タイ有害物質法に関する新法令の解説<有害物質リストの改正とコンプライアンス上の注意点>
タイ有害物質法に関する新法令について解説するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
→タイ有害物質法に関する新法令の解説<有害物質リストの改正とコンプライアンス上の注意点>
タイ有害物質法に関する新法令の解説
<有害物質リストの改正とコンプライアンス上の注意点>
2025年9月22日
One Asia Lawyersタイ事務所
藤原 正樹(弁護士・日本法)
布井 千博(弁護士・日本法)
マーシュ 美穂
はじめに
2025年7月7日、タイの化学物質管理の根幹をなす「有害物質法(Hazardous Substance Act B.E. 2535)」(以下、「HSA」)で定める有害物質が第8版有害物質リストにより改正され、公布と同時に即時施行されました。この改正により、特定のシアン化合物にはより厳格な許可制度が適用され、特定の残留性有機汚染物質が新たに禁止対象となりました。
本ニュースレターでは、タイの有害物質法の基本的な仕組みを概説するとともに、改正された有害物質リストの概要とこれらの化学物質を取り扱う企業向けのガイダンスを提供します。これらの化学物質を扱う企業は、効果的なコンプライアンスを確保するため、迅速に対応する必要があります。
1. タイ有害物質法の概要
1992年に制定されたHSAは、人の健康や環境に害を及ぼす可能性のある化学物質の製造、輸入、輸出、保有(輸送を含む)を規制することを目的としています。工業省が中心となり、複数の省庁が共同で管轄しています。
HSAは、有害物質の規制に加え、生産者・輸入業者・運送業者・再輸入業者・再輸出業者および有害物質を保有する者に対して、一定の義務を課しています。
HSAは、有害物質をその危険性(ハザードレベル)に応じて以下の4種類に分類し、それぞれのレベルに応じた規制をしています。
| 種別 | 規制内容 |
| 第1種 | 届出のみ |
| 第2種 | 届出+登録 |
| 第3種 | 届出、登録に加えて、当局の許可の取得 |
| 第4種 | 原則として禁止 |
事業者は、自社の化学物質がどのカテゴリーに該当するかを特定し、関連する手続(届出、月次報告、安全対策、安全責任者の配置など)を遵守しなければなりません。
またHASの下で、生産者・輸入業者・卸売業者・運送業者・再輸入業者・再輸出業者・小売業者・仲介業者および有害事象発生時点までの流通チェーンのあらゆる段階に関与する当事者は、結果として生じた不法行為について連帯責任を負う可能性があります。この責任は、事業活動中に代表者または従業員が不法行為を行った場合には、雇用主、委託者、請負業者、または事業主にも及びます。
タイにおける不法行為請求の標準的な時効期間は被害者が損害及び加害者を知った日から起算して1年 ですが、HASは有害物質に起因する不法行為については、関連する損害の潜在的な深刻性を反映して、この期間を3年に延長しています。
2. 第8版有害物質リストの主な改正点
2.1 シアン化合物の再分類(第1種 → 第3種へ変更)
従来は届出のみで取り扱いが可能だった下記のシアン化合物などについて、より厳格な管理が求められる第3種有害物質に引き上げられました。これにより、これらの物質の製造、輸入、輸出、保有(輸送を含む)には当局の許可が必要となります。
対象となる主な物質:
シアン化金(I) (CAS No. 506-65-0)
シアン化ナトリウム金(I) (CAS No. 15280-09-8)
シアン化金カリウム (CAS No. 13967-50-5)
シアン化銅(I) (CAS No. 544-92-3)
シアン化銅(II) (CAS No. 14763-77-0)
プロピオニトリル(エチルシアン化物) (CAS No. 107-12-0)
企業が取るべき対応:
改正前からこれらの物質を取り扱っている事業者は、2025年8月6日(施行日から30日以内)までに、第3種有害物質としての許可申請を行う必要があります。
2.2 残留性有機汚染物質(POPs)の禁止(第4種へ変更・新規指定
以下の3種類の残留性有機汚染物質が新たに第4種(禁止)に指定されました。これらについては、製造、輸入、輸出、保有(輸送を含む)が禁止されます。
対象となる物質:
ジコホル (CAS No. 115-32-2):第3種から第4種へ変更
ペンタクロロベンゼン (CAS No. 608-93-5):新規で第4種に指定
ヘキサクロロブタジエン (CAS No. 87-68-3):新規で第4種に指定
企業が取るべき対応:
これらの物質を取り扱う事業者は、当該物質の使用を中止するとともに、廃棄または当局への引き渡し方法については第8版有害物質リストの施行から180日以内(2026年1月まで)に発出される当局の命令に従わなければなりません。
3. 罰則
- 第3種物質を無許可で取り扱う場合、最高20万バーツの罰金、2年以下の懲役、またはその両方に処せられます。
- 第4種物質を無許可で取り扱う場合、最高100万バーツの罰金、10年以下の懲役、またはその両方に処せられます。
- 当該物質が化学兵器禁止条約に掲げる毒性化学物質または毒性化学物質の製造に使用される物質である場合、タイ国籍の違反者は、違反行為がタイ国外で犯された場合でも処罰されます。
4. 推奨されるコンプライアンス対応
今回の法改正は、国際的な化学物質管理の潮流に沿ったものであり、タイ国内の規制がより一層強化されたことを示しています。特に、これまで広く使用されてきた可能性のある物質が、新たに許可制(第3種)や禁止(第4種)の対象となった点は重要です。
化学物質を取り扱う事業者については、以下の対応を速やかに進めることが推奨されます。
- 取り扱う化学物質の確認: 新版第8版リストに掲載されている、使用中・製造中・輸入中・保管中の全化学物質を特定します。
- 規制対応:第3種物質については、期限までに許可申請書を作成し、提出しなければなりません。第4種物質については、施行日以降は直ちに使用を中止し、第8版有害物質リストの施行から180日以内(2026年1月まで)に発出される関連当局の命令に従い、廃棄または関連当局への引き渡しを実施しなければなりません(過去同様のケースでは、事業者による廃棄は認められておらず、関連当局への引き渡しが命じられています)。
- サプライチェーンでの情報共有: サプライヤーや顧客に対しても今回の改正に関する情報を提供し、サプライチェーン全体での法令遵守を徹底することが求められます。
また、今回のリスト改正とは別に、2025年6月には第3種有害物質の許可申請や更新手続きを電子化し、標準化するための省令も公布されており(2025年9月17日施行予定)、タイにおける化学物質管理の手続き面での変更も進んでいます。
これらの規制への対応は複雑な場合もありますので、不明な点があれば速やかに専門家へ相談ください。
以上
〈注記〉
本資料に関し、以下の点につきご了解ください。
- 本資料は2025年9月22日時点の情報に基づき作成しています。
- 今後の政府発表や解釈の明確化にともない、本資料は変更となる可能性がございます。
- 本資料の使用によって生じたいかなる損害についても当社は責任を負いません。

