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ベトナム投資法 2024年の法改正について

2025年10月14日(火)

ベトナム投資法の2024年の改正についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

<ベトナム投資法 2024年の法改正について>

 

<ベトナム投資法 2024年の法改正について

2025年10月14日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

はじめに 

 ベトナムの投資法(法律第61/2020/QH14号)は、ベトナムの投資規制の根幹となる法律です。昨年から今年にかけて、ベトナム政府は、ビジネス環境の改善と外国投資の誘致に向けたベトナム政府の意向を反映することを目的として、投資法について一連の重要な改正を行いました。
 具体的には、2024年11月29日公布のLaw No.57/2024/QH15号(以下、「法律第57号」)及び2025年6月25日公布のLaw No.90/2025/QH15号(以下、「法律第90号」)により、特にハイテク分野におけるベトナムへの投資を促進するために投資プロジェクトに関する手続きを簡素化することを目的とした投資法の改正がなされました。
 本ニューズレターでは、上記改正における主要な変更点を概説いたします。

1.特別投資手続の新設

 法律第57号は、半導体・ハイテク産業やイノベーション分野を戦略的に誘致する必要性から、投資方針承認や環境影響評価など通常必要となる投資手続を大幅に簡素化した「特別投資手続」を新設しました[1]。これにより、投資家は、工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、集中デジタル技術区[2]、自由貿易区、又は経済特区内に立地するプロジェクトにおいて、以下のいずれかに該当する分野への投資を行う場合に、特別投資手続を選択することができます。

  • イノベーションセンター若しくは研究開発(R&D)センター、半導体産業、IC設計・製造技術、プリントエレクトロニクス(PE)、又は半導体部材・チップの製造
  • 優先ハイテク分野又は首相が定めるハイテク製品の製造


 上記に加えて、法律第90号により特別投資手続の対象が以下のとおり拡大されています。

  • 首相が定める戦略的技術分野における大規模データセンター、クラウドコンピューティング、5G以降のモバイルネットワーク、その他のデジタルインフラの整備に関する投資プロジェクト又は首相が定める戦略的技術分野及び戦略的技術製品の製造への投資[3]


 特別投資手続の対象となる案件を進める場合、投資家は、投資登録の申請から15日以内に投資登録証明書(IRC)を取得でき、投資方針承認、技術審査、環境影響評価、詳細計画、建設許可、その他建設、防火・防災に関する承認といった手続が免除されます[4]。ただし、建設、環境保護、防火・防災に関する法令上の条件・基準・規格を遵守する旨を保証する必要はあります。加えて、通常の手続において要求される予備的な環境影響評価の代わりに、投資プロジェクト提案書に環境影響の特定と予測及び悪影響の軽減措置を含める必要があります[5]
 この特別投資手続の導入により、行政手続の簡素化、規制負担の軽減、優先分野におけるプロジェクト実施の加速を通じて、ベトナムを投資先としてより魅力的なものにすることが期待されています。

2.投資支援ファンドの導入

 OECDのBEPS行動計画[6](Pillar Two)によるグローバルミニマム課税(GloBE)の導入は、従来の税制優遇に依存したベトナムのFDI誘致戦略に影響を与えることが予想されます。これに対応するため、法律第57号は「投資支援ファンド」を導入する規定を設けました[7]。同ファンドの主な財源は、GloBE規則に基づく上乗せ法人税(top-up CIT)及びその他の合法的な収入です。
 さらに、ベトナム政府はDecree No.182/2024/ND-CP(2024年12月31日公布・同日施行、2024年度から適用)を制定し、投資支援ファンドの設立・管理・利用の詳細を定めています。投資支援ファンドによる支援対象はベトナム法に基づいて設立・活動する企業(外資系のベトナム法人を含む)で、以下の企業類型と支援項目に該当する企業となっています。

[企業類型]

