マレーシアにおける民事裁判(6) ~ストライク・アウト~
マレーシアにおける民事裁判を紹介するニュースレターの第6弾を発行いたしました。今回は、被告の側から正式裁判になる前に訴訟を取り消す「ストライク・アウト」について解説いたします。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
マレーシアにおける民事裁判(6)
~ストライク・アウト~
2023年12月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士 橋本 有輝
マレーシア法弁護士 Clarence Chua Min Shieh
1.はじめに
本シリーズは、マレーシアの裁判制度を概観するものであり、前回は、原告が正式裁判によらずに判決を得るための手段を解説した。
今回は、被告の側から正式裁判になる前に訴訟を取り消す「ストライク・アウト」について解説する。
2.ストライク・アウトとは
裁判所規則(ROC)第18条のRule 19(1)は、訴訟当事者は訴訟手続のどの段階においても、裁判所に対し、以下の理由で相手方当事者の主張(Pleadings)を取り消すよう申請することができると規定している。
(1) 合理的な訴因または抗弁を開示しない(同項(a))
(2) スキャンダラス、軽薄、または煩瑣である(同項(b))
(3) 訴訟の公正な裁判を害し、困惑させ、または遅延させる可能性がある(同項(c))
(4) その他、裁判所の手続を濫用する場合(同項(d))
なお、ここでいう主張(Pleadings)とは、請求原因(Statement of Claim)、抗弁(Defence)、反訴(Counterclaim)などを指す。したがって、理論上、ストライク・アウトは両当事者が申立て可能なものである。とはいえ、仮に抗弁が不合理な内容であれば、原告としては、前回説明をした略式判決の申請をすることが通常であるため、一般的には、本制度は被告のためのもの、という位置づけである。
3.ストライク・アウトを申し立てる方法
当事者は、相手方の主張につき上記2記載の事由が存在すると考える場合、その理由を記載した宣誓供述書(Affidavit)を添付した申立通知書(Notice of Application)を提出する必要がある。
4.以下では、各事由の具体例を概観する。
(1) 合理的な請求原因または抗弁を開示しない
これは文字通り請求原因や抗弁を基礎づける事実の主張を欠くような主張を意味する。
(2) スキャンダラス、軽薄、または煩瑣である
Indah Desa Saujana Corporation Sdn Bhd & Ors v. James Foong Cheng Yuen & Anor の判例では、「スキャンダラス(scandalous)」とは、不愉快な主張だけでなく、全く不必要で無関係な主張を意味し、「軽薄(frivolous)」または「煩瑣(vexatious)」とは、弁論が明らかに成り立たないことを意味すると定義されている。しかし、答弁書が何らかの訴訟方針を開示している限り、あるいは裁判官の判断に適う何らかの問題を提起している限り、単に事件が弱く、裁判で成功する見込みがないという事実は、取り消しの理由にはならないことに留意すべきである [1]。
(3) 訴訟の公正な裁判を害し、困惑させ、または遅延させる可能性がある
これは通常、公序良俗や正義の利益を考慮することを意味するため、ストライク・アウト事由の「キャッチオール条項」と見なされている 。なお、裁判所規則(ROC)第18条のRule 19(1) (c)および(d)に基づく理由は、その類似性から、通常、併記される。
5.申立ての最終ステップ
宣誓供述書(Affidavit)を添付した申立通知書(Notice of Application)は相手方当事者に送達する必要がある。
これを受けた相手方当事者は、同書に対して反論を行う必要がある。
以上のやり取りを踏まえ、裁判所は、その申立ての正当性を判断し、理由があると考える場合は、当事者の主張の全部または一部を取り消すことが出来る。
6.まとめ
上記についてご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
[1] Bandar Builder Sdn Bhd & Ors v. United Malayan Banking Corporation Bhd [1993] 4 CLJ 7 SC