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海外インフラプロジェクトの法的留意点について -アジア新興国編-

2020年07月24日(金)

海外インフラプロジェクトの法的留意点(アジア新興国編)について記事をアップデート致します。

アジア新興国編

 

 

海外インフラプロジェクトの法的留意点について 

アジア新興国編

 

2020 年7月24日

One Asia Lawyers

藪本 雄登

  • 1. 執筆の背景
  • 2020年7月7日、国土交通省より「国土交通省インフラシステム海外展開行動計画2020[1](以下、「行動計画」)といいます。」が発表されている。行動計画によれは、新興国を中心とした世界のインフラ需要は膨大で、急速な経済成長と都市化を背景にさらなるインフラ需要の拡大が予想されており、日本国はその需要を取り込む必要がある。今後、アジアおよびアフリカ地域を中心として、日本国が新たな受注を目指す注力すべき80プロジェクトが、「今後3年〜4年間に注視すべき主要プロジェクト(行動計画より抜粋)」に次の通り、示されている。※図はPDF本文をご確認ください

行動計画記載の通り、筆者としては、「日本の持続的な経済成長」「相手国の経済発展と社会的な課題解決への協力」「地球規模の課題解決への貢献」という3つの意義に共感し、日本のインフラ技術やノウハウ輸出が、将来に向けた外貨獲得の有効かつ重要な手段、手法であるということを前提に、著者の10年間に渡るアジア新興国における海外インフラプロジェクトの経験を基礎に、その主要な法的論点や問題点について解説する。

なお、著者が新興アジアにおいて、過去ODAプロジェクト等に関わってきた経験やアジアインフラ投資銀行や中国の一帯一路の影響を踏まえると、新興国を中心としたハード面でのインフラ開発、支援は質量の観点から限界を迎えていると感じる側面もある。ハード面のみならず、IOT、AI、5G、スマートシティ等のソフト面も含めた日本の先端技術を活用した高付加価値、かつ、複合的なインフラパッケージ輸出のため、今後、各国のPPP法、スマートシティ関連規制、データ規制、その他航空法、電力関連法令、港湾関連法令等についても紹介していく予定である。

  • 2. オフショアからのインフラプロジェクトの実施の可否

1)オフショアモデルを巡る法的規制

まず、日本から国外にサービスを提供する際、①現地に拠点を設置しないオフショアモデル、②現地に拠点を設置するオンショアモデルが存在している。

<オフショアモデルとオンショアモデル>

※図はPDF本文をご確認ください

新興アジアでのプロジェクトにおいては、日系商社、建設会社、エンジニアリング会社やロジスティクス会社等からは、プロジェクト実施国において現地法人や支店等を設立せずに、サービス提供を行うことが実現可能か、という相談を最初に必ず受ける。特に、カンボジア、ラオス等のアジア新興国でのプロジェクトに関しては、今後、対象国において、継続的な案件が存在するか予見できないため、オフショアモデルでサービス提供ができないかが問題となる。その背景としては、日系商社や建設会社等は、過去多様な国、地域で現地法人等を設立し、プロジェクトを遂行してきた経緯があるが、その運営維持にかかるコストや清算コスト等が多額になる傾向があり、コスト削減の観点からオンショアモデルを避けて、プロジェクトを実施したいという事情がある。

 

他方、過去カンボジアやミャンマーにおいては、無償資金協力[2]によるプロジェクトが多数実施されてきた。その無償性から、プロジェクト実施する企業体は、コンプライアンスに関するリスクをあまり考慮してこなかった傾向がある。つまり、対象国の政府は無償で恩恵に与れることから、そのプロジェクトを実施する企業をコンプライアンス違反等で摘発するインセンティブが生じなかった。しかしながら、最近では、アジア新興国においても有償資金協力[3]や官民連携(いわゆる「PPP」)によるプロジェクト実施が主流となってきており、プロジェクト実施国の当局から企業体のコンプライアンス遵守状況等が適切にチェックされるようになってきている。上記のような事情から、コストとコンプライアンス上のリスクを総合的に勘案した上で、オフショアモデルでのプロジェクト実現可否を検討する必要がある。

 

この点、オフショアモデルでのプロジェクト実施については、プロジェクト実施国での商行為に関する規制が問題となる。基本的に、プロジェクト実施国において、商行為を行っていると見做される場合、支店や現地法人等の企業登録や税務登録が義務付けられる国がほとんどであるが、一般的に、プロジェクト実施国において、商行為を行っていると見做される法律上の基準や運用上の程度感については、対象国において様々である。

 