  • ① ハイテク企業
  • ② ハイテク製品製造プロジェクト実施企業
  • ③ ハイテク応用プロジェクト実施企業
  • ④ R&Dセンター投資プロジェクト実施企業

[支援項目]

  • ① 訓練・人材育成
  • ② 研究開発
  • ③ 固定資産形成
  • ④ ハイテク製品の生産
  • ⑤ 社会インフラ投資;社会インフラは従業員向け施設(労働者用の社会住宅、学校・保育、医療、文化・スポーツ)に限定され、当該会計年度に発生した実支出額の最大25%まで支援可能
  • ⑥ 政府が決定するその他の項目

[規模要件(いずれかを満たすこと)]

  • 通常分野:資本金12兆VND以上又は年売上20兆VND以上で、投資資本の支出に関する条件を満たすこと
  • 半導体・ICAIデータセンター:資本金6兆VND以上又は年売上10兆VND以上で、投資資本の支出に関する条件を満たすこと
  • R&Dセンター:3兆VND以上の投資総額と投資承認書類発行後3年以内に1兆VND以上の資金支出を実施すること
  • 首相指定のブレークスルー高度技術・製品:資本・売上基準を免除;
  • IC設計:資本・売上基準を免除。ただし、活動5年後にベトナム人300人以上(エンジニア又は管理職)を雇用し、毎年30人以上のIC設計人材の育成支援を履行すること


 投資支援ファンドの導入は、ハイテク等の戦略分野への大規模投資を後押しし、国内企業の競争力強化と投資環境の安定に資することが期待されます。

3.投資優遇と支援

 法律第90号は、投資優遇の対象となる事業分野及び地域を追加しました[8]。具体的には以下の通りです。

[事業分野]

  • ビッグデータセンター、クラウドコンピューティング、5G以降のモバイルネットワー ク等のデジタルインフラへの投資、戦略的技術・戦略的技術製品への投資、科学技術革新法[9]に従ったイノベーション及びデジタルトランスフォーメーション(DX)への投資
  • 科学・技術・イノベーション・DX分野の人材育成
  • デジタル技術製品の製造、デジタル技術サービスの提供
  • インフラ施設の開発・運営・管理、都市の公共旅客輸送、鉄道輸送事業、鉄道産業、鉄道人材育成

[地域]

  • 「集中デジタル技術区」の追加


 法律第90号は、特別投資優遇措置の対象を以下のとおり追加しています[10]

  • イノベーションセンター・R&Dセンターの設立・拡張、大規模データセンター・クラウド・5G以降のモバイルネットワークその他の戦略技術分野のデジタルインフラ、戦略技術/戦略技術製品への投資で総投資額3兆VND以上かつ3年以内に1兆VND以上の資金支出を行う場合
  • キー・デジタル技術製品の製造、半導体チップのR&D・設計・製造・パッケージング・テスト、AIデータセンター建設(デジタル技術産業法に基づく)で、総投資額6兆VND以上かつ5年以内に6兆VNDの資金支出を行う場合

4.IRC取得前の会社設立の許容

 外国投資家は、企業設立の前提条件として投資プロジェクトの承認を受け、投資登録証明書(IRC)を取得する必要があります。法律第90号はこの原則に例外を設け、次の投資プロジェクトについては、IRCの発給(新規又は変更)を受ける前に、会社を設立することを認めています[11]

  • イノベーションセンター、研究開発センターの設立に関する投資プロジェクト;
  • 大規模データセンター、クラウドコンピューティング、5G以降のモバイルネットワークインフラ、その他の戦略的技術分野におけるデジタルインフラの整備に関する投資プロジェクト
  • 戦略的技術分野における投資プロジェクト、戦略的技術製品の製造に関する投資プロジェクト(首相の決定に基づくものに限る)


 この新たな規制は、特に大規模かつ先進的な技術プロジェクトにおける投資手続きを簡素化し、上記分野における外国投資の誘致期間を短縮することで、投資手続きを円滑化します。ベトナム政府には、この優遇措置の対象範囲を拡大し、経済組織の設立を通じた外国投資をさらに促進するため、上記以外の分野にも適用範囲を拡大することが期待されます。

