• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

シンガポール法律コラム:第4回 シンガポール新法紹介/小売店舗用賃貸借契約法(1)(Lease Agreements for Retail Premises Bill)

2023年12月14日(木)

「シンガポール法律コラム:第4回 シンガポール新法紹介/小売店舗用賃貸借契約法(1)(Lease Agreements for Retail Premises Bill)」と題したニュースレターを発行いたしました。シンガポール法律コラムは、今後も引き続き連載の予定となります。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

シンガポール法律コラム:第4回 シンガポール新法紹介/小売店舗用賃貸借契約法(1)(Lease Agreements for Retail Premises Bill)

 

シンガポール法律コラム
4  シンガポール新法紹介/小売店舗用賃貸借契約法(1)
(Lease Agreements for Retail Premises Bill)

2023年12月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

 みなさん、こんにちはOne Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。今回は皆さんの生活に影響を与える可能性のあるシンガポールの新しい法律、「小売店舗用賃貸借契約法(Lease Agreement for Retail Premises Bill))」をご紹介したいと思います。

 皆さんがシンガポールに住み始めて、初めて目にする契約書の一つが、賃貸借契約書(Lease Agreement)であると思います。そして、その契約書の長さと日本とは大きく異なるその内容に驚かれたのではないでしょうか。
 まず、賃貸借に関する法律の考え方が、日本とシンガポールではそもそも異なっています。日本では「借地借家法」という法律があり、この法律によりテナントの権利が手厚く保護されています。例えば、テナントがオーナーに正当な事由なく契約の更新を拒絶された場合、借地借家法28条に基づき、オーナーの不当な更新拒絶は認められないとされています。日本においては、(定期借地・借家ではない限り)更新することはテナントの権利であり、よりテナントを保護した法律の仕組みになっています。また、(定期借地・借家ではない限り)基本的にテナントから事前に通知をすれば途中解約も認められており、契約期間の途中でも解約が可能となっています。
 他方、シンガポールでは、オーナーとテナントの権利関係を定める借地借家法のようなテナントを保護する規定はなく、コモン・ローの法域であることから賃貸借契約書の文言が重視されます。そして、契約書に記載があれば、オーナーに相当有利であってもその契約に従わざるを得ません。一般的に、契約締結時にはオーナーが交渉上有利な立場にあることが多く、結果として、オーナーに相当有利な内容で契約せざるを得ないことも多いのが現状です。皆さんも、シンガポールにおいて賃貸借契約を更新したいと思っても、オーナーの都合で更新が拒絶されたり、賃料の増額を受け容れざるを得ない状況、途中解約が認められず途中解約をしたところ残期間分の賃料を請求されそうになったなどの状況を経験された方もいらっしゃるかもしれません。

 このようなオーナーに有利過ぎる状況を解消すべく、Fair Tenancy Industry Committee (FTIC)[1]という機関が、「小売店舗の賃貸借契約に関する行動規範」(Code of Conduct of Leasing of Retail Premises in Singapore)[2]を作成していました。この規範は、小売店の賃貸借契約の交渉時におけるオーナーとテナントの公平性を確保することや、両者が長期的かつ有益な関係を継続させることを目的としています。なお、この規範は、あくまでも小売店の賃貸借契約のみを対象としており、通常の居住用の賃貸借は対象にしていません。また、これ自体は法律ではなく、契約をする当事者間の不均衡なパワーバランスを解消するための指針に過ぎないため、法的義務は発生していませんでした。
 この点、2023年7月4日、Lease Agreements for Retail Premises Bill(小売店舗用賃貸借契約法、以下、「本法案」)がシンガポール国会に提出されました。本法案は上記の行動規範の遵守を義務付ける法律となっており、2024年の2月から施行される予定であると発表されています。予定通りに進むと、2024年2月からシンガポールにおける飲食店やジムなどを含む小売店舗で、賃貸借契約が1年以上であれば本規範に従わなければならないこととなります。そのため、以前は従うかどうか当事者に委ねられていた行動規範も、2024年2月から義務としてオーナーとテナントは従わなければならなくなります。今まで法律では保護されていなかったテナントの権利が、本法案の成立によって守られることになります。

 今回は、日本とシンガポールの賃貸借契約の相違点と、シンガポールにおいて新たに成立した小売店舗に関する賃貸借契約法の成立についてご紹介しました。次回は本法が具体的にどのようなケースで適用されるのかご説明いたします。

 

[1] https://www.ftic.org.sg/
[2]  https://www.ftic.org.sg/code-of-conduct-version-3-draft/

 

※本稿は、シンガポールの週刊SingaLife(シンガライフ)において掲載中の「シンガポール法律コラム」のために著者が執筆した記事を、ニューズレターの形式にまとめたものとなります。