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インド:暗号通貨に関する規制導入の状況

2024年01月10日(水)

インド:暗号通貨に関する規制導入の状況についてのニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認下さい。
暗号通貨に関する規制導入

インド:暗号通貨に関する規制導入の状況

 

2024年1月10日
One Asia Lawyers 南アジアプラクティスチーム

暗号通貨は、海外ビジネスにおける新しい決済手段、資金調達方法、資産管理形態として重要な役割を果たす可能性があります。特に、国際取引では、従来の通貨に比べて迅速かつ低コストでの資金移動を可能とします。ただし、価格変動が大きくリスク管理が重要であるのみならず、各国の規制状況や法的枠組みへの適応が必要です。暗号通貨の法的地位は国によって大きく異なり、米国、カナダ、EU、日本、オーストラリア、韓国などでは合法化されていますが、アルジェリア、ボリビア、カタールなどでは禁止または制限されています。一部の国では、暗号通貨を禁止する代わりに適切な規制を通じて管理する動きもあります。南アジアにおいては、バングラデシュ、ネパールにおいては暗号通貨が禁止されています。

本ニューズレターでは、インドにおける暗号通貨の規制や法整備状況について紹介します。

1.インドの暗号通貨市場と法規制の状況

インドの暗号通貨市場は、インドは政府による規制整備や法制化の動きにもかかわらず、著しい成長と普及が見られます。

2023年世界暗号導入指数(2023 Global Crypto Adoption Index)では、インドは2022年7月から2023年6月の間に2,500億ドルもの暗号価値を受け取ったと報告されており、同期間に1兆ドルを受け取った米国に次ぐ、世界第2位となっています。

このように、インドにおいても暗号通貨取引プラットフォームでの取引量は急拡大していますが、現時点では暗号通貨を規制する法律は整備されておらず、取引に関する規則や紛争解決のためのガイドラインも定められていないのが現状です。他方、暗号通貨による利益は課税対象とされるなど、暗号通貨の法的地位はやや曖昧ではあるものの、法的に禁止されてはいません

2.暗号通貨に対するインド政府・中央銀行の姿勢

インドの中央銀行にあたるインド準備銀行は、暗号通貨の安全性に関し一貫して懸念を表明し続けており、2018年には、国内の銀行等に対し、暗号通貨取引所との取引やサービス提供を禁止する通達(以下、「2018年通知」)を発しています[1]。さらにインド政府も、暗号通貨の取引や使用等を禁止する法案[2]を2019年に発表しました(以下、「2019年法案」)。

しかしながら、その後2020年3月に、最高裁の判決により、2018年通知は「不当な通知(impugned Circular)」であるとして無効と判示されています[3]

この最高裁の判決を受け、インド準備銀行は2021年5月に、2018年通知を無効化する通知[4]を発表しています。ただし、インド準備銀行はこの通知の中で、銀行等に対し、暗号通貨の取引の際の顧客デューデリジェンスの実施や関連規定の遵守を徹底するよう求めており、暗号通貨に対する懐疑的な姿勢は崩していません。

インド政府も、先の暗号通貨を禁ずる2019年法案に替わり、「Cryptocurrency and Regulation of Official Digital Currency Bill, 2021」(暗号通貨および公式デジタル通貨の規制法案)を発表しました。これは、インドにおけるすべての民間暗号通貨を禁止する一方で、暗号通貨の技術を促進する一定の例外を認めること、および、インド準備銀行が発行するデジタル通貨(Central Bank Digital Currency、「CBCD」)の枠組みをつくることを目指すものとされています。同法案は、2021年国会の予算会期中での提出が延期され、さらに2023年の国会予算会期においても提出が予定されていたものの、実現せず2度目の延期となりました。

同国会では、法案の状況について質疑[5]が行われており、インド財務省は、暗号資産はボーダーレスであり、国際協調が必要であると述べています。インド自身の暗号通貨規制は依然として複雑であり、明確さを欠いているとされているものの、グローバルなフレームワークの提唱を続けています。議長国を務めたG20においても、インドは暗号通貨に関するグローバルな規制フレームワークの議論を主導し、IMF(国際通貨基金)とFSB(金融安定理事会)による政策提言と基準を統合するための共同ペーパー(Synthesis Paper)[6]作成を要請しました。ただし、最低限の規制メカニズムを規定した同ペーパーを大前提としつつも、暗号資産によるより高いリスクに直面しているとしたインド準備銀行の懸念も、この論文で繰り返し述べられています。

インド政府は、より安全なCBDCが存在しているのに国民と金融システムを不必要なリスクにさらすべきでないとして、より厳しい規制、または全面禁止に踏み切る可能性もあるとの報道もあり、最終的な見解はまだ出ていないようです[7]

3.暗号通貨への課税と法的地位

このような状況にあり、法案の成立時期は不透明といえます。

しかしながら、暗号通貨の合法性の議論に関しては別の動きがあり、インド政府は2022年予算案において、暗号通貨を含む仮想デジタル資産(virtual digital assets)による利益に対し30%もの所得税を課す措置を発表し、2023年4月に所得税法に挿入されています(第115BBH条)。また、取引額が5万ルピー(特定のケースでは1万ルピー)を超える場合、1%の源泉徴収税が適用されます(所得税法第194S条)。

さらに、2023年3月には、インド財務省の通達[8]により、仮想デジタル資産に対し、マネーロンダリング防止法[9]を適用することを発表しています。

2023年7月には、インドの最高裁が、暗号資産の市場における詐欺事件とその一般社会に与える影響に懸念を表明し、連邦政府に対し、暗号資産に関する刑事事件の捜査機関を設置するか否かを提出するよう指示しています。最高裁はまた、暗号資産を規制する法規制が未だ存在しない事実に失望を表明した上で、国民保護の観点から、暗号資産に関する規制を設けるよう政府に指示もしました。

これにより、インド政府は暗号通貨を禁止するのではなく、厳しく規制する対象であるとし、間接的に認めたものといえ、今後インドにおける暗号通貨の規制の整備が進むこととなることが予想されます

 

[1] 2018年4月6日付通知「Prohibition on dealing in Virtual Currencies (VCs)」RBI/2017-18/154 DBR.No.BP.BC.104 /08.13.102/2017-18 https://rbidocs.rbi.org.in/rdocs/notification/PDFs/NOTI15465B741A10B0E45E896C62A9C83AB938F.PDF

[2] Banning of Cryptocurrency & Regulation of Official Digital Currency Bill, 2019

[3] Internet and Mobile Association of India V. Reserve Bank of India (WP No.528 of 2018)

[4] 2021年5月31日付通知「Customer Due Diligence for transactions in Virtual Currencies (VC)」RBI/2021-22/45 DOR. AML.REC 18 /14.01.001/2021-22

https://rbidocs.rbi.org.in/rdocs/notification/PDFs/45VIRTUALCURRENCIES37FE644EF97F4A36AAB951C73A411E96.PDF

[5] https://loksabha.nic.in/Questions/QResult15.aspx?qref=44984&lsno=17

[6] https://www.fsb.org/2023/09/imf-fsb-synthesis-paper-policies-for-crypto-assets/

[7] 2023年12月25日付 Hindustan Times記事など

[8] https://egazette.nic.in/WriteReadData/2023/244184.pdf

[9] Prevention of Money-laundering Act, 2002

以上

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