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日本:下請法の改正について

2025年09月19日(金)

日本における下請法の改正に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
下請法の改正について

下請法の改正について

2025年9月22日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 山本博人
弁護士 楠 悠冴

 「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が令和7年5月16日に成立し、同月23日に公布されました。これにより、「下請代金支払遅延等防止法」(いわゆる「下請法」)は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)となります(以下、現行の下請代金支払遅延等防止法を「下請法」、改正後の製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律を「取適法」といいます。)。この取適法は、令和8年1月1日から施行されます。
 下請法に関しては、公正取引委員会及び中小企業庁による定期調査・立入検査がなされること、一定の違反行為をした場合には、勧告がなされ、企業名等が公表されることや、罰金が科せられること等からも、下請法に抵触するか否かは企業にとって極めて重要であるといえ、このことは取適法においても同様であります。また、令和6年度の下請法の指導件数は8230件であり、下請事業者が被った不利益について、親事業者149名から、下請事業者3,026名に対し、下請代金の減額分の返還等、総額13億5279万円相当の原状回復が行われています[1]。取適法は、下請法に比べて適用対象が拡大されたこと、禁止行為が追加されたこと、及び事業所管省庁による指導が可能となったこと等からも、取適法の理解は必須といえます。以下、改正の概要について説明します。

第1 改正内容

1 用語の変更

改正前 改正後
下請代金支払遅延等防止法 製造委託等に係る中小事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
下請代金 製造委託等代金
親事業者 委託事業者
下請事業者 中小受託事業者

2 主要な改正項目

親事業者・下請事業者の定義の変更

 以下のとおり、従来の資本金基準に加え、従業員基準が追加されました。

(中小受託取引適正化法ガイドブック[2]より)

適用対象の拡大

 以下の図のとおり、対象となる取引に「特定運送委託」が追加されました。

製造委託 物品を販売し、又は物品の製造を請け負っている事業者が、規格、品質、形状、デザインなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託することをいう。
修理委託 物品の修理を請け負っている事業者が、その修理をその他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部をほかの事業者に委託することをいう。
情報成果物作成委託 ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなどの情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託することをいう。
役務提供委託 他社から運送やビルメンテナンスなどの各種サービス(役務)の提供を請け負った事業者が、請け負った役務の提供をほかの事業者に委託することをいう。
特定運送委託 事業者が、販売する物品、製造を請け負った物品、修理を請け負った物品又は作成を請け負った情報成果物が記載されるなどした物品(例:作成を請け負ったデザインに基づいて製造されたペットボトル)について、その取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対して運送する場合に、その運送の行為をほかの事業者に委託することをいう。

禁止行為の追加

➢ 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止

✧ 取適法第5条2項4号
「中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること」
✧ 対象取引について、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、委託事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為を禁止する規定が新設されました。

➢ 手形払等の禁止

✧ 取適法第5条1項柱書、同項2号
「委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為(役務提供委託又は特定運送委託をした場合にあつては、第一号及び第四号に掲げる行為を除く。)をして号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。」
二 「製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと(当該製造委託等代金の支払について、手形を交付すること並びに金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用することを含む。)」
✧ 手形等を交付することは、支払遅延に該当するとして、禁止されることとなりました。

面的執行の強化

公正取引委員会、中小企業庁だけでなく、事業所管省庁による指導・助言が可能となりました。
報復措置の禁止に係る情報提供先にも事業所管省庁が追加されました。

遅延利息を支払う義務

委託事業者が、中小受託事業者に責任がないのに、発注時に決定した製造委託等代金の額を減じた場合、起算日から実際に減じた額の支払をする日までの期間について、減じた額に対して遅延利息を支払う義務が新たに追加されました。

発注書の電子交付の柔軟化

委託事業者は発注に当たって、発注内容等を書面又は電子メールなどの電磁的方法により明示する必要がありましたが、改正により、中小受託事業者からの承諾がなくとも電磁的方法による明示が可能となりました。

