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マレーシア:会社法の改正状況 ~受益的所有権および名義株主等に対する規制枠組みの変更~

2024年03月14日(木)

マレーシアにおける会社法の改正状況 ~受益的所有権および名義株主等に対する規制枠組みの変更~に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

会社法の改正状況 ~受益的所有権および名義株主等に対する規制枠組みの変更~

 

会社法の改正状況
~受益的所有権および名義株主等に対する規制枠組みの変更~

2024年3月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士 橋本  有輝
マレーシア法弁護士 Najad Zulkipli

1.はじめに

現在、マレーシアにおける基本的な法令であるCompanies Act2016(「会社法」)は、受益的所有権の開示と報告に関する新たな枠組みを中心とした改正作業の真っただ中にある。会社法改正法案(「本法案」)は2023年11月28日にマレーシア国会の下院で承認され、 2023年12月13日に上院で可決された。同法案は、今後、最終的な法律としての発効を待つ段階にある。さらに、本法案による変更を受け、マレーシア会社委員会(CCM)は、受益的所有権の枠組みを補完するために、名義株主および名義取締役の地位の報告に関する法律の追加改正を勧告した。

これらの変更は、CCMの声明によれば、マレーシアにおける会社に対する所有権の透明性を確保し、国際基準に合わせることを目的とするもので、同時にFATFが指摘した ギャップ [1]に対処するものである。もう一つの要因は、最近の FATF 基準の策定で、 ノミニーに対する開示要件が盛り込まれたことである[2] 。マレーシアはFATFの構成員であるため、これらの国際基準を遵守する必要がある。

本稿は、これら受益的所有者及び名義株主・取締役の枠組みに関する主な変更点を探り、これら改正がマレーシアにおけるビジネスにどのような影響を与えるかを検証するものである。

2.受益的所有権の新しい枠組み

本法案は、2020年にCCMが発表した「法人の受益者所有権の報告フレームワークに関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)に沿った形で、受益者所有権の開示と報告に関する包括的なフレームワークを提案するものである。なお、このガイドラインについても、本法案と連動して、CCMは受益的所有者報告のための新ガイドライン案についてのパブリックコメントを求める協議文書が発表されている。

本法案では、第60A条(受益的所有者の定義)、第60B条(受益的所有者の登録簿)、第60C条(受益的所有者の開示を求める会社の権限)、第60D条(受益的所有者の情報提供義務)、第60E条(免除)の新規定からなる第8A部の新設が提案された。各セクションの概要は以下を参照されたい:

2.1     「受益的所有者」の定義の拡大(第60A条)

本法案では、第60A条において、「受益的所有者(Beneficial Owner)」を 最終的な事実上の支配権を行使する者を含め、会社を最終的に所有または支配するあらゆる自然人を包含する者と定義し、さらに、CCMに会社の受益的所有者を特定するためのガイドラインを発行することができる権限を付与した[3]。これに対して、現行の会社法における「受益的所有者」は、本ニュースレターの作成日現在、名義人(ノミニー)を除く株式の最終的な所有権を有する個人となっている[4]。この改正の意図するところは、会社の株式を保有していないが、事実上会社を支配している者を含めることであり、そのために「会社に対する最終的な事実上の支配権を行使する者」という文が導入されたものである。

また、上記を補足するための新ガイドラインでは、「会社を最終的に所有または支配する」とは、その会社の株式に対する20%以上の持分を通じて所有することを意味することされ、一方、「最終的な事実上の支配」とは、株式または議決権の保有率が20%未満であっても、公式・非公式を問わず、会社の取締役または経営陣に対して重要な支配力または影響力を行使する個人を指す[5]、とされている(ただし、新ガイドラインは正式には未発行であることに留意)。

この新ガイドラインにおける定義においては、受益的所有権者が、株式の持分を持つ者の枠を超え、 非株式持分を持つ者も含まれるようになることである 。新ガイドラインでは、非株式保有者基準の例として、ある会社の議決権の過半数を保有する構成員が、ある個人が行った勧告に従って常に行使されている場合を挙げている。その個人は、必ずしも会社の構成員や取締役ではないが、常に会社に対して支配的な影響力や支配力を行使していると評価されるのである[6]

2.2     受益権登録簿の導入 (第60B条)

本法案の第60B条では、受益的所有者専用の登録簿を設けるという変更が規定されている。これは、従前には全く存在していなかったものであり、会社の管理に大きな変更を加えるものといえる。

また、本規定は、受益的所有者に関する重要な情報をCCMに提出することを企業に義務付けるものでもある。必要とされる詳細情報には、受益的所有者のフルネーム、住所、国籍、受益的所有者の役割を引き受けた日、放棄した日などの情報が含まれ、他の登録簿と同様に登録事務所(通常は会社秘書役事務所)に保管されなければならない。

新ガイドラインでは、  registery of BO(以下「受益的所有者登録簿」)はCCMが保管すると規定されているにも関わらず、CCMへの提出のためのテンプレートはまだ提供されていない。CCMは、提出プロセスに関する更なる説明、ガイドライン、テンプレートを提供する予定であり、特に新第68条(3)(ia)項及び(ib)項に規定される年次申告書に受益的所有者情報を含めることが提案されているため、法案施行後は注意が必要である。

2.3     受益的所有者の開示を求める会社の権限(第60C条)

現行会社法第56条は「議決権株式の受益的所有者の開示を求める会社の権限」を規定しているが[7]、本法案では新たに 第60C条を導入し、議決権株式に関係なく、構成員や株主に受益的所有者情報の開示を求める権限を会社に与える。会社はこの情報を受益的所有者登録簿に記録し、その後の変更も含めてCCMに提出する義務がある。新ガイドラインの別表Aには、セクション60Cに従って会社が送付すべき通知のサンプルも記載されている。

