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カンボジア労働法アップデートについて

2018年12月20日(木)

カンボジア労働法分野の法令変更について報告いたします。

→労働法分野法令変更について

 

カンボジア労働法アップデート

2018 年 12 月 20 日
One Asia Lawyers カンボジア事務所

1 概要

 本年、労働法分野の法令変更として、①年功補償の導入、②賃金等の各月 2 回支給の義務付け、③最低賃金法の制定があった。これらは、本年 7 月 29 日にあった 5 年に一度の下院選挙を強く意識したものと考えられ、いずれも基本的に労働者の利益に沿うものである。

2 年功補償の導入

 年功補償は,本年 6 月 28 日付けの労働法改正により,解雇補償に代わって導入された(8 月 15 日付けニューズレター参照)。更に、9 月 21 日付けの労度職業訓練省(MLVT)省令(Prakas)443 号により、その詳細が定められた。年功補償の概要は以下である。
 ① 使用者に対し、労働者の雇用継続 1 年につき、15 日分の賃金等相当額の支給を義務付ける。算定基準額には、賃金以外の諸手当を含む。
 ② 年功補償の支給対象は,無期雇用契約のみ(有期雇用契約は、本改正前と同じく、期間満了時に退職金の支給義務がある)。
 ③ 2019 年以降,各年 2 回,6 月と 12 月に支給(各 7.5 日分)する。
 ④ 2018 年以前の雇用に対して支給義務あり(遡及支給、156 日相当額を上限)。遡及支給の算定基準額は、対象となる過去の雇用期間の基礎賃金額(諸手当を含まない)。
  支給は③と同じく各年 6 月と 12 月(縫製産業は各 15 日分、縫製産業以外は 7.5 日分)。
 ⑤ 自主退職の場合、以降の遡及支給の必要はない。解雇の場合は明文規定がないが、解雇時の残額を支給する義務があると考えられる。
 使用者にとって大きなコストアップとなるものであり、特に③遡及支給は法治国家の常識に反する法令であるため各国関係団体が強く抗議をしている。既に制定・発行している法令であるが、導入の延期などの検討もなされているとのことであり、経過を観察する必要がある。

3 賃金等の各月 2 回支給の義務付け

 従前、賃金等の支給については、作業員(主として肉体労働に従事する者)とその他の従業員で規制に相違があり、作業員の賃金は、少なくとも月に二度(最大で 16 日の間隔)、その他の従業員は少なくとも月に一度 (労働法 116 条 1 項、2 項)の支給を要するというものであった。
 上記の省令 443 号と同日の本年 6 月 28 日に公布された MLVT Prakas442 号は、この規定を前提に、規制を上乗せするものであるが、概要は、下記の通りである。
 ① 2019 年以降、全従業員に対して、各月 2 回の賃金等の支給を義務付ける。
 ② 支給日は、各月 2 週目と 4 週目とする。
 ③ 第 1 回の支払いは,月額賃金の基礎賃金額の半額。
 第 2 回の支払いは,月額賃金の基礎賃金額の残額と,諸手当等の合計額。当月の賃金等を当月に支払うことまで要求するものであるのか(文言上は記載がない)、同意により例外が認められる場合があるのかなどが必ずしも明らかでなく、当局による今後の運用等を注視する必要がある。

4 最低賃金法の制定

 最低賃金の規定は、本法制定前も、労働法に規定が存在した(104 条~112 条)。本年7 月 9 日に、従来の労働法規定に代わるものとして、最低賃金法が公布され、即日発効した。本法は、最低賃金に関する調査・審議機関の設置、最低賃金の決定方法・決定基準などについて、旧法規定よりも詳細を定めるものである(全 30 条)。
 なお、旧法規定および最低賃金法のいずれも、具体的な金額は、MLVT の Prakas により定めるものとされている。従来、この Prakas は縫製産業のみを対象とする形で発令されてきた。本法は各年 1 回の Prakas 発布を定めており、同法制定後、2019 年を対象とした Prakas が発布されたが、やはり縫製産業のみを対象としたものである(最低賃金額は182US ドル)。本法令の制定を契機として、縫製産業以外の産業を対象とした Prakas が発令されることも想定されるが、その実施は 2020 年以降になると考えられる。