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日本:2026年12月施行―改正公益通報者保護法と企業の実務対応

2026年08月14日(金)

「2026年12月施行―改正公益通報者保護法と企業の実務対応」についてニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFからもご覧いただけます。
2026年12月施行―改正公益通報者保護法と企業の実務対応

202612月施行改正公益通報者保護法と企業の実務対応

2026年8月
One Asia Lawyers Group
栗田 哲郎
弁護士(シンガポール法(FPC)・日本法・アメリカNY州法)
永原 明
弁護士(日本)・公認会計士(留学中につきいずれも登録抹消中)

1 はじめに

2025年6月、公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号。以下「改正法」といいます。)が成立・公布され、2026年12月1日から施行されます。施行に先立ち、2026年3月には法定指針及びその解説が改正され、同年5月には消費者庁が改正内容を反映したQ&Aを公表しました。
改正法は、①事業者の公益通報対応体制の実効性向上、②公益通報者の範囲拡大、③公益通報を阻害する要因への対処、④公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化、という4つの柱から構成されています。本稿では、主な改正点を整理した上で、施行までに企業が確認すべき実務対応を解説します。

2 改正法の主なポイント

1 公益通報対応体制の整備・周知と行政措置の強化

事業者には、公益通報対応業務従事者の指定及び内部公益通報対応体制の整備が求められています。改正法は、体制整備義務の内容として、労働者等に対する公益通報対応体制の「周知」を法律上明示しました。窓口を設置するだけではなく、誰が、どの方法で、何を通報でき、通報後にどのような保護・対応が受けられるかを、対象者が実際に理解できる状態にすることが重視されています。
常時使用する労働者が301人以上の事業者については、従事者指定義務に違反した場合の勧告・命令・公表、立入検査及び命令違反等に対する罰則が新設されました。内部公益通報対応体制の整備義務に違反した場合も、助言・指導・勧告・報告徴収の対象となり、勧告に従わない場合には公表され得ます。なお、常時使用する労働者が300人以下の事業者について、従事者指定及び体制整備は引き続き努力義務とされていますが、中小企業でも、自社の規模・業態に応じた実効的な通報ルートを整えておくべきです。

2 公益通報者の範囲にフリーランスを追加

改正法は、公益通報者の範囲に、事業者から業務委託を受ける特定受託業務従事者(いわゆるフリーランス)及び業務委託関係が終了して1年以内の者を追加しました。これらの者が公益通報をしたことを理由として、その者に係る特定受託事業者に対し、業務委託契約の解除、取引数量の削減、取引停止、報酬減額その他の不利益な取扱いをすることが禁止されます。

3 通報妨害及び通報者探索の禁止

改正法は、事業者が正当な理由なく、公益通報をしない旨の合意を求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすると告げることその他の方法により公益通報を妨げることを禁止しました。これに違反してされた合意その他の法律行為は無効となります。また、正当な理由なく、通報者であることを明らかにするよう要求するなど、通報者を特定することを目的とする行為も禁止されます。
消費者庁の解説によると、「正当な理由」は限定的に解されます。例えば、匿名通報について、通報者が不正を認識した局面を特定しなければ必要な調査・是正ができない場合に、守秘義務を負う従事者(公益通報対応業務従事者)が必要な事項を尋ねることは正当化され得ます。他方、単に通報者が誰かを知ることを目的とする聞き取りや、関係者への不用意な照会は避ける必要があります。

4 解雇・懲戒に関する立証責任の転換と刑事罰

労働者が公益通報をした日から1年以内に解雇又は懲戒を受けた場合、その解雇又は懲戒は、公益通報を理由としてされたものと民事上推定されます。行政機関や報道機関等への外部通報について、事業者が通報の事実を後に知った場合には、事業者が知った日から1年以内が対象です。そのため、紛争時には、事業者側が通報とは無関係な客観的理由に基づく処分であることを説明・立証する必要があります。
さらに、公益通報を理由として労働者を解雇又は懲戒した行為者には、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が科され得ます。法人にも3,000万円以下の罰金が科され得るほか、処分を実質的に決定した者や関与者が処罰対象となる可能性があります。もっとも、刑事罰の対象は故意による違反に限られ、配置転換や人事上の減給等は、法律上禁止される不利益な取扱いとなり得るものの、この罰則の対象には含まれません。