5.条件付事業分野のリスト

 法律第57号及び法律第90号は、投資法における別表IV「条件付き事業分野のリスト」を次のように改正・補充しています[12]
 ベトナムにおいてデータ規制の重要性が高まっていることを反映して、条件付事業分野のリストにデータ関連事業などが新たに追加されました。具体的には以下の通りです。

  • 中間データ製品及びサービスの販売
  • データ分析・統合製品・サービスの販売
  • データ交換サービス
  • 仮想通貨に関連するサービスの提供
  • 個人データ処理サービス


 データ関連事業以外で条件付事業分野に指定されたものは下記の通りです。

  • 発電、送電、配電、電気の卸売及び小売
  • 都市計画・農村計画に関するコンサル業務
  • 古美術品・文化財の鑑定サービス
  • 遺跡・史跡の保護・回収・復元又は計画策定・設計・実施・監督に関するコンサル業務
  • 古美術品・文化財の取引、保護・復元・デジタル化・データベース開発
  • 文化スポーツ省の管轄下にある文化商品の輸入
  • ドローンなどの航空機のエンジン・プロペラ・装備品の輸出入
  • ドローンなどの航空機の取引及びこれらのエンジン・プロペラ・装備品の取引
  • ドローンなどの航空機及びこれらのエンジン・プロペラ・装備品に関する研究・製造・試験・修理・保守


 下記の事業分野が条件付事業分野のリストから削除され、これらの分野への投資における規制障壁が軽減されました。

  • 電力分野のコンサル業務
  • 防火・消火サービス事業
  • 都市鉄道運営に関連する事業分野


 これらの変更は、データ管理やドローンなど新規かつ敏感な分野における規制監督を強化しつつ、特定の産業における市場アクセスを簡素化することを目的としています。

おわりに

 法律第57号及び法律第90号の施行により、ベトナムは投資手続きの簡素化、インセンティブの強化、ハイテク及びデジタル産業の支援に向けた具体的な措置を講じました。これらの変更は、戦略的な外国投資家の誘致を促進し、ベトナムのテクノロジーとイノベーション産業の発展を支援すると期待されています。
 なお、今回の投資法改正により導入された規制の多くは下位法令による明確化が必要です。投資法に関する下位法令の整備が注目されます。

—–

[1] 法律第57号第2条8項により改正された投資法第36a条第1項。
[2] 2025年デジタル技術産業法3条6項によれば、「集中デジタル技術区」とは、デジタル技術分野の研究開発・支援・研修、イノベーション促進、インキュベーション、製品・サービスの生産・流通、インフラ整備など、さまざまなデジタル関連活動が集中して行われる機能区域と定義されています。
[3] 法律第90号第6条13号により改正された投資法第36a条1項c号
[4] 法律第57号第2条8項により改正された投資法36a条7項
[5] 法律第90号第6条13号により改正された投資法第36a条2項
[6] BEPS行動計画とは、「多国籍企業が各国の税制のすき間を突いて利益を低税率国へ移す税源浸食と利益移転」といった租税回避に各国が協調して対処するための包括パッケージを指します。
[7] 法律第57号第2条3項により改正された投資法18a条によれば、このファンドは、投資環境の安定化、戦略的投資家及び多国籍企業の誘致・促進、ならびに一定の投資奨励分野・業種を営む国内企業の支援を目的とします。
[8] 法律第90号第6条1項により改正された投資法16条1項
[9] 法律第93/2025/QH15(2025年6月27日公布、2025年10月1日施行)
[10] 第90号法律第6条第3項により改正された投資法20条2項
[11] 第90号法律第6条第4項により改正された投資法22条第1項d号
[12] 法律第57号第2条11項及び法律第90号第6条18項による投資法別表Ⅳ「条件付事業分野一覧」の改正。