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日本:コーポレートガバナンス・コードの改訂の概要とポイント

2026年09月09日(水)

「コーポレートガバナンス・コードの改訂の概要とポイント」についてニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFからもご覧いただけます。
コーポレートガバナンス・コードの改訂の概要とポイント

コーポレートガバナンス・コードの改訂の概要とポイント

2026年9月吉日
One Asia Lawyers 東京オフィス

2026年7月21日、金融庁及び株式会社東京証券取引所は、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」といいます。)の改訂版(以下「改訂版コード」といいます。)を公表しました。2021年6月の前回改訂以来、約5年ぶりの改訂となります。
今般の改訂は、形式的な対応にとどまらない実効的なコーポレートガバナンスの実現を促す観点から行われたものであり、CGコードの構造そのものに及ぶ内容となっています。
上場会社は、遅くとも2027年7月末日までに、改訂版コードに関する事項について記載したコーポレートガバナンス報告書(以下「ガバナンス報告書」といいます。)を提出する必要があります。
本ニュースレターでは、第1において本改訂の概要を説明の上、第2において主要なポイントを取り扱い、第3において実務対応上の留意点を整理します。

第1 本改訂の概要

CGコードが2015年に適用開始されて以来、コーポレートガバナンス改革には一定の進捗が見られました。もっとも、その一方で、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するためには、CGコードの形式的な対応にとどまることなく、企業と投資家の双方の取組みによるコーポレートガバナンス改革の実質化が重要であると指摘されてきました。今般の改訂の狙いは、こうした問題意識の下、プリンシプルベース・アプローチ及びコンプライ・オア・エクスプレインの手法を採用するCGコードの趣旨に立ち返り、CGコード自体の実質化を図る点にあります。
金融庁及び東京証券取引所が同日に公表した「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(以下「改訂趣旨説明」といいます。)においても、今般の改訂が、コード策定時のプリンシプルベースの精神に立ち返るための、いわば「コードの実質化」を狙いとするものであると説明されています。
今般の改訂の内容は、①CGコードの構造の改訂と、②各原則の内容の改訂とに分けて整理することができます。

1 構造の改訂
改訂前のCGコードは、基本原則・原則・補充原則という三層構造を採用し、そのいずれもが「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象とされていました。改訂版コードでは、補充原則が廃止され、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則の内容が概念的かつ抽象的なものに限定される一方(「プリンシプル化」・「スリム化」)、全ての基本原則及び一部の原則について、各原則への対応を支援するための具体的な内容や趣旨・背景を記載した「解釈指針」が新設されました。
また、コードの趣旨・精神を再周知する観点から序文が新設され、①CGコードが市場における中長期の投資を促す効果をもたらすことをも期待していること、②原則をコンプライする場合・しない場合のいずれであっても、その理由を丁寧に説明することが投資家との建設的な対話に資すると考えられることが明記されました。

2 内容の改訂
各原則の内容についても、成長投資の促進、取締役会の機能強化及び有価証券報告書の定時株主総会前の開示を中心に改訂が行われました。主な改訂内容を整理すると、以下のとおりです。

コーポレートガバナンス・コードの改訂(2026年)の概要

成長投資の促進

取締役会の機能強化

有価証券報告書の総会前開示

成長の道筋の構築(原則4-1)
▶ 取締役会の主要な役割・責務である戦略的な方向付けの例示として、「それに向けた成長の道筋を構築するなど」との文言を追記
経営資源の配分の説明(原則4-1)
▶ 成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等に関し、具体的に何を実行するのかを説明すべきことを強調
不断の検証(原則4-2)
▶ 経営資源の配分が、経営戦略・経営計画に照らし適切なものとなっているかを不断に検証すべき旨を追記
▶ 現預金等の金融資産や実物資産等を成長投資等に有効活用できているかを解釈指針に例示

独立社外取締役(原則4-8~原則4-12
▶ 果たすべき役割・責務、質・数の確保、独立性の確保の重要性を、原則及び解釈指針で強調
▶ 「経営の監督を行うこと」を独立社外取締役の役割・責務の筆頭に位置付け
審議の活性化(原則4-14
▶ 議長や独立社外取締役を含めた取締役を支援する事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化を推進すべき旨を解釈指針に追記

原則への追記(原則1-2)
▶ 有価証券報告書を株主総会開催日前に提出することを、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として原則に追記
望ましい提出時期(解釈指針)
▶ 株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましい
▶ 株主総会開催日や議決権行使に係る基準日を従前の慣行に基づく時期から後ろ倒しすることも含めて検討
並行して進む制度的検討
▶ 有価証券報告書と事業報告等の一本化、会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の一元化、有価証券報告書の記載事項の整理

