• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

(第5回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
エチオピア(1)「エチオピアの首都では若い女性はどのように結婚するか」

2025年01月21日(火)

現在、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院に在籍している原口 侑子弁護士によるニュースレターシリーズの第5回を発行いたしました。今後も引き続き連載の予定となります。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

(第5回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ エチオピア(1)「エチオピアの首都では若い女性はどのように結婚するか」

 

(第5回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
エチオピア(1)「エチオピアの首都では若い女性はどのように結婚するか」

2025年 1月
One Asia Lawyers Group
原口 侑子(日本法)

イギリスで東アフリカの法人類学の研究をしている。法人類学とは主に各地の法慣習を人類学的な側面から学ぶ学問だが、何をやっているかと聞かれたときにわかりやすく答えられる例の一つが、「地域ごとに異なる家族制度や結婚制度の研究」だ。「家族」の単位や構成の方法は、日本を含めてさまざまな伝統や慣習のもとにあり、それがどのようにとらえられているかを理解するには現在の法制度を知るだけは足りないからだ。エチオピアもその一つで、民族によってさまざまな家族の慣習がある。私はアムハラ語を学んでいたこともあり、エチオピアで2番目に多い民族・アムハラ族の慣習を調べてみたいと思った。

エチオピアの首都アジスアベバに最後に訪れてから10年が経っていた。国道は拡張され、スーパーも増え、国内の紛争により治安は若干悪化しているといった変化も見られたが、道端には10年前と同じように家族経営の小さなコーヒー屋があった。エチオピアはコーヒーで有名で、道端でコーヒーを炒る煙のにおいを嗅ぐとエチオピアに帰ってきたという感じがする。そこでは「あの娘がもうすぐ結婚するらしい」とか「この間行った結婚式の花嫁は敬虔ではないようだ」といった噂話が交わされていたが、そんなおしゃべりを楽しんでいる多くが高齢の男性であることにすぐ気づいた。実際に結婚する若い女性たちは、どんなふうに結婚を決断しているのだろうか。

――

エチオピアでは結婚の選択肢は4タイプある。公式に認められている婚姻は1)民事婚(市役所でサインをする通常の結婚)、2)慣習婚(民族のしきたりにのっとって結婚する方法)、3)宗教婚(エチオピア正教の教会であげる結婚)の3つの形態。さらに現地の弁護士らに聞いて分かったことは、パートナーシップ婚や事実婚に相当する「非正規婚」という4つ目の形態があることだった。事実婚タイプのカップルが3年間同居すれば、4番目の婚姻形態と見なされ、カップルの財産は共有財産になるという。
「では、アディスアベバに住む20代の若いアムハラ人女性たちは、今でも伝統的な慣習婚を続けているのだろうか?」、私は問いを立てた。
「もしそうなら、彼女たちはどのようにして、民事婚であったり慣習婚であったりの結婚形式を選ぶのだろうか?」
現行の憲法では民事婚には持参金は必要ないとされている(第34条(2))ものの、アムハラ族のコミュニティでは、多くの若い女性がエチオピアの慣習法の下で、t’eloshと呼ばれる持参金制度に従って結婚している[1]という。

―――

エチオピアは80以上の異なる民族が暮らす多民族国家である。アムハラ族はオロモ族に次いでエチオピア全体で2番目に大きな民族グループであるが、首都アディスアベバでは人口のほぼ半数を占めている(World Population Review, 2024 [2])。
私は、首都のアムハラ人の若者たちの間で、慣習婚がどれほど一般的であるかを探ろうと考えた。人口統計や結婚の慣習は、農村部の他のアムハラ族コミュニティとは異なる可能性がある。
弁護士によると、「慣習婚での持参金『t’elosh』は、家族法や連邦法で違法とされているが、地方のルールが連邦法を上回る地方では、今でも行われている」と聞かされていた。若い女性の同意なしに家族同士が勝手に持参金を払って結婚を強制させられることもあり、「早婚」(法律の婚姻年齢より若い結婚)にもつながるため、若い女性の人権問題を引き起こしていて、よく相談が来るのだという。「だけど都市と地方はまるで違う。アディスアベバでは、第4のタイプの婚姻も市民婚と同じくらい一般的だ」と弁護士たちは教えてくれた。実際に、私が話を聞いた女性の一人も事実婚を経験していた。

―――

「慣習婚はアディスでは一般的ではありません」
最初に話を聞かせてくれた女性は弁護士で、彼女の個人的な視点を答えてくれた。
「なぜですか?」と私は尋ねた。
なぜ昔ながらの民族のしきたりにのっとった結婚はアディスアベバで流行っていないのか。次回へ続く。

—–

[1] Jembere, A. 2000. An Introduction to the Legal History of Ethiopia: 1434-1974. Lit Verslag.
[2] https://worldpopulationreview.com/cities/ethiopia/addis-ababa