公開買付開示ガイドライン案の概要
公開買付開示ガイドライン案の概要に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
公開買付開示ガイドライン案の概要
2024年7月16日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典
2024年6月28日に「公開買付けの開示に関する留意事項について(公開買付開示ガイドライン)(案)」[1](以下「本ガイドライン」といいます)が金融庁より公表されました。
今月のニューズレターでは、本ガイドラインの主要箇所である公開買付届出書[2]における「買付け等の目的」関係の一部の留意事項について解説いたします。
1 背景
公開買付けの事前相談に関して、交渉局面における「手の内」(提案価格の根拠)を届出書に記載する実務対応等について疑義が出ており、今後も公開買付けの件数の増加が見込まれる中、企業や弁護士に対して行政として指導方針等を説明すべき[3]という状況を踏まえ、本ガイドラインが策定されました。
2 本ガイドラインについて
本ガイドラインは、発行者以外の者による株券等の公開買付けに係る開示書類の審査を行う関東財務局に対して審査に当たっての留意事項を示すとともに、法令上記載が求められる開示事項等について考え方を示すことを目的としています。
本ニューズレターにて取り上げる、公開買付届出書における【買付け等の目的】には、以下の事項が記載されることが実務上一般的であると示されています。
①公開買付けの概要
②公開買付者が公開買付けを実施するに至った背景、目的及び意思決定の過程
③対象者における公開買付けに対する意思決定の過程並びにその内容及び理由
④公開買付け後の経営方針
⑤公開買付けの公正性を担保するための措置
⑥公開買付け後の組織再編等の方針(いわゆる二段階買収に関する事項)
⑦上場廃止等となる見込み及びその理由
⑧公開買付けに係る重要な合意
⑨公開買付け後の追加取得の予定
⑩同一の目的を有する他の取引等
上記のうち、①公開買付けの概要、②公開買付者が公開買付けを実施するに至った背景、目的及び意思決定の過程、③対象者における公開買付けに対する意思決定の過程並びにその内容及び理由、⑥公開買付け後の組織再編等の方針(いわゆる二段階買収に関する事項)、⑧公開買付けに係る重要な合意の留意点について解説いたします。
(1)公開買付けの概要
公開買付届出書第1―3【買付け等の目的】には、公開買付けの概要として、公開買付けの目的の概要、公開買付者、その特別関係者及びその他の当該公開買付けの関係者が所有する対象者の株券等の数、公開買付けを含む一連の取引の概要、買付予定数の上限及び下限、対象者の意見の概要、公開買付けに係る重要な合意等が記載されることが一般的です。
これらを記載する上での留意事項は、次のとおりです。
①全体として、公開買付けに関する重要な事項が端的に記載されているか、参照先を明示することで記載の重複が回避されているか、不必要な重複又は冗長な記載がなされていないか。また、参照先の記載内容を意図的に取捨選択すること等により、概要の記載が投資者の誤解を招くものとなっていないか。
②公開買付けの目的の実現のために実施される一連の取引が複雑な場合等には、当該取引の全体像や各当事者との関係等について、図表等の活用を含めて、投資者にとって分かりやすい記載となっているか。
③公開買付者が、公開買付届出書提出日現在、対象者の株券等を所有しているか否か並びに所有している場合におけるその数及び所有割合(その計算方法を含む。)が記載されているか。また、対象者の株券等を所有する者のうち、公開買付者の特別関係者、公開買付者との間で応募契約その他の公開買付けに係る重要な合意をしている者(公開買付者に対して応募又は不応募についての意向表明をしている者を含む。)その他のその所有する株券等の数が投資情報として重要である者について、その数及び所有割合(その計算方法を含む。)が記載されているか。
④公開買付けの目的と買付予定数の上限及び下限が整合的か。特に、全部取得を目的とする公開買付けにおいて、公開買付けの後において公開買付者及びその特別関係者が有する議決権が総株主の議決権の3分の2を下回るおそれがある買付予定数の下限を設定する場合には、公開買付者において当該買付予定数の下限が買付け等の目的の達成のために必要かつ適当と考えた理由について、具体的に記載されているか。
