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マレーシア:データ保護責任者(DPO)に要求される知識・技能・能力

2026年02月25日(水)

「マレーシア:データ保護責任者(DPO)に要求される知識・技能・能力」についてニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFからもご覧いただけます。
→マレーシア:データ保護責任者(DPO)に要求される知識・技能・能力

データ保護責任者(DPO)に要求される知識・技能・能力

2026年2月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士 Sharil Ramli

1. はじめに

昨年のニュースレターで言及した通り、2025年に施行された個人情報保護法(改正PDPA)は、Data Protection Officer(DPO:データ保護責任者)の選任義務を一部の企業に課し、また、DPOの任命が義務付けられる企業を明確にするためのガイドライン(DPO選任ガイドライン)も制定しました。

その後、Personal Data Protection Commissioner(個人データ保護局)は、DPOに求められる能力水準に関する指針を示すため「DPOコンピテンシー・ガイドライン」(以下「本ガイドライン」)を正式に公表しました。なお、「コンピテンシー」とは、職務遂行に必要な知識・技能・能力等を指す言葉です。

本ガイドラインは、各業種のデータ利用者によって任命されるDPOに求められる最低限のコンピテンシーを定めており、組織が個人データ保護の実務を体系的かつ効果的にその業務運営に組み込むことを支援することを目的としています。また、本ガイドラインは、DPO選任ガイドラインを補完する追加的な指針も提供しています。

本稿では、やや抽象度が高いともいえる本ガイドラインの骨格のみを紹介することを通じて、本ガイドラインのアウトラインの説明を試みるものです。

2. DPOに要求される中核的な知識・技能・能力

DPOガイドラインにおいて定められているDPOの責務は、組織内における個人データ保護要件の効果的な監督およびコンプライアンス確保において重要な役割を果たします。DPOは、適切な独立性をもってその職務を遂行することが期待されており、また、データ保護コンプライアンスを明確かつ効果的に監督できるよう、上級管理職またはこれに相当する者へ直接報告する権限を有していなければなりません。

そのうえで、本ガイドラインは、任命されたDPOが備えるべきいくつかの中核的な知識・技能・能力を示しています。

(a) 助言および支援
DPOは、個人データ保護に影響を及ぼす可能性のある新規施策を含め、個人データ保護に関する事項について助言を提供し、さらにデータ管理者およびデータ処理者の業務活動に対する個人データ保護法の適用について指導を行う能力等が要求されます。

(b) リスク管理および評価
DPOは、データ管理者またはデータ処理者による個人データの処理に関連するリスクを特定、評価および軽減する能力等が要求されます。

(c) コンプライアンス監督およびモニタリング
DPOは、組織内における個人データ保護法および方針の遵守状況を監督し、継続的なコンプライアンスを確保する責任を負い、そのために必要な能力等が要求されます。

(d) 監査および報告
DPOは、コンプライアンス報告書を作成し、定期的な個人データ監査を実施および促進し、個人データ保護活動に関する正確な文書化を確保する能力を備えていなければなりません。

(e) コミュニケーションおよびステークホルダー・エンゲージメント
DPOは、以下を通じて組織の個人データ保護への取り組みを支援することが要求されます。

(i) セキュリティ方針および個人データ保護実務の実施および遵守を確保するための、社内外ステークホルダーとの連携
(ii) 個人データ保護法、方針およびベストプラクティスに関する教育を目的とした研修および意識向上活動の実施

(f) 規制対応およびデータ主体対応
DPOは、コミッショナーおよびデータ主体双方にとっての主要な連絡窓口として機能します。すなわち、規制事項、コンプライアンス義務および個人データ侵害通知に関して個人データ保護コミッショナーと連携し、また、個人データ保護に関する問い合わせ、内部および外部からの照会、苦情、個人データへのアクセス請求および訂正請求を含む、データ主体関連事項にも対応することが要求されますので、これら事項に対応する能力等が要求されます

3. 知識・技能・能力(KSA)モデルおよび階層

 本ガイドラインは、DPO選任ガイドラインで示された期待事項に基づき、DPOの機能および責務を支える主要要素を示すKSAモデルを導入しています。

「Knowledge(知識)」は、DPOが理解し精通していなければならない事項を指します。
「Skill(技能)」は、DPOが実行できなければならない事項を指します。
「Ability(能力)」は、実務の場面において知識および技能を適用する能力を指します。

