マレーシア:マレーシアにおける相続手続と実務対応
「マレーシアにおける相続手続と実務対応」に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
マレーシアにおける相続手続と実務対応
2026年6月吉日
One Asia Lawyers
国際相続プラクティスグループ
近年、日本人による海外資産の保有が増加する中で、マレーシアに不動産や預金を有するケースも珍しくなくなっています。
もっとも、「取得」は比較的スムーズである一方、「相続(出口)」については、十分に理解されていないことが多く、実務上のトラブルの温床となっています。
本ニュースレターでは、マレーシア相続の基本構造と、最低限押さえておくべきポイントを簡潔に整理します。
1. 準拠法の考え方
そもそも、日本人が外国で死亡した場合、いずれの国の法律を適用するべきかという国際私法の問題が生じます。
マレーシアでは、遺産の種類によって適用される法律が異なります。 まず、不動産については、所在地法によって、相続がされると規定されています。一方で、不動産以外の資産である預金や株式といった動産については、被相続人の所在地法(Domicile法)によって相続がされると規定されています。
つまり、日本人であっても、マレーシア不動産については、マレーシア法で相続が行われることとなります。
また、マレーシアは、他の東南アジア諸国の多くと同様に、宗教による二元構造を持ち、日本人等の非イスラム教徒の場合は、上記の規程に従い、イスラム教徒の場合はムスリム法に従って相続が行われるという点も特徴的です。
本ニュースレターでは、紙面の都合上、ムスリム法は割愛いたします。
2. マレーシア相続法の概要
⑴ 法定相続分について、マレーシア法と日本法で大きな相違点があります。
まず、例えば、配偶者と子が相続人になる場合、日本ではそれぞれ1/2ですが、マレーシア法では、配偶者が1/3、子が2/3となります。また、配偶者と親の場合、マレーシア法では、配偶者と親がそれぞれ1/2ずつとなります。法定相続人の範囲は大きく異なるものではありませんが、法定相続分が異なるため、日本法を想定していると、現地法との整合性が取れなくなるリスクがあります。
⑵ マレーシア法で重要な法制度となる、法定信託(Statutory Trust)という制度があります。
この制度は、遺言がない状態で、未成年の子が相続人になると、その子が18歳(成人)に達するまで財産を保有・管理するために、法律上当然に信託が成立するというものです。
英米法系の国において相続対策として活用されることがある信託(Trust)と異なり、自由に資産運用することができないという点で、非常に硬直的な制度であり、注意が必要です。
⑶ 次に、実務上、マレーシア法の日本法との最も重要な相違点は、裁判所の関与を経なければ、遺産の処分・管理が一切できない点にあります。
例えば、金融機関において、名義人の死亡により、口座は凍結されることとなり、相続人であっても、裁判所の命令書を取得しない限りは払い戻しを受けることはできません。
また、不動産についても同様であり、相続人間の合意の有無にかかわらず、裁判所の手続きを経ずに名義変更がなされることはありません。
この点は、日本の実務と大きく異なるため、事前の理解が不可欠です。
⑷ 遺言がある場合には、プロベート(Probate)の手続きを行います。遺言で指定された遺言執行人(Executor)が裁判所に申し立てを行い、「この遺言は本物であり、この執行人に権限を付与する」という証明書(Grant of Probate)を取得します。
遺言がない場合、裁判所に遺産管理人(Administrator)を選任してもらい、その遺産管理人に遺産の管理権限(Grant of Administrator)を付与してもらう手続きです。この手続きでは、裁判所から管理状(Letters of Administration)が発行されます。
なお、遺言がない場合の手続きにおいては、申立人に対し、遺産管理人が遺産を持ち逃げしないよう、遺産総額と同額の資力を有する保証人2名を用意するか、又は、遺産総額と同額の保証金(Administration Bond)の提供が裁判所から要求されます。
3. 遺言
マレーシアの相続手続きをスムーズに進めるためには、遺言が重要なカギとなります。
マレーシア法上、遺言が有効となるためには、以下の要件を満たす必要があります。
・書面で作成されていること
・作成時に18歳(成人)以上であること
・2名以上の証人の立会いの下で署名すること
日本法で作成した遺言についても、英訳したうえで、「日本法上有効に成立している」ことを日本の法律家が証明する法的意見書(Affidavit Foreign Law)を用意すれば、マレーシアの裁判所に持ち込むことが可能です。マレーシアの裁判所にこれらを用いて有効な遺言であることを説明するだけでも、半年近く手続きが遅延することがあるため、マレーシア法に従って作成しておくことが望ましいです。
4. 不動産の承継にかかる注意点
マレーシアにおける相続手続きでは、裁判所での手続きを完了した後にも、不動産の名義変更のためには、2つのハードルが存在します。
まず、印紙税(Stamp Duty)を納付する必要があります。マレーシア内国歳入庁が不動産の時価評価をもとに、税額を算定し、この金額を納付することになります。
次に、これが大きなハードルとなりますが、州政府の承認(State Approval)が必要になります。マレーシアでは、外国人が不動産を取得する際、州政府の承認が必要になりますが、相続による名義変更の場合であっても同様にこのプロセスをスキップできないことが多いです。州によって運用は異なりますが、この承認を得るために数か月の待機時間が発生することになります。
5. 結語
海外資産については、問題が顕在化してからの対応が困難となる場面も多く、早期の段階で適切な整理をしておくことが重要です。
マレーシアにおける相続は、制度上、手続き負担が大きく、かつ事前の準備の有無による差が顕著に現れます。
マレーシアにおいては、遺言を作成しておくことが、重要な生前対策として機能します。
早い段階から適切な遺言を準備し、国際的な観点からの財産管理を意識することが、家族への負担軽減とトラブル防止に大きく貢献します。
当事務所では、マレーシアを含む海外資産に関する相続及び生前対策について、実務的観点からの支援を行っております。具体的な検討に至っていない段階であっても、初期的な整理から対応可能ですので、ご関心のある方はご相談ください。
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