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(第一回)イギリスで学ぶアフリカ社会と法

2024年01月04日(木)

現在、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院に在籍している原口 侑子弁護士によるニュースレターシリーズの第一回を発行いたしました。今後も引き続き連載の予定となります。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

(第一回)イギリスで学ぶアフリカ社会と法

(第一回)イギリスで学ぶアフリカ社会と法

2024年   1月
One Asia Lawyers Group
日本法弁護士 原口 侑子

 (はじめに)
当事務所に加入した原口侑子弁護士は、アフリカなどの新興国での豊富な経験を有しており、現在は、イギリスのロンドン大学東洋アフリカ研究学院[1]にて、アフリカ社会と法についての研究を社会人類学と法の観点から行っております。本稿からシリーズで、原口弁護士の研究概要・知見や体験の共有、日系企業への提言などについてご紹介させていただきます。


イギリスの大学院にアフリカの法人類学を学びに来ている。正確に言うと法人類学という学部はない。社会人類学部の修士課程に在籍して社会と法律(または慣習法や地域の伝統法などの準法律)との関わりを研究のメインテーマに据えながら、同時に法学修士のアフリカ法と開発の講座も履修している。

アフリカでは植民地時代にヨーロッパの影響で策定された国家の法や裁判制度ももちろんあるが、地域の首長制度(Chieftaincy)や民族のルール、いわゆる慣習法は今も各国で「代替的司法制度(Alternative justice system)」として認められており(憲法上明記されている国もある)、紛争解決の仕組みとして裁判所だけでなく地域の首長や民族の長老、宗教リーダーが果たす役割は大きい。

これまで弁護士として、東はケニア・タンザニア・ルワンダ、南はザンビア、西はコートジボワールで主に国家法と地域の代替司法の役割を調査してきた。植民地時代に引かれた国境線は、「司法制度」とのかかわりにおいて半分は国家法・国家司法制度として機能している。しかし同じ国の中でも例えばケニアでは民族ごとに家族問題や隣人とのトラブルが起こったときの「掟」が違う。国境をまたいで移動する遊牧牧畜民がトラブル解決のために誰に頼るかというと主張であったり長老であったりする。国の裁判所は遠く、時間もお金もかかる。
国家司法制度と代替司法制度の境界があいまいになっている国もある。ルワンダでは1994年の虐殺以来、草の根で紛争解決を行う仕組みがあったが(Gacaca法廷、2012年に終了)、こうした民間での動きを参考にして、国家が仲裁の仕組みを作るなどの動きがある。

こうした代替司法を調べるにあたっては、国境線にとらわれずにミクロな地域・民族の考え方をより草の根から理解する必要があった。そこでアフリカ内で大学院に行って研究をすることも考えた。しかし同時に、アフリカ大陸の各地域をもう少しマクロな視点で見ようとすると、またその際に欠かせない「脱植民地化(decolonisation)」の概念を学ぼうとすると、皮肉にも植民地支配をしていた側のイギリスに行くことが手っ取り早かった。アフリカ各国の国家法にはイギリス法の影響もある。結果、法学だけでなく社会科学・人文科学の分野で脱植民地化関連の研究者を輩出しているロンドン大学東洋アフリカ研究学院を選んだ。

法学と人類学は「社会」へのアプローチが違う。人類学が「社会」を関係性としてとらえ、儀式や親族関係、国家、人間を超えたマルチスピーシーズの価値観といった世界観を個人の視点から理論化していくのと比べて、法学は社会課題や社会開発に対してルールがどう取り組むかを問う。特にアフリカにおいては全体として、「既にある規制の役割は何か」を問うことが多い日本と比べて、どのように国家や地域社会、さらには国を越えた広域社会が規制を作っていくかを議論することが多い。
私が学んでいるアフリカ法のコース(アフリカ法と開発)も、アフリカ各地の社会との関係で法の果たす役割を常に未来志向で問いかけてつづけている。経済発展・人権・社会開発といった概念を束ねていわゆる「開発」と定義するとして、では国内法はケニアのITスタートアップをどう規制するのか。南アフリカの憲法で定められている首長はその村の保健のために何ができるのか。一か国を超えた広域社会のルールはニジェールのクーデターに起因する社会の混乱に対して何ができるのか。

「アフリカ」は広い。54か国に千をゆうに超える民族が暮らし、14億の人口を持つ(国連、2023)。言語・宗教・生活習慣は多様で、大陸としても一国としてもひとくくりにできない。その中で今どのような法的な取り組みが行われているか、「社会」―つまり地域の人間たち―はそれにどう反応し、またどのように社会自体を構築し直しているか。こういった問いを、地域を変え、アプローチを変え、社会・経済・文化といったさまざまな視点から考えていくことができればと考えている。

(続く)

 

[1] https://www.soas.ac.uk/