第2 本改訂の主なポイント

1 「プリンシプル化・スリム化」と「解釈指針」の新設
改訂版コードでは、上場会社が特に注力すべき点が明確になるよう、従前の補充原則が再整理され、ガバナンスの中核となる箇所は原則に格上げされる一方、コード内の他の箇所又は法令等との重複がある箇所等は削除されました。
これに伴い、全ての基本原則及び一部の原則について「解釈指針」が新設されました。解釈指針は、コンプライ・オア・エクスプレインの対象ではないものの、各原則についての実質的な対応を支援する役割を担うものであり、当該原則の背景となる考え方や目的のほか、当該原則を履行するための最良の手法(いわゆるベストプラクティス)や優れた手法(いわゆるグッドプラクティス)の一つと考えられる方策も含まれるとされています。

改訂前

改訂後

基本原則・原則・補充原則の三層構造
▶ 補充原則を含め、その全てがコンプライ・オア・エクスプレインの対象
▶ 具体的な手法や例示も、原則・補充原則の本文に規定
▶ 各基本原則に「考え方」を付記

基本原則・原則の二層構造(補充原則は廃止)
▶ コンプライ・オア・エクスプレインの対象は基本原則・原則に限定
▶ 具体的な内容や趣旨・背景は「解釈指針」に記載(コンプライ・オア・エクスプレインの対象外)
▶ 「考え方」は「解釈指針」に統合

2 成長投資の促進(経営資源の配分)
今般の改訂の中心的なテーマは、成長投資をはじめとする経営資源の適切な配分です。
まず、原則4-1は、取締役会が「会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、それに向けた成長の道筋を構築するなど、戦略的な方向付けを行うこと」を主要な役割・責務の一つと捉えるべき旨を定めており、今般の改訂により、戦略的な方向付けの例示として「それに向けた成長の道筋を構築する」ことが追記されました。成長の道筋の構築それ自体が独立の義務として求められているものではありませんが、その解釈指針では、取締役会が、競争優位性を含む自社の強みや多様なステークホルダーについての考慮を踏まえた成長の道筋を構築し、提示する役割・責務を負うとされています。その上で、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、成長の実現を目指し、自社の資本コストを踏まえて収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて説明を行うべきものとされています。
また、原則4-2において、取締役会は、自社の経営資源の配分が、成長の実現を目指して策定・公表した経営戦略や経営計画に照らし適切なものとなっているかについて、不断に検証を行うべきものとされました。その解釈指針では、検証すべき事項の例として、現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているかが挙げられています。
この点、改訂趣旨説明では、現預金を含めたこれらの資産を保有することは常に否定されるべきものではなく、会社が保有の必要性・合理性を説明できる限りにおいて、適正な水準の現預金等を保有することも経営資源の配分の一環として考えられる旨が明記されています。
なお、解釈指針では、投資先を検討するに当たっての観点として、①投資対象を自社の内部に求めるのか(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)、外部に求めるのか(M&A・業務提携・スタートアップ出資への投資等)、②短期か中長期か、③国内投資(地方への人的投資・地方拠点の整備等)か国外投資かといった多様な投資機会があることを十分に認識すべき旨が示されています。また、改訂趣旨説明では、経営資源の配分の説明方法の例として、キャピタルアロケーションの開示が挙げられています。

3 取締役会の機能強化
独立社外取締役については、その実効性の向上に向け、果たすべき役割・責務、質の確保、数の確保、独立性の確保及び機能発揮が、それぞれ独立した原則として整理されました(原則4-8から原則4-12まで)。
① 原則4-8では、独立社外取締役に期待される役割・責務として、「経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと」が筆頭に掲げられ、経営の監督が主たる役割・責務であることが明確化されました。
② 原則4-9では、独立社外取締役の「質」の確保が求められ、その解釈指針において、取締役会が、適切な人物を独立社外取締役として選任するために必要な識見・能力等の資質に関する基準を策定することも考えられる旨が示されています。
③ 原則4-10では、独立社外取締役の「数」について、プライム市場上場会社は少なくとも3分の1以上(その他の市場の上場会社においては2名以上)という従前の水準が維持されるとともに、支配株主を有するプライム市場上場会社は、支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも過半数(その他の市場の上場会社においては3分の1以上)選任すべきものとされています。

