• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

ASEAN News Letter シンガポールにおけるSecondary Directorshipに関して

2017年04月09日(日)

シンガポールにおけるSecondary Directorshipに関する実務状況について解説致します。
→ シンガポールにおけるSecondaryDirectorshipに関する実務状況

 

シンガポールにおけるSecondary Directorshipに関する実務状況について

2017年4月9日
One Asia Lawyers シンガポール事務所

1、背景状況

 ご存知のとおり、シンガポールにおいては会社法上、各会社の取締役(Director)の少なくとも一人はシンガポール居住者である必要があります(シンガポール国民やPR(Permanent Resident)保持者である必要まではなく、EP(Employment Pass)等を保有してシンガポールに「居住」するものであれば足ります。)(シンガポール会社法第145条第1項)。これに対して日本企業を含む外国企業においては、シンガポール現地法人に必ずしも自社の従業員を駐在させる必要性ないし余裕がないことから、他のグループ会社や現地のコンサルティング会社等に依頼することにより、自社とは直接の関係のないシンガポール居住者を居住取締役として登録するケースが存在しています。

 このような状況に対して、2016年11月末に、シンガポール会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authority、ACRA)から、今後、会社が居住取締役として、自社でEPを発行している以外の会社に雇用されているEPホルダーを登録する場合(Secondary Directorship)には、その者の取締役の就任についてシンガポール人事省(Ministry of Manpower、MOM)から同意レター(Letter of Consent、LOC)を取得しなければならない旨が発表されました。

 この新たな規制は、外国企業におけるシンガポール現地法人の管理実務に相当程度の影響を与えていることから、ここの現在の実務状況を簡単にご紹介します。

2、新規制の概要

 上記の新たな規制の概要は次の通りです。

・全てのEPホルダーは、EP上の雇用主となっている会社以外の会社の取締役となる場合には、事前にMOMからLOCを取得しなければならない。
・この通知は、2016年11月23日付でMOMのウェブサイトに掲載された。
・LOCを取得するためには、MOMのウェブサイトから入手できるリクエストフォームをMOMに提出しなければならない。
・審査には約5週間を要し、結果はMOMよりEメールで申請者である会社に通知される。
 また、MOMへの電話ヒアリングを行ったところ、これに違反した場合のあり得るペナルティは次の通りということでした。
・EPホルダーがLOCを取得せずに他の会社の取締役に就任した場合には、MOMの裁量により、同人の現在のEPの効力又は将来の更新の際に影響を及ぼす可能性が、極めて高い。
・これは2016年11月23日以前から複数の会社の取締役となっている者に対しても同様である。

3、実際の状況及びとりうる対応

 上記に関連し、MOMのリクエストフォームには、当該EPホルダーが取締役に就任しようとする会社と、EPを発行している会社との関係(主に資本関係)を説明する項目があり、それにより説明されるEPホルダーによる新規の取締役就任の必要性がMOMによる審査における一つのファクターとなっていると考えられます。

 よって、今後はEP発行主体と全く資本関係等を持たない会社への取締役として、EPホルダーを申請しようとしてもLOCが取得できず、就任が困難となる可能性があります。

 また、実際には、申請から5週間以上を経過してもLOCが取得されないケースも発生しており、MOMの処理が追い付いていないことも想定されることから、申請を行う場合でも、できる限り事前に、時間的に余裕を持って行うことが望まれ、MOMもそれを推奨しています。特に、M&A案検討に伴う取締役の変更の場合等、事前に予測されるケースにおいては、状況が許す限り早めの申請を行うことが無難といえます。

 MOMによると、申請の際に当該案件の背景事情を説明し、申請者にとっての緊急性を訴えることによりLOCの発行が早まる可能性も示唆されることもあるようですが、あくまでもケースバイケースであり、そのような特別扱いに過度な期待を持つより、やはり事前準備を早めに行うことが(少なくとも現状では)望ましいと思われます。

 なお、この居住取締役は、実質的に他人の指示又は意思に基づいて行動する匿名取締役(Nominee Director)となるケースがあるところ、この匿名取締役に対しては2017年3月31日より、会社に対して自己の詳細情報等を通知しなければならないことになった点にも注意が必要です。