日本:金融商品取引法改正案の概要 -暗号資産取引の規制-
金融商品取引法改正案の概要、暗号資産取引の規制についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
金融商品取引法改正案の概要
-暗号資産取引の規制-
2025年4月14日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 松宮浩典
2025年3月、金融庁は、暗号資産(仮想通貨)を金融商品として法的に位置づけるため、金融商品取引法の改正方針を公表しました(以下「本改正案」といいます)[1]。
今月のニューズレターでは、本改正案の概要について解説いたします。
1 改正の背景
近年、暗号資産市場は急速な拡大を遂げており、2023年における世界の暗号資産市場の時価総額は約408兆円に達し、前年度末(約157兆円)と比較して大幅に増加しています[2]。市場の成長に伴い、価格変動も大きくなり、インサイダー取引のリスクに加え、市場操作、ハッキング、マネーロンダリングのリスクなど、様々なリスクが高まっています。インサイダー取引とは、上場企業の未公開の重要な情報を入手した者が、その情報に基づいて株式等を売買し、自己の利益を図る行為を指します。当該行為は、市場の公正性を著しく損ない、市場全体の健全な発展を阻害する要因となるため、現行の金融商品取引法では禁止されており、違反者には刑事罰や課徴金などが課されます。
暗号資産市場においても、同様のリスクが存在しています。過去の事例を見ても、例えば、新たな暗号資産が取引所に上場する際や、著名人による特定の暗号資産への投資表明は行われる際には、価格が大きく変動してきました。このような状況下で、未公表の情報を事前に知る者が不当な利益を得ることは、情報を知らされていない一般の投資者にとって大きな不利益となります。
今回の金融庁による規制導入の動きは、現状を踏まえ、暗号資産市場の透明性を高め、投資家保護を強化するために不可欠な措置と言えます。
2 改正の概要
本改正の主なポイントは、暗号資産を金融商品として位置づけられるとともに、未公表の内部情報をもとに売買することを禁じるインサイダー取引規制が新設される点になります。主な改正案の内容は、下表のとおりです。
現行法制 | 改正の方向性 | |
根拠法 | 主に資金決済法 | 金融商品取引法で仮想通貨を独立して位置づけ |
インサイダー規制 | なし | 新設 |
開示規制 | 交換業者に情報提供義務 | 発行体にも情報開示義務 |
税制 | 売買益は総合課税 | 税率20%の分離課税への変更を議論 |
① 暗号資産の法的性質の明確化
これまで法的性質が不明確であった暗号資産を金融商品取引法において「金融商品」として明確に位置付けることで、関連する法規制の適用が明確になり、市場の透明性が高まり、規制の一貫性が確保されます。
② インサイダー取引規制の導入
金融商品取引法上のインサイダー取引規制の対象に暗号資産取引を加え、未公表の重要な情報を利用した取引を禁止することで、市場の公正性を確保します。例えば、発行体や交換業者の新規事業などの情報を知った関係者が公表前に取引をした場合などが対象になる可能性があります。実際にどのような情報を重要事実とするかなどが検討されると考えられます。
③ 税制面の見直し
現状では、暗号資産取引は総合課税の対象であり、売買益などに最大55%の税金がかかります。しかし、2025年度の与党税制改正大綱[3]では、投資家保護のための法整備を前提に、税率20%の金融所得課税の対象への見直しを「検討する」と明記しており、金融庁は今夏に提出する2026年度の税制改正要望で、暗号資産を分離課税にするよう求める方針です。
金融庁は、今夏ごろから金融審議会の作業部会において具体的な制度設計を議論し、2026年にも改正法案の国会提出を目指しています。今回の改正は、今後の暗号資産市場の動向を大きく左右する可能性があり、引き続き注視していく必要があります。
以上
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[1] 日経経済新聞「金融庁、仮想通貨にインサイダー規制 金商法改正へ」(2025年3月30日)
[2] 一般社団法人日本暗号資産取引業協会「暗号資産取引についての年間報告2023年度」(令和6年9月30日)
[3] 自由民主党・公明党「令和7年度税制改正大綱」106頁(令和6年12月20日)
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弁護士 松宮浩典
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