インドネシアにおけるベンチャー・キャピタル企業(PMV)の事業展開に関する金融庁規則の改正(金融庁規則2023年第25号)
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インドネシアにおけるベンチャー・キャピタル企業(PMV)の事業展開に関する
金融庁規則の改正
(金融庁規則2023年第25号)
2024年3月
One Asia Lawyers Indonesia Office
日本法弁護士 馬居 光二
NY州法弁護士 友藤 雄介
インドネシア法弁護士 プリシリア・シトンプル
1.はじめに
インドネシア金融庁(Otoritas Jasa Keuangan; OJK)は、ベンチャー・キャピタル企業(Perusahaan Modal Vetura;PMV)[1]、およびシャリア・ベンチャー・キャピタル企業(Perusahaan Modal Ventura Syariah; PMVS)[2]の事業展開に関する金融庁規則2023年第25号(「本規則」)を12月22日に公布・施行しました。本規則は、2015年OJK規則第35号(「改正前規則」)に代わるものとなります。
2.改定内容
(1) カテゴリー化
本規則は、ベンチャー・キャピタル企業(PMV)、およびシャリア・ベンチャー・キャピタル企業(PMVS)を、資本参加等に重きを置くかまたは債権購入に重きを置くかに応じて、以下の2つカテゴリーに分け、カテゴリー毎に別個の要件を導入する旨を規定しております。
- ベンチャー・キャピタル・コーポレーション(Venture Capital Corporation):資本参加、転換社債の購入、および/またはベンチャー・ファンドの運営に重点を置く企業(第9条1項(a))
- ベンチャー・デット・コーポレーション(Venture Debt Corporation):起業当初や事業開発段階において、ビジネス・パートナーが発行する債権(イスラム金融に基づくベンチャー・キャピタル企業(PMVSやUUS[3])の場合はイスラム債権(Sukuk))の購入による資金調達に重点を置く企業(第9条1項(b))
(2) ベンチャー・キャピタル・コーポレーションに関する規制
(a) 最低投資比率
ベンチャー・キャピタル・コーポレーション自身の最低投資比率として、ベンチャー・キャピタル・コーポレーションは、資本参加(転換社債の購入によるものを含む)による投資が、ベンチャー・キャピタル・コーポレーションの事業活動全体の51%以上を占めるようにしなければならず(第17.1条)、これは改正前規則の15%から大きく変更されています。
(b) 投資比率上限
これとは別に、投資先毎に対して投資比率の上限も設けられており、関連当事者への投資は投資先企業資本の10%、非関連当事者の場合は、20%とされています(規則25/2023の17.2条)。
(c) 投資先
ベンチャー・キャピタル・コーポレーションは、インドネシア企業(又は、インドネシアで事業活動を行っている外国企業)への直接資本投資が要求されています(規則25/2023の第17.3条)。
(d) その他の要件
ベンチャー・キャピタル・コーポレーションは、適用される財務会計基準に従って減損損失を計算し、計上しなければならなりません(17.6条)。また、証券取引所に上場している企業への資本参加は、資本参加総額の最大10%まで可能となります(第17.7条)。
また売却[4]に関しては、これまでは公募、私募、買い戻しによって実施されていました(第16条)が、本規則では、他の投資家による買収、解散または清算、その他のコーポレート・アクションという3つの新たな売却メカニズムを導入しています(第18.1(e)条)。ただし、これらは、インドネシア会社法等の規定に従って実施される必要があります。
(e) ベンチャー・ファンドの運営
ベンチャー・ファンドを運営する場合、ベンチャー・キャピタル・コーポレーションはOJKの許可の取得が求められます(第19条)。この許可をするための要件は、最低500億ルピアの自己資本を有し、調査、リスク管理、内部監査IT、アンチ・マネーロンダリング、テロリズム、大量破壊兵器に特化したチームを擁する組織体制を保持し、少なくとも1人のマネジャーが過去5年以内に破産宣告を受けたことがないインドネシア人であり、同人が投資マネジャーの代表ライセンスを持ち、最低3年の経験を有することが求められます。また最後に、ベンチャー・ファンドの運営に関する標準的な業務手順を有することも求められます(第21条)。
(3) ベンチャー・デット・コーポレーションに関する規制
ベンチャー・デット・コーポレーションは、中小企業、または事業化の初期段階にある企業以外への融資を禁じられています(第65条)。なお、ここで言う中小企業とは、資本金が100億ルピア以下(土地建物を除く)、または年間売上高が500億ルピア以下の企業を指します(第66条)。
ベンチャー・デット・コーポレーションは、フォワーディング・ファイナンス・スキームやジョイント・ファイナンスを通じて、当該ファイナンスの実施が認められている企業(銀行等)と協業することが出来ます(第66条)。
ベンチャー・デット・コーポレーションは、事業活動を行うにあたり、(a)財務会計基準に従ったギアリング比率、融資債権の質、損失引当金の適切な基準での維持、(b)BMPP[5]の維持、(c)払込資本に対する自己資本割合の維持(30%以上)等の基準を満たす必要があります(第71条)。
(4) その他の要件
ベンチャー・キャピタル企業(イスラム金融に基づくベンチャー・キャピタル企業(PMVS、UUS)を含む)は第9条の事業カテゴリーに基づく事業活動を定款に記載する必要があり(第14条)、資本参加時には、フィージビリティ分析、ビジネス・スキーム、関連するビジネス・パートナーの事業見通しを実施する必要があります。(第15条)。
3.結論
本規則により、ベンチャー・キャピタルに関連する企業は、ベンチャー・キャピタル・コーポレーションかベンチャー・デット・コーポレーションのいずれかに分類されるようになりました。また、インドネシア政府は、ベンチャー企業の活動を健全な形で活発化させることを狙い、2024年1月30日に、「ベンチャー・キャピタル企業の発展と強化のためのロードマップ2024-2028」[6]を発表するなど行っています。今後は、このロードマップに沿う形、またはロードマップで示す姿を実現するために、関連する法規制の変更が考えられるところ、今後も留意していく必要があります。
[1] ベンチャー・キャピタル企業(PMV)とは、資本参加や融資を通じて、ビジネス・パートナー(本規則では、投資先又は融資先を指す)または債務者の事業に対して資金提供(ベンチャー・キャピタル事業)を行う企業を指す(第1.3条)。
[2] シャリア・ベンチャー・キャピタル企業とは、シャリア(イスラム法)の原則に基づくベンチャー・キャピタル事業を行う企業を指す(第1.2条)。
[3] シャリア・ビジネス・ユニット(Unit Usaha Syariah; UUS)とは、PMV 本社のワーキング・ユニットであり、シャリア・ベンチャー・キャピタル・ビジネス事業活動を行う部署を指す(第1.6条)。
[4] 売却(Divestment)とは、当社またはベンチャー・ファンドが保有する取引先株式の売却を言います(規則25/2023第1条第17号)。
[5] これは、規則25/2023の第75条に規定されている融資限度額を指します。
[6]金融庁HP(https://www.ojk.go.id/iru/publication/detailpublication/11891/roadmap-for-the-development-and-strengthening-of-venture-capital-companies-2024-2028)参照。