(2)公開買付者が公開買付けを実施するに至った背景、目的及び意思決定の過程
【買付け等の目的】】には、公開買付者が公開買付けを実施するに至った背景、目的及び意思決定の過程として、公開買付者又は対象者の概要並びに対象者等との協議・交渉の経緯及び概要が記載されることが一般的です。
これらを記載する上で、主に次に掲げる事項に留意する必要があります。
①全部取得を目的とする公開買付けにおいて、公開買付者の概要に関する情報については、原則として、投資者の投資判断に重大な誤解を生じさせるような記載が無いか。
②部分取得を目的とする公開買付けにおいて、当該公開買付けの成立後も公開買付者以外の投資者が対象者の株主等として残存する余地があることを踏まえ、公開買付者の概要に関する情報が、公開買付者の実態が明らかになるように記載されているか。ただし、公開買付者が継続開示会社である場合には、当該公開買付者に係る直近の有価証券報告書等の継続開示書類に記載された事実の程度で記載されているか。
(3)対象者における公開買付けに対する意思決定の過程並びにその内容及び理由
【買付け等の目的】には、対象者が公開買付けに賛同する意向を示している場合には、賛同するに至った意思決定の過程並びにその内容及び理由が記載されることが一般的です。
これらの記載の審査に当たっては、主に下記事項に留意する必要があります。
①全部取得を目的とする公開買付けの公開買付価格が対象者の直近の1株当たり純資産額を下回る水準となる場において、対象者が当該公開買付価格に公正性・合理性があると認めたときには、その判断根拠(当該公開買付価格と当該1株当たり純資産額の差額に対する評価も含む。)が、対象者の個別具体的な事業内容、財務状況等を踏まえて、適切かつ具体的に記載されているか。
②対象者が過去の同種案件のプレミアム率を踏まえて公開買付価格の公正性・合理性を検討した場合において、公開買付価格のプレミアム率が過去の同種案件のプレミアム率のうちの全部又は一部を下回るにもかかわらず、対象者において当該公開買付価格に公正性・合理性があると認めた場合には、当該判断に至った理由(過去の同種案件のプレミアム率を下回ることへの評価を含む。)が具体的に記載されているか。
(4)公開買付け後の組織再編等の方針(いわゆる二段階買収に関する事項)
公開買付け後の組織再編等の方針(いわゆる二段階買収に関する事項)として、公開買付け後に実施されるスクイーズアウト手続の内容が記載されることが一般的です。
当該記載については、スクイーズアウト手続の実施について一定の条件を設定する場合には、当該条件の内容が一義的に明らかとなるように記載されているか審査されます(例えば、公開買付け後の株券等所有割合が3分の2以上となる場合には実施するが、それ未満の場合には実施しない等)。
(5)公開買付けに係る重要な合意
公開買付けに係る重要な合意として、公開買付けに関して締結された応募契約、不応募契約、公開買付契約、株主間契約、経営委任契約等の合意の概要が記載されることが一般的です。
公開買付けに係る重要な合意として記載された内容が、合意の実態に即した具体的な記載となっているか審査されます。さらに、「実態に即した具体的な記載」の審査に当たっては、必要に応じて契約書等の資料の提出を求めた上で、各当事者の権利・義務の内容、表明保証、クロージング前後の義務、前提条件、補償・損害賠償(金額を含む。)、有効期間、解除・終了に関する条項等、個別の事情に応じ、投資判断上重要な情報が記載されているか審査することとし、秘密保持義務、準拠法、裁判管轄等、投資判断上重要な意味を持たない明らかな一般条項が記載されているかについては、原則として審査を要しないと明示されています。
なお、本ガイドラインは、現行の公開買付制度を前提として策定されました。金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第32号)のうち、公開買付制度に係る部分に関して、今後、関連する政令・内閣府令の改正が行われる際には、あわせて本ガイドラインの見直しも検討されるとのことです。
以上
[1] 金融庁「公開買付けの開示に関する留意事項について(公開買付開示ガイドライン)(案)」
[2] 公開買付届出書(発行者である会社以外に者による株券等の公開買付けに開示に関する内閣府令 第二号様式)