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インドネシア:新刑法における法人の刑事責任

2026年03月13日(金)

「インドネシア:新刑法における法人の刑事責任」についてニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFからもご覧いただけます。
→インドネシア:新刑法における法人の刑事責任

新刑法における法人の刑事責任

2026年3月
One Asia Lawyers Indonesia Office
日本法弁護士 馬居 光二
インドネシア法弁護士 Prisilia Sitompul

1. はじめに

2026年1月2日、インドネシアの新たな刑法典である法律2023年第1号(以下「新刑法」)が施行されました。新刑法は、刑事調整に関する法律2026年第1号(以下「法律1/2026」)により一部改正されておりおます。同法により、従来の法律1946年第1号(以下「旧刑法」)は廃止されます。新刑法においては様々な点が規定されておりますが、各企業にとって重要である、法人の刑事責任に関する規定が含まれております。従来、法人の刑事責任については、主に、法人が関与する刑事事件の取扱いに関する最高裁規則第2016年13号に基づいて運用がなされておりました。新刑法はこの点について、個別の定めを規定しております。
本ニュースレターでは、新刑法がインドネシアで事業を行う法人にどのような影響を及ぼすのか、企業が留意すべき主要ポイントを解説いたします。

2. 法人の刑事責任

新刑法第45条は、法人が刑事責任の対象となることを明記するとともに、この場合の「法人」には、以下のように法人格を有するものだけではなく、法人格を有さない団体も含まれる旨が規定されております。

法人格を有する主体(例:有限責任会社、財団、協同組合、国営企業・地方公営企業など)
法人格を有しない主体(例:団体、合名会社、合資会社など)※関係法令に従う

3. どのような場合に法人犯罪とみなされるか

どのような場合に法人による犯罪とみなされるかについて、新刑法第46条から48条がこれを定めております。必ずしも条文毎の建て分けは明確でないものの、概ね下記のように①行為者、②法人への帰属、③業務範囲、④行為形態に分けて理解することが可能かと存じます。
①行為者
法人犯罪は下記のいずれかの者が行う必要がございます(46条、47条)。
a. 企業の組織構造において機能上の地位を占める役員
b. 従業員など雇用関係に基づく者
c. その他の関係に基づき法人のために行動する者
d. 組織外の実質的支配者
②法人への帰属
当該行為が下記のいずれかに該当する必要がございます(46条)。
a. 法人の名義で行われた行為
b. 法人の利益のための行為
③業務範囲
当該行為が法人の事業または活動の範囲内で行われる必要がございます(46条)。
④行為形態
当該行為は、単独で行われる場合も、複数で共同して行われる場合も含みます(46条)。

4. どのような場合に法人が責任を負うのか

前述の様に、具体的な犯罪行為が上記3の要件を満たしだけでは法人に責任は帰属せず、下記のいずれにかの要件を満たした場合にのみ法人に責任が帰属するとされております(48条)。

a. 当該行為が定款又は法人に適用されるその他の規定に定められた事業又は活動の範囲内に含まれる場合
b. 当該行為が違法に法人の利益となる場合
c. 当該行為が法人の方針として受け入れられている場合
d. 法人が犯罪の発生を防止し、より大きな被害を防止し、及び適用される法令への遵守を確保するために必要な措置を講じていない場合
e. 法人が犯罪の発生を放置した場合

5. 法人に対する刑事制裁およびその他の措置

(1) 主たる法人刑罰
法人に対する刑罰としては、以下のような、犯罪の重大性に応じた罰金刑が規定されております(121条)。

a. 特別の規定がない場合(ある犯罪を定めた条文が、禁錮刑しか定めていないような場合):最低カテゴリーIV(最大2億ルピア)
b. 7年未満の禁錮刑に相当する犯罪:最大カテゴリーVI(最大20億ルピア)
c. 7年以上15年以下の禁錮刑に相当する犯罪:最大カテゴリーVII(最大50億ルピア)
d. 20年以下の禁錮、終身刑または死刑に相当する犯罪:最大カテゴリーVIII(最大500億ルピア)

(2) 追加の刑罰 

前述の罰金に加え、有罪となった法人には以下の制裁が科される場合がある旨規定されております(120条)。

a. 損害賠償の支払
b. 犯罪被害回復のための補償
c. 履行されていない義務の履行
d. 慣習上の義務の履行
e. 職業訓練費用の負担
f. 犯罪によって得た物又は利益の没収
g. 裁判所判決の公表
h. 特定の許可の取消し
i. 特定の行為を行うことの恒久的禁止
j. 法人の事業所及び/または活動場所の一部又は全部の閉鎖
k. 法人の事業活動の全部又は一部の停止
l. 法人の解散
*上記(h)、(j)、(k)は、最長2年間に限り科すことができるとされております。

(3) その他の措置

インドネシア刑法上は、上記刑罰(Pidana)とは別に措置(Tindakan)が規定されております。刑罰が犯罪に対する制裁を目的とするのに対して、措置は社会保護・矯正・回復を目的とします。
法人犯罪に対しては、裁判所が企業の管理状態を変える措置として下記が規定されております。

a. 法人の取得(政府による引受・接収)
b. 政府の監督下への配置
c. 法人の保護管理(管財・後見)

6. 経過規定

新刑法は、いかなる行為も、その行為が行われる前に存在していた法令における刑罰規定に基づく場合を除き、刑罰及び又は措置を科されることはないとしております(1条1項)。したがって、施行日である2026年1月2日の時点において、裁判所によってまだ判決が出ていない刑事犯罪については、旧刑法が適用されることになります。
もっとも、新刑法の下で犯罪とされなくなった行為については、進行中の捜査、公訴、裁判手続、さらには確定判決であっても終了させなければならず、当該者は釈放される必要があるとされております(3条2項〜4項)。

7. 結論

上記のように、新刑法は、法人の刑事責任に関する包括的な規定を導入しております。新刑法の下では、役員や従業員のみならず、法人のために行為する第三者や、法人を実質的に支配する者の行為についても、一定の場合には法人に責任が帰属する可能性がござます。
また、法人に対しては罰金刑に加え、許認可の取消し、事業活動の停止・終了、さらには法人の清算などの重大な措置が科される可能性がございます。
したがって、インドネシアで事業を行う企業においては、コンプライアンス体制や内部統制の整備・強化がこれまで以上に重要となると考えられます。