例えば、カンボジアについては、カンボジア会社法第272条において、外国企業がカンボジアにおいて、次に掲げる業務を行なう場合、当該企業は、商行為を行っていると見做されると規定されている。具体的には、①1か月以上、製造、加工または役務提供のために事務所、またはその他の場所を賃借する場合、② 1か月以上、自己のために他人を雇用する場合、③カンボジア王国の法律によって外国人または外国法人に認められた業務を行う場合、と規定されており、会社法第272条違反による行政罰を示す規定も存在している。また、同様にミャンマーでも会社法において、30日以上、継続される取引については、ミャンマー国内での商行為を行っていると見做され、法人登記が求められる可能性がある。ラオスの場合、会社法には明確な規定はないが、2019年1月に発行された「企業登録に関する合意(No.0023)」の中では、「ビジネスを始めること (Starting a business)」を「ラオス国内において場所を借りる、労働者を雇用する、建設許可や輸出入の許可取得等の活動を始めること」と定義している。

 

他方、下表の通り、タイ、ベトナム等では、法律上、明確な商行為の判断基準が定められていないため、当局の担当者への照会や過去の摘発事例を調査する必要がある。実務的に、オフショアのサービス提供に関する摘発事例は、当局が補足することが困難な側面もあり、メコン地域においては、限定的であると考える。

<メコン地域における商行為に関する規制一覧>

※一覧はPDF本文をご確認ください

また、商行為に関する規制のみならず、建設事業者や物流事業者に関する規制の違反行為については、行政罰のみならず、禁固等の罰則規制が存在しているため、各国における特定の業法について、個別具体的に確認する必要もある。

 

なお、一定のプロジェクトにおいては、法人登録や企業登録を行わずとも、プロジェクトの実施を認めるような特例が存在しているケースもある。例えば、ラオスにおいては、鉱山開発や水力発電プロジェクトについては、例外的に、非居住法人のプロジェクトの実施を認めるような規制が存在している。また、新興アジアにおいて、交渉によっては、当局が比較的、柔軟な対応を取ることもあり、公共インフラ整備、雇用創出、外貨準備率の改善等のプロジェクトの意義やプロジェクト実施国へのメリットを十分に説明できる場合、当局による特例措置を取得することにより、企業登録を行わずとも、例外的にプロジェクト実施が可能となるようなケースも存在している。

 

2)オフショアモデルに関する税務上の留意点

 上記で述べた商行為に関する問題が解決したとしても、税務上のリスクの検討を十分に行う必要がある。例えば、カンボジアの場合、海外からサービス提供者への支払いに対する法人税の源泉徴収課税は、14%という高額の税率が設定されており、サービス受領者側で総サービス費用の14%分控除した上で、サービス提供者に報酬が支払われることになる。この源泉徴収課税制度を十分に考慮せず、契約やサービス提供が進んでしまうケースが頻発しており、オフショアからのサービス提供者とサービス受領者との間で、この源泉徴収税の負担を巡って、紛争化するケースがある。その他、ラオスの場合は、ラオス国内でのサービス受領者は、3%(みなし利益率15%)の源泉徴収課税を納付する必要があり、カンボジアと比較すると、税額は低廉ではあるが、オフショアからサービスを提供する場合については、このような源泉徴収税に関する税務リスクについて十分に検討、留意した上で、予めその処理方法や負担について契約書上、明示することが推奨される。なお、関連してPermanent Establishmentに関する問題(いわゆる「PE課税の問題」)にも留意する必要がある。紙面の関係上、詳細は割愛するが、例えば、タイにおいては、実際に税務当局によってPE課税の指摘を受けている事例が存在している。

 

3. オンショアでのインフラプロジェクト実施の留意点

 上記のようなオフショアからサービスを提供する場合のリスクを踏まえると、コンプライアンス上の観点から現地に拠点を持つオンショアでサービス提供を行うという判断となる企業も多い。オンショアの場合、プロジェクト実施国内において様々な規制を受けることになる。例えば、建設事業や物流事業等を行う場合、外国企業の出資持分の上限や最低資本金額が設定されている場合が多いので、十分な調査と検討が必要となる。例えば、ラオスでは、建設事業者に対して、以下のような外資規制や最低資本金規制等が設定されており、外国企業にとっては、相当ハードルが高い状態となっている。

<ラオスにおける建設業に関する規制一覧表>

※表はPDF本文をご確認ください

他方、カンボジアでは、建設事業者について外資規制や資本金規制等は存在しないが、許認可取得の際に、カンボジア国内のエンジニア資格を有する専門家の雇用や建設設備の一定以上の配備などが求められている等、外国企業の参入や事業展開を妨げる所々の規制や運用が存在しており、留意が必要である。

 

