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SEMA 3/2023:インドネシア語版を作成しないで締結された契約の有効性に関する解釈

2024年03月13日(水)

SEMA 3/2023:インドネシア語版を作成しないで締結された契約の有効性に関する解釈に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

SEMA 3/2023:インドネシア語版を作成しないで締結された契約の有効性に関する解釈

 

SEMA 3/2023インドネシア語版を作成しないで締結された
契約の有効性に関する解釈

2024年3月
One Asia Lawyers Indonesia Office
日本法弁護士 馬居 光二
インドネシア法弁護士 イルハム・モハッマド

1.はじめに

2023年12月29日に最高裁判所は2023年通達第3号(以下、「SEMA 3/2023」)を発行し、インドネシア人ないし法人が関係する契約の有効性及びインドネシア語との関係について下記の見解を表明しました:

「インドネシアの民間機関または個人が、インドネシア語訳を添付せずに外国語で外国当事者と契約を締結した場合、インドネシア語訳の不存在が、当事者の悪意によるものであると証明できる場合を除き、契約を無効にする理由にはならない。」

インドネシアにおける契約言語について、2013年6月に西ジャカルタ地方裁判所は、インドネシア語版を作成せずに英語のみで締結されたローン契約について、国旗、言語、記章および国歌に関する2009年法律第24号(以下「言語法」)第31条第1項に違反するため無効であるとの判決を下しております。言語法違反の効果は法令上明記されていないため、上記判決後もインドネシア語訳が作成されていない契約が常に無効となるかどうかについては不明確な状況が続いております。今回のSEMA 3/2023は、上記のような状況の中で発行されたものとなります。

言語法第31条:
1. 国家機関、インドネシア共和国の政府、インドネシアの民間機関、またはインドネシア人個人が関与する覚書または合意書では、インドネシア語を使用する必要がある。
2. 外国当事者が関係する 1)項にいう覚書または合意書は、外国当事者の国語または英語で作成することができる。

2.検討

SEMA 3/2023を見る限り、なぜ最高裁判所がこの結論に至った経緯について何ら説明は記載されておりません。ただし、最高裁判所の見解を論理的に解釈すれば、インドネシア民法第1320条との関係が考えられます。同条によると、契約が有効になるための要件として、以下の4点が規定されております:

1. 当事者間で自らを拘束する当事者の合意があること
2. 当事者には契約を締結する能力があること
3. 契約の対象となる一定の目的物があること
4. 契約の原因(cause)が適法であること

第1および第2の要件は契約当事者に関連する要件(「主観的要件」)であり、ある合意の当事者がこれらの要件のいずれかを満たさない場合、他の当事者は裁判所に合意の取消しを求めることができます。第3および第4の条件は契約の目的物に関連する要件(「客観的要件」」であり、ある合意がこれらの要件のいずれかを満たさない場合、その合意は無効で最初から存在しなかったものとみなされます。

ここで問題となるのは、第4の要件です。民法第1337条は、法律で禁止されている「原因(cause)」や、道徳や公序良俗に反する「原因」は合法ではないと定めています。もっとも、ここでいう「原因」が何を意味するのかは法文上必ずしも明確ではありません。また、インドネシア民法は当時のオランダ法をそのまま採用しているところ、オランダ語からインドネシア語への翻訳の段階で解釈にズレが生じる可能性もあります。この点について、インドネシアの著名な法学者は、オランダ語の 「oorzaak 」の直訳である 「cause 」を、当事者間の合意の内容を意味すると解釈しています。言い換えれば、当該要件は、契約の形式、例えば契約が書面でなければならないか、(公正)証書の形式でなければならないか等といった点は「原因」の適法性に影響しないと解釈されます。当該解釈を前提にした場合、契約書が特定の言語でなければならないかという問題は、当事者間の合意の内容とは関係しないため、この点をもって契約は無効とならないという帰結となります。当該解釈を前提にすれば、SEMA 3/2023における裁判所の見解も、民法の解釈と整合的に理解することができます。

次に、SEMA 3/2023において例外的に契約が無効となりえる「悪意(bad faith)」の意味が問題となります。インドネシア法上「誠実(good faith)」は、一般的な法原則とされておりますが、その意味するところは必ずしも明確ではありません。民法に基づく契約の文脈では、誠実への言及は、契約が誠実に履行されることを求める民法第1338条に規定されている一方で、契約の有効性について規定した前述の1320条には誠実に関する言及はございません。そのため、本件で裁判所がいかなる意味でこの「悪意」を例外として言及しているのか明確ではありません。この点についても、裁判所の見解を論理的に解釈すると、最高裁判所が前述の民法第1320条における第1条件である「合意」の解釈に基づいて、「悪意」に言及していると考えることができます。この点、当該「合意」について、民法第1321条は、錯誤によってなされた場合、または強制(強迫)もしくは詐欺によって得られた場合には、「合意」は成立しないと定めています。この点を踏まえると、おそらく最高裁判所は、外国人当事者がインドネシア人当事者に十分に理解できない契約を結ばせるために、契約を外国語でしか締結しないといった詐欺的な状況を想定しているのではないかと考えられます。もっとも、前述のように、SEMA 3/2023において裁判所の見解には特段の理由付けはなされていないため、現時点では、最高裁判所「悪意」として何を想定しているのかについては不明瞭な状況です。

3.実務への影響

上記がSEMA 3/2023について考えうる解釈ですが、実務的な観点から見た場合、SEMA 3/2023は、インドネシアで活動する多くの外国企業や法律事務所のこれまでの立場や対応をすぐに変更するものではないと考えられます。最高裁判所のいかなる通達は、あくまで最高裁判所管轄内の全裁判官に対するガイダンスを提供することであり、法的な拘束力を持ちません。したがって、具体的な事件を担当する裁判官が、SEMA3/2023に記載されている見解とは異なる解釈を採用する可能性もございます。実際、最高裁判所自身も、自らが発行した通達とは全く異なる立場を取ることもございます。

したがって、これまでと同様に、インドネシア人ないし法人が当事者となる契約、特に重要な契約については、インドネシア語版の契約書を作成することが推奨されます。