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ASEAN News Letter 特別号 クラスアクションについて

2017年03月04日(土)

日本版クラスアクションとAsean各国のクラスアクションの比較についてご紹介致します。

ダウンロード→News Letter Special Class Action Japan

 

日本版クラスアクションの創設および

ASEAN各国のクラスアクションとの比較

1 はじめに

 2013年12月4日に成立した「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(消費者裁判手続特例法)が2016年10月1日に施行されました。同法は、これまで損害を受けた消費者の多くが、事業者との情報・交渉力の格差、被害回復のための労力・コストにより「泣き寝入り」をしてしまっていた状況を受けて制定されたものです。

 これまでも消費者契約法の中で差止訴訟については団体訴訟が認められていたのですが(消費者契約法12条)、同法の施行によって消費者契約に関する損害賠償請求についても団体訴訟が認められることになります。

2 制度の基本的な内容

 同法3条1項は、「『特定適格消費者団体』は、事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務であって、消費者契約に関する次に掲げる請求に係るものについて、共通義務確認の訴えを提起することができる。」と定められています。

(1)特定適格消費者団体

 「特定適格消費者団体」とは、消費者契約法上の「適格消費者団体」(消費者契約法2条4項)のうち(現在全国11団体)、内閣総理大臣の認定を受けた団体(同法2条10号)です。

(2)対象となる請求

 同法3条1項が「消費者契約に関する次に掲げる請求」としてあげているものは、以下のとおりです。

①債務の履行の請求(例:ゴルフ会員権の預り金の返還請求に関する事案)
②不当利得にかかる請求(例:学納金返還請求に関する事案)
③契約上の債務の不履行に基づく損害賠償の請求(例:製品の品質問題に関する事案)
④瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求(例:マンションの耐震基準未達に関する事案)
⑤不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の責任(例:架空の未公開株取引に関する事案)

 なお、請求の対象となる損害は財産被害(典型的には欠陥製品などの購入代金)に限られ、「拡大損害」や「逸失利益」「生命身体への損害」や「精神的苦痛(慰謝料)」は除外されています(同法3条2項)。

(3)二段階手続

 手続としては、二段階手続が取られています。一段階目の共通義務確認の訴えでは、特定適格消費者団体が原告となり、相当多数の消費者と事業者との間の共通義務の存否について裁判所が判断します。一段落目で原告が勝った場合に二段階目に移行して、個々の消費者が二段階目である対象債権の確定手続に加入し、簡易な手続によってそれぞれの債権の有無や金額が迅速に決定されます(同法12条)。

 一段階目の訴えの結果から、裁判に勝てるかの見通しが立った上で二段階目の手続への参加を決めることができるので、個人が各自に裁判を起こす場合より負担が大幅に軽くなることが期待されています。

3 アメリカのクラスアクションとの比較

 本制度は日本版クラスアクションとも呼ばれますが、本制度はアメリカのクラスアクションとは大きく異なります。

 まず、アメリカの場合は、除外の申し出をしたものを除く全被害者が対象となることが一般的ですが、本制度はあくまでも届出によって手続に加入した対象消費者のみが対象者となります。また原告についても、アメリカは被害者であれば誰でもなれますが、日本の場合は、「特定適格消費者団体」に限定されています。さらに、アメリカは請求の対象に限定はありませんが、日本は、消費者契約法に関する請求のみであるという限定があります(同法3条1項)。加えて、請求額についても、アメリカでは懲罰的賠償の制度がある一方、本制度では拡大損害等は認められておらず、実際に生じた損害の填補のみ認められているに過ぎません(同法3条2項)(消費者庁「消費者裁判手続特例法Q&A」Q6に対する回答を参考)。

4 事業者側への影響

 上記のように、日本版クラスアクションは、直ちにアメリカで見られるような巨額の訴訟が多数提起されるわけではないと思われますが、被告となるだけで企業イメージへの悪影響は予想sれますし、取引価格が大きくなれば損害賠償額も大きくなるため、注意が必要であると言えるでしょう。