2.4     受益的所有者の情報提供義務(第60D条)

受益的所有者報告の枠組みを強化するため、法案は第60D条において、受益所有者自身の義務として、自分が受益的所有者に該当すると合理的に判断した場合、会社に通知し、必要な情報を提供し、その後CCMに提出することが義務付けている。

2.5     免除(第60E条)

第60E条は適用除外の仕組みを規定しており、関連する大臣に免除に関する命令を発行し公布する権限を与えている。この命令が実際に制定されれば、一定の会社は、上記した各義務から免除されることが想定されている。ただし、どのような免除が実際に適用されるかは、命令が公布されて初めて判明するものである。なお、新ガイドラインの第21条では、免除された企業はCCMに免除の状況を通知し、そのような企業が管轄下にある他の管轄監督機関に受益的所有者の状況を提供することを示唆している。

2.6     外国企業の支店に対する適用

本法案では、外国企業(CCMへの登記を行っている外国企業=支店を意味する)も受益的所有者情報を提出することが規定され(新562条)、さらに、新しい573A条は、第8A部(上記各改正条項)を外国企業にも拡大し、外国企業を受益的所有者の枠組みの傘下に入れた。さらに、法第576条2項の改正案では、外国会社が登録住所をマレーシアに有していない場合には、外国会社の年次申告書に、外国会社の受益的所有者情報と受益的所有者の登録簿が保管されている住所を記載することが義務付けられる。

3.名義株主と名義取締役の新しい枠組み

3.1 提案の背景

CCMは、金融活動作業部会(FATF)による受益者所有権の枠組み強化に関する最近の動向、特に名義株主および名義取締役の地位の開示にに合わせることを目的として、同法の追加改正案についてパブリックコメントを求めるための協議文書を発表した。

具体的には、「 Division AA 」と呼ばれる新しい区分が会社法に導入され、主に「 Nominee Shareholder 」=名義株主、「Nominee Director」=名義取締役、「Nominator」=名義貸しを行った者の定義が説明され、国内外の会社の名義株主と名義取締役の登録簿が設置されることを想定している。

協議文書の有効期限は2024年1月31日であり、今後、マレーシア議会に提出される前に内容の見直しが行われる予定である。

3.2 受益的所有者フレームワークと同様のメカニズム

CCMは、受益的所有者と同様の仕組みをノミニーにも適用することを推奨している。つまり、ノミニーにはその身元やノミニーに関する情報の開示が義務付けられ、会社はノミニーの登録簿を保管する義務を負う。

4.コンプライアンス違反に対する罰則

コンプライアンスの重要性を認識し、本法案の開示要件を遵守しない企業に対する罰則を導入している。受益的所有者登録簿の保存を怠った場合には、新第60B条(6)が適用され、2万リンギットを超えない罰金と、継続的な違反の場合には、有罪判決後も違反が継続する1日につき500リンギットを超えない更なる罰金が科される。

5.これはあなたのビジネスにとって何を意味するのか?

本法案の成立により、受益権報告の枠組みが再構築されることは、企業の透明性と説明責任において極めて重要な変革を意味し、マレーシアで事業を営む企業は、この変更を速やかに理解し、対応するという重要な課題に直面することになる。

また、名義株主に関する改正案との関係で付言すると、名義株主というアレンジ=ノミニースキームは、マレーシアにおいて様々な産業で外資要件が課されてきたことと相まって、珍しいものではないと言われている。しかしながら、本法案及びその後の名義株主に関する改正案が成立した後、外国法人によるノミニー・スキームを利用した出資比率が制限された企業の運営に関する当局の対応・執行がどのようになされるのかは、依然として不透明である。つまり、CCMに名義株主の登録を行ったとしても、その情報が規制当局に共有されるのか、また、規制当局が積極的にこれら登録簿を確認するのか、等は今後の運用を注視する必要がある。

以上の通り、本法案を含む一連の改正は、単に手続き的な負担に関するものではなく、会社統治のあり方にも影響する可能性をはらんでいる。したがって、これらの変更が施行される際には 、法律の専門家に相談し、法律への準拠等を確認することが強く推奨される。

上記につき、ご質問がある場合、またはこれらの変更に際しサポートが必要な場合は、当社の専門家チームがお手伝いいたします。

 

[1] FATFは、2015年に公表されたマレーシアの相互評価報告書(MER 2015)において、株式の所有権にとどまらない「受益者」の定義を明確にすること、外国企業や現地企業における受益的所有者の報告の枠組みを明確化し、ガイダンスを提供する必要があることなどを指摘した 。
[2] マネーロンダリングとテロリズム及び核拡散の資金調達の防止に関する国際基準(FATF勧告)の13条には、次のように記されている:(a)ノミニーの株主および取締役が、ノミニーの地位およびノミニーの身元を会社および関連する登録簿に開示し、この情報を関連する登録簿に記載することを義務付ける。
[3] 第60A条(1)に基づく「実質的所有者」の定義:(1) A person is a beneficial owner of a company if he is a natural person who ultimately owns or control over a company and includes a person who exercises ultimate effective control over a company. (2) The Registrar may issue guidelines for the purpose of identifying a beneficial owner of a company.
[4]現行会社法2016年第2条第1項では、the ultimate owner of the shares and does not include a nominee of any description、と定義している。
[5] CCM発行の受益的所有者ガイドライン協議文書第26条
[6] CCM発行の受益的所有者ガイドライン協議文書第29条(c)
[7] (1) Any company may, by notice in writing, require any member of the company within such reasonable time as is specified in the notice-
(a) to inform the company whether the member holds any voting shares in the company as beneficial owner or as trustee;