関する定め等を含むコンドミニアムの管理機能を担うコンドミニアム法人(Condominium Juristic Person)に関する規定、外国人や外国法人による区分所有権取得に関する規則等を定めています。

■ 外国人・外国法人によるタイの不動産取得規制

 外国人及び外国法人は、タイ国民ほど自由にタイの不動産を所有出来るわけではありません。以下、タイにおける外国人、外国法人による不動産所有規制につきみていきます。

1 土地所有に対する厳格な規制と例外

 (1) 原則
 外国人や外国法人は、原則、タイの土地を所有できません(土地法第 8 章)。
 ここでいう外国人とは、タイ国籍以外の個人を指すと解されています。また、外国法人とは、①外国側の登録資本の保有割合が 49 パーセントを超えるか、または、②外国株主の人数が全株主の過半数を占める株式会社等を指します(同法第 97 条)。なお、詳細は割愛しますが、土地を購入しようとする法人の株主の中に①または②の条件を満たす法人が存在する場合にも土地の所有が規制される可能性があります(同法第 98 条)。
 したがって、日系企業がタイの土地を購入しようとする場合、タイの規制を踏まえたスキームを
策定する等の対応が必要となります。

 (2) 例外
 もっとも、日系企業にとってこの所有規制をクリアする条件を整えることは相当程度難易度が高いと言えます。そのため、例外的措置を利用してタイの土地を取得することが考えられます。その一例としては、商業目的であれば、タイ投資委員会(The Board of Investment of Thailand、通称BOI)の許可を得る方法(投資奨励法第 27 条)やタイ工業団地公社法(Industrial Estate Authority of Thailand Act B.E. 2522(1979))上の例外を利用する方法があります(タイ工業団地公社法第 44 条)。居住目的であれば土地法上の例外措置利用を検討する余地があります(指定事業に対して 40,000,000 バーツ以上の投資をすること、投資期間が 3 年以上であること、バンコク、パタヤ、その他指定された地域内の土地であること、土地の面積が 1 ライ(1,600 平方メートル)以下であることといった条件を満たし、かつ、内務省の大臣の許可を得る必要あり、土地法第 96 条の2)。

 (3) 名義貸しに対する罰則
 上述の通り、タイでは、外国人、外国法人に対する厳しい土地所有規制が課せられています。そこで、問題となってくるのが、規制を逸脱するために利用される名義貸しです。
 この点、タイにおいて自由に土地を所有できるタイ人等が、土地の取得が禁止される外国人または外国法人に代わって土地を取得する、いわゆる名義貸しを行うことは土地法により禁止されています(土地法第 96 条)。違反した場合、2 万バーツ以下の罰金もしくは 2 年以下の禁固またはその併科の対象となります(同法第 113 条)。また、名義貸しにより取得した土地は指定された一定期間内に売却等の処分をしなければなりません(同法第 94 条、96 条)。

2 建物取得については規制なし

 他方で、建物に関しては、外国人や外国法人の所有制限を定めた法令は見当たりません。したがって、外国人や外国法人であっても、自由にタイの建物を取得、所有することが出来ます。
 建物は土地と別個の不動産として所有権の対象となりますが、もっとも、タイには、建物単体の登記制度や所有権者を証明する権利証制度が存在しない等の問題があるため、借地上の建物の所有権のみを取得する際には、十分に留意する必要があります。

3 原則取得自由のコンドミニアムユニット
 外国人や外国法人によるコンドミニアムのユニットの区分所有権は、原則として自由に取得が可能です。但し、コンドミニアム法は、以下の条件を満たす必要があるとしています(コンドミニアム法第 19 条)。

 ① 移民法(Immigration Act B.E.2522(1979))に基づきタイに居住することを許可された外国人
 ② 投資奨励法に基づきタイに入国することを許可された外国人
 ③ タイ法に基づき登記された法人で、土地法第 97 条及び第 98 条に定められた法人
 ④ 仏歴 2515 (1972) 年 11 月 24 日付 The Announcement of the Revolutionary Council No. 281に基づく法人で、かつ、投資奨励法に基づき投資奨励証を取得した法人
 ⑤ 法律上外国人又は外国法人とみなされる場合であって、タイ国内に外貨を持ち込んだ者、タイ非居住者のタイバーツ口座から預金を引き出した者、若しくは、外貨預金口座から預金を引き出した者

 上記に加え、さらに、外国人、外国法人が保有するコンドミニアムのユニットの総床面積は、コンドミニアムの全ユニットの総床面積の 49 パーセント以下でなければなりません(コンドミニアム法第19 条の 2)。全ユニット数の 49 パーセントではない点がポイントです。
 土地の場合と異なり、対応が比較的容易な条件と言えます。実際に、外国人によるタイのコンドミニアムのユニット購入は活発に行われています。


■ 不動産に関する権利証

 土地については、Chanote(チャノート)または Nor Sor 4 と呼ばれる権利証が存在します。また、コンドミニアムについても、権利証が存在します。したがって、権利証を調査することにより、土地の所有権者、コンドミニアムのユニットの区分所有権者を確認することが可能です。
 他方で、建物については、建物単体の権利証は存在しません。既に売買がなされている建物であれば登記された売買契約が存在する可能性が高く当該契約書から所有権者を確認することも考えられますが、完全な所有権を証明する権利証とは異なり、所有権の公示機能が弱いと言わざるを得ないため、注意を要します。

■ 不動産売買に関する注意点

1 不動産売買と登記
 タイにおいて不動産の売買を有効に行うためには、書面による合意に加え登記を行う必要があります(民商法典第456条)。つまり、仮に売買契約書を締結したとしても、所有権移転登記が完了されない限り、当該不動産売買契約は有効となったとは言えません。

2 コンドミニアムの区分所有権売買と契約書
 コンドミニアム法第 6 条に基づきコンドミニアムの登記をしたコンドミニアム所有者がそのユニットを売却する場合、売買契約書は内務大臣の定める形式に従わなくてはなりません。売買契約書に内務大臣の定める形式に則していない部分があり、かつ、内務大臣の定めたものよりも買主に不利な内容である場合には、この部分については強制することはできないとされています(コンドミニアム法第 6/2 条)。なお、内務省の提供する販売契約書の書式には、売買合意、売買代金等に加え、売主が構造部分や設備につきコンドミニアムの登記日から 5 年間、その他の部分については2年間、コンドミニアムのユニットの瑕疵につき責任を負う等が記載されています。

■ 不動産賃貸借に関する注意点

1 不動産賃貸借契約と書面合意
 タイでは、不動産の賃貸借に関し問題が起こり相手方に責任を追及したい場合、相手方が署名した書面がなければ裁判により履行を強制できません(民商法典第538条)。そのため、タイで賃貸借契約を締結する場合には、必ず契約書を作成してください。

2 不動産賃貸借契約の最長期間
 民商法典上の不動産の賃貸借契約の最長期間は30年であり、これを超える場合は30年まで短縮されます(同法典第540条)。30年を超える期間の賃貸借契約の締結を希望する場合には、賃貸借契約を更新する方法によることが一般的とされています。

3 不動産賃貸借契約の登記義務
 賃貸借契約期間が3年を超える場合には、書面によって契約を締結し、かつ、登記をしなければ、裁判により履行を強制できる期間が3年に限定されてしまいます(同法典第538条)。賃貸借契約期間が3年以下であれば、登記は必要ありません。そのため、タイでは、不動産の賃貸借契約期間を3年以内に設定するケースが多くなっています。