3 施行までに企業が行うべき実務対応

1 通報対象者・周知先の棚卸し

社内規程や窓口案内の対象者に、現役の労働者・役員だけでなく、退職者、フリーランス及び業務委託終了後1年以内のフリーランスが含まれているかを確認する必要があります。改正後の指針は、窓口の連絡先・連絡方法に加えて、幹部からの独立性の確保、利益相反排除、不利益取扱い・範囲外共有・通報妨害・通報者探索の防止、是正措置等の通知、記録管理等に関する措置の内容、調査協力に関する事項等を周知事項として具体化しています。
フリーランスには、業務委託契約書、発注・登録時のメール又は日常的に閲覧するシステム等を通じて窓口を案内することが考えられます。退職・契約終了後も通報できる旨は、契約期間中又は終了時に案内し、終了後もアクセス可能な窓口を確保することが実務的です。

2 内部規程・契約書・誓約書の改定

内部通報規程には、通報妨害及び通報者探索の禁止を明記し、違反者に対する懲戒その他の措置を定めることが考えられます。また、秘密保持契約、業務委託契約、退職時の誓約書及び和解契約等に、法令上保護される通報まで一律に禁止すると読まれ得る条項がないかを点検し、必要に応じて、行政機関その他の適法な通報先への通報を妨げない旨を明確にすることが望まれます。

3 受付・調査時の情報管理と「探索」の線引き

通報者を特定させる情報へのアクセス権限を必要最小限に限定し、記録・資料の閲覧権限、共有先、保管方法及びアクセス権限の解除手続を定めることが重要です。調査担当者には、調査に必要な質問と通報者探索に当たり得る質問の違いを研修し、通報者の特定につながる照会を行う場合には、その必要性、実施者及び情報共有範囲を記録する運用が考えられます。

4 解雇・懲戒の意思決定プロセスの見直し

仮に、何らかの理由で通報後1年以内に通報者の解雇又は懲戒を検討する場合には、通報対応部門と人事・懲戒部門の情報分離に配慮しつつ、処分理由の客観的資料、同種事案との均衡、検討経緯及び決裁者を記録することが重要です。処分前に法務・コンプライアンス部門又は外部専門家が、通報との因果関係、手続の公正性及び証拠の十分性を確認する仕組みを設けることも有用です。

5 周知・研修と運用評価

周知は規程を掲載するだけで完了するものではありません。周知用の従業員向け研修、通報対応部門の従事者向けの守秘義務・受付・調査研修を分けて実施し、FAQや具体例を用いて理解度を確認することが望まれます。また、通報件数、是正の有無、対応概要、制度の周知度・信頼度等を定期的に評価し、窓口を含む運用全体を改善することが重要です。

4 施行前チェックリスト

  1. 窓口の利用対象に、退職者、フリーランス及び業務委託終了後1年以内の者を含めたか。
  2. 内部通報規程に、通報妨害・通報者探索の禁止及び違反時の措置を明記したか。
  3. 秘密保持契約、業務委託契約、退職時誓約書等が適法な公益通報を妨げる内容になっていないか。
  4. 従事者の指定を書面等で明確にし、守秘義務・利益相反・調査手法に関する研修を定期的に実施しているか。
  5. 窓口の連絡方法、保護措置、調査・是正の流れ等を、対象者に継続的かつ実効的に周知しているか。
  6. 通報者特定情報へのアクセス制限、記録保管及び権限解除のルールを整備したか。
  7. 制度の周知度・信頼度及び運用実績を定期的に評価し、改善につなげる体制を設けたか。

5 おわりに

今回の改正は、内部通報窓口の形式的な設置から、通報者が安心して利用できる制度の実効的な運用へと、企業に求める水準を引き上げるものです。とりわけ、フリーランスへの対象拡大、通報妨害・通報者探索の明文禁止、解雇・懲戒に関する推定規定及び刑事罰は、内部通報部門だけでなく、人事、法務、調達、情報システム及び経営陣を含む横断的な対応を必要とします。施行日までに、規程・契約・窓口・研修・人事手続を一体として点検することが重要です。

当事務所では、内部通報制度の構築・見直しに加え、アジア各国・多言語に対応したグローバル内部通報窓口(GWS)も提供しております。改正法への対応や、国内外を通じた実効的な内部通報体制の構築・運用について、ぜひご相談ください。