製造委託の対象物の追加

専ら製品の作成のために用いられる木型、治具等についても、金型と同様に製造委託物の対象物として追加されました。

第2 重要な改正点

1 親事業者・下請事業者の定義の変更

⑴ 下請法の改正の背景には、中小企業をはじめとする事業者が各々賃上げの原資を確保するためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる構造的な価格転嫁の実現を図っていくことが重要であることから、例えば、価格転嫁を阻害し、受注者に負担を押し付ける商慣習を一掃していくことで、取引を適正化し、価格転嫁を進める必要があるという状況がありました[3]
⑵ この点、従前の資本金要件だけでは、実質的には事業規模は大きいものの当初の資本金が少額である事業者や、原資をすることによって下請法の対象とならない例があったり、下請法の適用を逃れるために受注者に増資を求める発注者が存在したりしたため、上記背景も踏まえ、資本金基準に加え、従業員基準が追加されることとなりました[4]
このように、委託事業者の資本金だけでなく、従業員数も追加することにより、新たに取適法の規制対象となる委託事業者が広がる可能性があり、具体的には、「減資などにより資本金基準を満たさなくなっていた事業者や、合同会社といった形態をとり、資本金は少額ながら、実質的には大規模な事業活動を行う企業(たとえば、一部の外資系企業)が、新たに規制対象となることが想定されます。」[5]
⑶ 2025年7月16日に公表された運用基準案では、従業員基準の対象となる「『常時使用する従業員の数』は、その事業者の賃金台帳の調製対象となる対象労働者(労働基準法第108条及び第109条、労働基準法施行規則第55条及び様式第20号等)の数によって算定するものとする。」(運用基準案第2、2、(2))とされています。
 今後は、取引を行うにあたって、従業員数の確認を行うことが必須となります。

2 対象となる取引に特定運送委託の追加

⑴ 従来、発荷主から元請運送事業者への委託は、下請法の対象外でしたが、立場の弱い物流事業者が、荷役や荷待ちを無償で行わされているなど、荷主・物流事業者間の問題が顕在化していたことを受け、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引が、取適法の対象となる類型として追加されました[6]
⑵ 特定運送委託には4つの類型があり、その詳細は特定運送委託(中小受託取引適正化法ガイドブックより).pdfが参考になります。

3 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止

⑴ コストが上昇している中で、協議することなく価格を据え置いたり、コスト上昇に見合あわない価格を一方的に決めたりするなど、上昇したコストの価格転嫁についての課題があったことから、適切な価格転嫁が行われる取引環境の整備が必要とされ、委託事業者が、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に製造委託等代金を決定することが禁止されることとなりました。
⑵ 想定される違反事例としては、運送会社(委託事業者)が運送会社(中小受託事業者)から代金額の引上げについて協議を求められたにもかかわらず、これを無視し、拒否し、又は回答を引き延ばすなどにより、協議に応じないことが挙げられます。また、機械メーカー(委託事業者)が、代金の額の引下げを要請する場合において、部品メーカー(中小受託事業者)がその説明を求めたのに対し、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、代金の額を引き下げるケースも挙げられます[7]

4 発注書の電子交付の柔軟化

⑴ 下請法では、親事業者から下請事業者に対して発注内容等の明示をする際には、原則として書面でこれを行う必要があり、下請事業者の承諾があった場合に限り、電磁的方法による明示が認められていました。
⑵ 取適法では、この書面の交付義務について、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、必要的記載事項を電磁的方法により提供可能となりました。これによって、委託事業者における取引の利便性が向上したといえるでしょう。

第3 参考資料

・公正取引委員会・中小企業庁「下請法・下請振興法改正法の概要」(令和7年5月)
 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/may/250516_gaiyou02.pdf
・改正法の概要
 https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou-gaiyo.pdf
・新旧対象条文
 https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou-sinkyu.pdf
・公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック『下請法』は『取適法』へ ~知っておきたい制度改正のポイント~」
 https://www.jftc.go.jp/file/toriteki002.pdf
・取適法リーフレット
 https://www.jftc.go.jp/file/toriteki_leaflet.pdf
・取適法の運用基準案(新旧対照表)
 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/jul/250716_toriteki4.pdf
・取適法の施行規則案(新旧対照表)
 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/jul/250716_toriteki5.pdf

以上

—–

[1] 公正取引員会「令和6年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組」(令和7年5月12日)https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/may/250512.html
[2] 公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック『下請法』は『取適法』へ ~知っておきたい制度改正のポイント~」、3ページ
[3] 公正取引委員会・中小企業庁「下請法・下請振興法改正法の概要」(令和7年5月)、3ページ
https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou-setsumeisiryo.pdf
[4] 同上、7ページ
[5] 向井康二・長澤哲也「下請法から中小受託取引適正化法へー改正の趣旨に迫る」(NBL No.1297(2025年9月1日))、16ページ
[6] 前掲・「下請法・下請振興法改正法の概要」の6ページ
[7] 前掲・「中小受託取引適正化法ガイドブック『下請法』は『取適法』へ ~知っておきたい制度改正のポイント~」の20ページ