本ガイドラインは、6つの中核的コンピテンシー分野ごとに求められるKSAについて指針を示しており、それらは組織の個人データ処理活動の性質、規模およびリスク曝露度に基づいて判断されるべきとされています。

また、本ガイドラインはDPOのコンピテンシーを以下の2つの階層に区分しています。 

(a) ファンダメンタル階層
これは、DPOの機能および責務を遂行するために必要な最低限の中核的コンピテンシーを意味します。

(b) アドバンスト階層
これは、ファンダメンタル階層の能力を基礎とし、組織全体の個人データ保護施策を主導するために必要な、より高度で上位のコンピテンシーを意味します。

これらのコンピテンシーの必要性は、組織の個人データ処理活動の規模、複雑性およびリスク曝露度に基づいて評価される必要があります。組織が複雑な処理活動を行う場合や、大量のセンシティブな個人データを取り扱う場合には、DPOは相応に高度な法的、技術的および業務上の専門性を備える必要があります。適切な場合には、DPOは多分野の専門家チームや外部アドバイザーの支援を受けることができます。

ガイドラインは、この点について詳細な指針を提供していますが、ここでは、以下に、ファンダメンタル階層における「助言および支援」および「リスク管理および評価」に関するKSAの例を示します。

【助言および支援】 

(a) 知識
・DPOは、個人データ保護法2010年(PDPA 2010)およびその他関連法令に記載された要件を満たしていなければならない。
・DPOの知識は、PDPA 2010に基づくDPOの主要責務を反映していなければならない。

 (b) 技能
・契約書における個人データ保護条項をレビューできること。
・PDPA 2010の要件を関連ステークホルダーに説明できること。
・各事業部門の個人データ処理活動を理解していること。
・個人データ保護義務に関する報告書および要約を作成できること。 

(c)  能力
・契約における重大な個人データ保護リスクを特定し、経営陣に警告できること。
・PDPA 2010に基づくコンプライアンス要件について社内チームに助言できること。
・法的要件を組織内で実施可能な明確かつ実務的な手続へと落とし込めること。

【リスク管理および評価】

 (a) 知識
・データ保護影響評価(DPIA)および/または移転影響評価(TIA)の目的および要件を理解していること。
・組織機能(例:人事、マーケティング、調達、IT)全体に共通する個人データ関連リスク、およびデータセキュリティリスクと個人データ保護の最新動向を理解していること。
・インシデント対応および個人データ侵害通知手順に精通していること。

(b) 技能
・PDPA 2010のガイドラインおよび要件に従ってDPIAおよび/またはTIAの実施を支援できること。
・個人データフローおよび個人データ処理活動におけるリスクを分析できること。
・新たな個人データ処理活動に関し、個人データ保護リスクと事業上の必要性とのバランスを評価できること。
・個人データ侵害に関するインシデント対応文書を作成できること。

 (c)  能力
・DPIAおよび/またはTIAの結果に基づき、実務的なリスク軽減策を提案できること。
・新たな個人データ処理活動に関する個人データ保護リスクについて助言できること。
・個人データ処理リスクを軽減するための措置を提案できること。
・個人データ侵害対応を社内チームと連携して調整できること。
・個人データ関連の問い合わせを効率的に処理できること。

4. 結論

個人データ保護局が発行した本ガイドラインは、PDPA の下におけるDPOの期待事項および責務を明確にするものです。組織にとっては、個人データ保護が事業運営および規制コンプライアンスの中核となりつつある中で、任命されたDPOが適切な知識、技能および能力を備えているかを評価する重要な機会となります。

ファンダメンタル階層またはアドバンスト階層のいずれであっても、DPOはデータ保護リスクの管理、社内チームの支援および経営層への助言を行うためのより明確な枠組みを得たことになります。

企業の皆様におかれましては、本ガイドラインを精査し、現在のデータ保護体制を評価し、DPO機能が単にコンプライアンスを満たすだけでなく、組織全体に戦略的価値を付加できるよう積極的な措置を講じられることを推奨いたします。

本ガイドラインの解釈、DPOのコンピテンシー評価、または貴社のデータ保護体制強化に関するご支援が必要な場合には、どうぞお気軽にご連絡ください。


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