5 ASEAN各国におけるクラスアクション制度

 ASEAN各国においては、まだ、アメリカと同様のクラスアクション制度が導入されている法域は少ないのが現状です。ただし、以下のように、アメリカを参考にしたクラス・アクション制度を導入したシンガポール、マレーシア、タイなどいくつかの法域においては、類似した制度がある為注意が必要です。

(1)シンガポール

 シンガポール裁判所規則(Order15 Rule 12)においては、代表訴訟(Representative Action)という制度が存在します。この制度においては、訴訟手続きにおいて複数の当事者が存在し、裁判所の特段の指示がある場合に、代表者一人が複数の原告を代表して提訴することができるという制度であり、イギリス法民事訴訟規則に由来した制度です。

 この代表訴訟においては、以下の2つの条件を満たす必要があります。1つ目の条件は、代表原告が、その他の複数の原告が「同じ利益を有する(same interest)」者であるということを証明する必要(同じ利益の条件)があるという要件です。2つ目は、裁判所が全ての状況を考慮して判断した上で、代表訴訟を提起することが適切であると判断する必要(適切性の条件)があるという要件です。

 2013年10月のKoh Chong Chuah v Treasure Tresortにおいては、上記の代表訴訟の原告適格性が争われました。本判決においてシンガポール裁判所は、イギリス、カナダ、オーストラリアにおける判例法利を審査したうえで、代表原告は、全ての原告のために活動し、かつ活動できる能力を有していることが明確に示されなければならないということが示されました。さらに、全ての原告が、認められた(認められ得る)救済手段に対して、同様の利益を有していなければならないという原則も示したものの、幅広く柔軟に、代表適格性を認めました。このため本判決は、代表訴訟が極めて幅広く、種々の形で用いられることができることを示したものであり、例えば製品の欠陥などに起因した種々の被害者らが、代表原告のもと、代表訴訟を適することができる途を示したものと評価されています。シンガポールにおいては、いまだ多くの代表訴訟が提起されている状況ではないものの、今後、この代表訴訟の用いられ方に注目が集まっています。

(2)マレーシア

 マレーシアにも上記と同様の代表訴訟(Representative Action)という制度が定められております。もっとも、シンガポールよりも代表訴訟は利用されていないのが実務の現状の様です。

(3)タイ

 タイにおいては、不正行為などの一定の侵害行為に対して、環境法、消費者保護法、証券取引法、競争法および労働法に基づく権利の保護のため、クラス・アクションを提起することが可能であることが、民事訴訟法に規定されています。民事訴訟法上にクラス・アクション制度が明記されていることが、シンガポール・マレーシアとは異なる特徴となっています。

 一定の例外を除き、タイのすべての裁判所がクラス・アクションについて審理する司法権を有することが規定されており、例えばクラス・アクション請求が動労者の権利の侵害に関するものである場合、労働裁判所が管轄を有する裁判所となります。

 タイにおいては、「クラス」の定義を、当該クラスの各メンバーが同一の「共通事実」に関して同一の権利を有している場合に、被告に対して互いに類似の特性を有する一人または二人以上のものを含むものと、比較的幅広く定義しています。そして、クラス・メンバーは一定の通知手続により、クラス・アクションの開始について通知を受け、手続きを進めることができるものとsあれています。クラス・メンバーの時効期間は、クラス・アクションが提起された時点でクラス・メンバー全員について時効停止がなされることになります。

 クラス・アクション制度導入時の説明覚書においては、クラスのグループ分けが認められる事由が例示されているところ、工業プラントから河川に放出された汚染排水により被害を被った原告のクラスにおいては、農業用水として水を抽出したことにより被害を被った原告と、汚染された飲料水を摂取したことにより被害を被った原告とでクラス・メンバーをグループ分けすることが認められることとされています。タイにおいては、米国のクラス・アクションとは異なり、損害の性質が異なることを理由とする場合にのみクラスのグループ分けを認めており、クラス内で事実上の論点または法的論点に関する違いがある場合についてはグループ分けを認めていません。

 同じクラス・メンバーは、判決金銭債務に関して上訴する権利のみを有し、法または事業の誤りを理由に控訴裁判所または最高裁判所に上訴する権利を有しないこととされています。

 このように、タイにおいては、比較的アメリカに類似したクラス・アクション制度が民事訴訟法上に定められていることに注意が必要です。