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タイにおける直接販売・ダイレクトマーケティング法改正について

2018年05月01日(火)

タイにおける直接販売・ダイレクトマーケティング法改正の概要についてご報告致します。
→タイにおける直接販売・ダイレクトマーケティング法改正の概要

 

直接販売・ダイレクトマーケティング法改正の概要

2018年5月1日
One Asia Lawyers タイ事務所

 タイでは2017年9月より、直接販売・ダイレクトマーケティングに関するライセンス発給が停止されています。発給停止は同年5月の直接販売・ダイレクトマーケティング法の改正を原因とするもので、後日通達等で規定するとされる点が多く、現時点で新法に基づき運用が行われていない状態です。今回はこの改正の内容について、整理致します。

(1) 直接販売とは

 まず、前提として、直接販売・ダイレクトマーケティング法では直接販売を「消費者又はその他の者の住所、勤務地において、或いは通帳の商業事業地でないその他の場所において、直接販売代理人又は単層或いは復層の独立販売人を通じて、商品マーケティング又は直接的に消費者に販売提示する形態のサービスを意味する(第3条)と定義しています。

 事業が本法上の「直接販売(カーイトロン)」とみなされると、直接販売・ダイレクトマーケティング委員会での登録が必要となり、事業スキームの届け出や最低購入要件の設定禁止等、厳格な制限を受けます。

(2) ダイレクトマーケティングとは

 他方、ダイレクトマーケティング(タラード・ベーブ・トロン)は、「遠隔地にいる消費者に商品又は商品販売勧誘のためのデータ通信によるサービス、あるいは直接的なサービスを提供し、各消費者がそのダイレクトマーケティング事業者から商品・サービスを購入するために返答してくることを期待すること(第3条)」と定義されています。

 インターネット等を利用して商品を対象客に直接マーケティングする行為はダイレクトマーケティングの規制対象になり、事業者登録が必要になります。ただし、直接販売と比較して規制は緩やかな内容となっております。

(3) 改正の概要

 2017年9月の改正は、消費者保護を拡充、強化するための直接販売・ダイレクトマーケティング委員会(以下、「委員会」といいます)への保証金の支払、報告など、直接販売・ダイレクトマーケティング事業者(以下、「事業者」といいます)の規制を強化することが主な目的で、主要なポイントは次の通りです。

1.「直接販売業者」として登録できるのは法人のみ。個人は「ダイレクトマーケティング事業者」のみ(第3条、第38/1条)
2.事業者登録可能な法人、取締役、保証金等の要件の明確化(第38/2条、第38/3条、第38/5条)
3.事業内容、運営状況等の定期報告義務の明確化(第26/1条、第26/2条)
4.売買契約書作成義務の追加、消費者に対する契約に関する説明義務の明確化(第30条)
5.独立販売業者を通して行う販売について、事業者と独立販売業者が連帯責任を負うことの明確化(第24/1条)
6.罰則の強化

(4)  「ダイレクト・マーケティング」の定義の改正
 本法において「ダイレクト・マーケティング」とは、「遠距離にある消費者に商品・サービスを直接販売することを目的として情報伝達することで商品・サービスを販売し、消費者一人一人が回答し、当該商品やサービスを直接販売事業者から購入することを目的とする行為」と定義されていますが、今回の改正で電子商取引による商品・サービスの販売は原則として「ダイレクト・マーケティング」に該当すると明記されています。但し、例外規定が後日発表される予定になっており、今後の動向を注視する必要があります。

(5) 直接販売・直販マーケティング登録要件の改正

 直接販売事業を法人に制限することを意図して、「パートナーシップ」と「会社」という2つの定義が導入されています(第3条)。この定義はともに民商法典と同じですが、直接販売の申請を行う法人は、パートナーシップの場合は最低資本金50万バーツ、株式会社及び公開有限責任会社の場合は同100万バーツ以上という規定が追加されています(第38/1条)。

 今回の改正で直接販売・ダイレクトマーケティング事業登録にあたり下記の共通要件が新しく導入されています。

 ・直接販売・ダイレクトマーケティング事業登録する法人は、申請日前5年以内に当該事業の登録取り消し歴があってはならない(第38/1条)。

 ・取締役、支配人、代表者、若しくは会社を管理する権限を有する者(以下、「代表者」といいます)は、次に掲げる項目に該当してはならない(第38/2条)

  ア 破産者
  イ 後見人又は補助人の宣告を受けた者
  ウ 過失による罪又は軽罪を除く終局判決により収監された者
  エ 既登録者
  オ 申請日前5年以内に登録を取り消された者

 ・個人においては、申請日前5年以内に直販登録取り消し歴がなく、かつ上記欠格事由のいずれにも該当しない(第38/3条)。
 ・登録人は、後日定められる省令に従い保証金を納付する。金額は事業の規模や業態で異なり、保証金の振込口座は委員会が設定し、事業の譲渡又は廃止後に関連する罰金などがなければ、保証金は返還される(第38/5条)。

(6) 委員会への報告及び通知義務の追加

 事業者には次のような報告・通知義務が課されます。

 ・所定の様式による登記官への定期的な報告書の提出(第26/2条)。
 ・事業所を移転した日から15日以内の登録官への通知(第26/1条)。
 ・事業を譲渡又は停止する場合は、新聞により通知し、かつ登録官の承認が必要となる。郵便又は他の通信手段を通じて消費者に通知しなければならない(第33条、34条、36条)。事業譲渡又は停止が行われる段階で、商品又はサービスの保証期間が残存してれば、修理など商品やその他のサービスの提供責任者を選任する義務を負う(第41/4条)。

(7) 消費者保護の強化

 事業者には新しく次の義務が課されます。

 ・事業者および独立販売業者は、商品・サービスの欠陥、又は独立販売業者の過失を起因とする損害について連帯して責任を負う(第24/1条)
 ・事業者は、商品・サービスの売買契約を作成し、購入品・サービスとともに消費者に提供する。直接販売の場合、事業者が独立販売業者に渡したものを独立販売業者が消費者に提供する(第30条)。
 ・事業者及び独立販売業者が作成する売買契約は、タイ語で容易に理解できるものとし、少なくとも次の事項を含まなければならない。

   ○買主・売主の氏名
   ○売買日
   ○引渡日
   ○消費者の契約解除権(解除権は、他の一般情報より明確に示すこと(第30条))
 ・事業者又は独立販売業者が売買契約書を消費者に提供しない場合、当該取引に拘束力は生じない(第32条)。

(8) 罰則規定の追加

 次の罰則が新たに盛り込まれています。

 ・重大でない違反に対しては、登録取り消し判断前に是正命令が出される(重大な違反に対しては、通常、即時に登録が取り消される)。
 ・違反には、
  -消費者に対して独立販売業者と連帯して責任を負わなかった、
  -事務所移転通知を行わなかった、
  -登録官に報告書を提出しなかった、等と規定されております。

 次の違反行為等については、罰金や禁固を含む刑事責任が生じる場合があり、法人の代表者も刑事罰の対象となりますので、留意が必要です。
  -無登録で直接販売・ダイレクトマーケティング業務を行っている場合
  -独立販売業者又は直販販売代理人の直販事業参加にあたり、会費、研修料、販売促進料その他の料金を徴収した場合
  -虚偽記載のある商品又は役務の売買に関する書類を提供した場合

以 上