もっとも、改訂趣旨説明では、いずれはグローバルに活躍するプライム市場上場企業について過半数の独立社外取締役が選任されるべきとの指摘があることが紹介されており、パブリックコメントにおいても同旨の意見が寄せられています。今後の議論の動向に留意が必要です。
④ 原則4-11では、取締役会が、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきものとされています。
⑤ 原則4-12では、独立社外取締役が、他の独立社外取締役との間で独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図るとともに、経営陣との連絡・調整や監査役又は監査役会との連携に係る体制整備を図るべきものとされています。
次に、取締役会の審議の活性化に関し、原則4-14の解釈指針において、取締役会を支える部署であるいわゆる取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化等の取組みを推進することが重要である旨が追記されました。取締役会事務局には、会議運営を行う単なる事務方としての役割にとどまらず、取締役会やその傘下の各委員会が実効性ある議論の場となるよう、適切な審議事項を定めるなど、その運営を能動的に行うことが望ましいとされています。あわせて、原則4-14では、上場会社が、取締役会を支える部署等の人員面を含む取締役・監査役の支援体制を整えるべきことも明記されました。

4 有価証券報告書の定時株主総会前の開示
原則1-2において、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として、「有価証券報告書を株主総会開催日前に提出する」ことが明記されました。
その解釈指針では、有価証券報告書には役員報酬や政策保有株式等のガバナンス情報等、投資家がその意思を決定するに当たって有用かつ信頼性の高い情報が豊富に含まれていることから、本来、株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいと考えられるとされ、そのために、株主総会開催日や議決権行使に係る基準日を従前の慣行に基づく時期から後ろ倒しすることも含めて検討することが挙げられています。
もっとも、改訂趣旨説明では、金融庁自身が、企業負担も考慮し、現行法制下で一般化している実務運用からすると株主総会開催日の3週間以上前の開示は必ずしも容易ではないとの認識を示した上で、法務省とも連携しつつ、法制審議会において議論されている有価証券報告書と事業報告等の一本化・会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の一元化や、有価証券報告書の記載事項の整理といった制度的な検討も並行して進めるとされています。当面は、自社の決算・監査のスケジュールを踏まえ、対応可能な範囲から検討を進めることになると考えられます。

第3 実務対応上の留意点

上場会社は、遅くとも2027年7月末日までに、改訂版コードに関する事項について記載したガバナンス報告書を提出する必要があります。改訂版コードに対応したガバナンス報告書の記載要領は既に公表されており、今回の改訂に伴うフォーマットの大幅な見直しは予定されていないとされています。
また、改訂版コードにおいては、ある原則について単にコンプライとするのではなく、具体的な取組みの内容等を示すことによりコンプライとする理由について説明を行うことも建設的な対話に資する取組みとして望ましい旨を明記しています。他方、エクスプレインを選択する場合には、当該原則の趣旨・精神に照らして工夫し丁寧に説明すべきであり、「ひな型」的な表現により表層的な説明に終始することはコンプライ・オア・エクスプレインの趣旨に反するとされています。
解釈指針で示された内容を必ずしも全て実施することまでは求められないものの、各原則の内容に加え、解釈指針において示された内容も踏まえて各原則の趣旨・精神を解釈し、自社が置かれた状況を踏まえて、当該趣旨・精神に沿ったコンプライ又はエクスプレインの選択その他の対応を行う必要があります(東京証券取引所・金融庁「上場会社の担当者の皆様へ」)。
なお、グロース市場上場会社については、引き続き基本原則のみがコンプライ・オア・エクスプレインの対象とされています。

第4 まとめ

今般の改訂は、原則の記載を簡潔にする一方で、成長投資をはじめとする経営資源の配分について、取締役会が「何を実行するのか」を具体的に説明することを求めるものであり、形式的な対応から実質的な対応への転換を促すものといえます。
上場会社においては、2027年7月末日という期限を見据え、①成長投資をはじめとする経営資源の配分について「何を実行するのか」の説明の充実、②独立社外取締役の質・数・独立性をはじめとする取締役会の実効性の点検、③有価証券報告書の総会前提出の可否を含む株主総会関連日程の検討、④解釈指針も踏まえたガバナンス報告書の記載の見直し、という4点を中心に、早期に準備を進めることが望まれます。

【参考資料】
金融庁「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」(2026年7月21日)
https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721.html
株式会社日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)の公表について」(2026年7月21日)
https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/1020/20260721-01.html
金融庁・東京証券取引所「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(2026年7月21日)
https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721/03.pdf
株式会社東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領等
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/01.html