4. ビザ、就労規制

続いて、外国人のビザおよび就労規制について述べる。日本からインフラプロジェクト実施国に対してサービスを提供する際、現地に拠点を持たないオフショアモデルの場合、外国人専門家を派遣するためにはどのような要件を満たす必要があるかが問題となる。

下表の通り、カンボジアにおいては、現地に支店や現地法人等がないとワークパーミットが取得できない仕組みとなっており、オフショアからのサービス提供となると不法就労リスクが生じる仕組みとなっている。運用上、当局の調査や取締が厳格ではないとはいえ、現地のパートナーやサブコントラクター等との関係が悪化した際に、不法就労リスクが顕在化するようなケースもある。対応策として、現地パートナー企業に出向する形式を取り、現地パートナー企業からワークパーミットの発行を受ける等で対応しているケースが散見される。他方、タイやラオスにおいては、一時出張者向けの例外措置があり、そのような制度を活用して、外国人専門家を一時的に派遣するようなアレンジを取ることも一案である(但し、ラオスでは、そのような制度があるものの、実務的にはほとんど利用されていない状態である。)。

<カンボジア、ラオスの出張者用ビザとワークパーミット規制について>

※表はPDF本文をご確認ください

 

5. 付加価値税を巡る問題

過去、新興アジアでのインフラプロジェクトにおいて、致命的な問題となったのは、建設等のプロジェクトにおける付加価値税を巡る問題がある。アジア新興国でのODAプロジェクトや経済特区内でのプロジェクトについては、公共インフラ整備促進や投資誘致促進策の一環として、建設等のサービス費用については、付加価値税が免除されているケースがある。しかしながら、この恩典により新興アジアでは、共通して生じる問題がある。具体的には、当該付加価値税の税制恩典が発注者とゼネラルコンストラクター(いわゆる、「ゼネコン」)との関係でしか適用されず、一次下請業者(サブコントラクター、いわゆる「サブコン」)、二次下請業者(いわゆる、「サブサブコン」)以降には適用されないケースがあり、サブコン-サブサブコン間での付加価値税の負担について紛争化するケースが存在している。

 

次の図表の通り、対象となるプロジェクトに関して、発注者とゼネコンとの間の取引については、付加価値税が免除されることになるが、当該プロジェクトに関わるゼネコン-サブコン間やサブコン-サブサブコン間での取引についても免税措置が適用されていると誤認し、全当事者間の間で、全ての取引について付加価値税が免除されると勘違いしているケースがある。そのような状態において、サブサブコン等に対して税務監査が入った際に、同プロジェクトのサブコン-サブサブコン間の建設サービスについて、付加価値税の納付が求められるケースが存在している。例えば、カンボジア、ラオスの付加価値税は10%であるが、税務調査の結果、サブサブコンに10%の納付義務が課せられたとする。その負担をサブコンに求める場合、建設プロジェクトの費用が多額となる傾向にあり、サブコンがその費用負担に耐えきれないケースが多く、付加価値税の支払いをゼネコンに求めるような事例が存在している。当然ながら、ゼネコンは発注者から付加価値税を受け取っておらず、付加価値税の控除もできず、また新興アジアにおいては、付加価値税の還付制度も十分に機能していないことが多く、10%の付加価値税が単純コストになってしまい、プロジェクト収支に大きな影響を与えたようなケースがあった。

<建設プロジェクト等に関する付加価値税を巡る問題>

※図はPDF本文をご確認ください

本問題の対応策としては、2つの方法が取られている。1つ目は、ゼネコン-サブコン間、サブコン-サブサブコン間での取引において、付加価値税が免税とならない場合において、発注者に付加価値税の免税恩典を放棄してもらい、発注者からゼネコンが付加価値税を受け取り、各当事者が適切に付加価値税を納付するスキームを取ったケースがある。また、2つ目は、建設プロジェクト全体について、当局との交渉により、サブコンやサブサブコン間の取引まで付加価値税免税恩典の射程が含まれるように、税務署やプロジェクトを管轄する監督当局から正式な文書を発行してもらう方法、もしくは、官民連携等のプロジェクトにおいてはコンセッション契約の中で、その恩典内容の射程を明示してもらうようなアレンジを取ることによって対応をしたケースもある。

 

6. アジア新興国における紛争解決

最後に、アジア新興国における紛争解決については、過去、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーやスリランカ等にて紛争案件を対応してきた経緯を踏まえて、アジア新興国における紛争対応の留意点について述べる。

まず、大前提として、係争地規定を巡る問題の中で、意外にも認識されていないことは、日本国内での裁判上の判決は、相手方の資産が存在する国との間で相互の保証が存在しない場合等に執行が不可能である可能性が高い。係争地規定は、とにかく日本の裁判所にしておいたほうがいいという言説がみられるが、これはクロスボーダー契約実務において、もっともやってはいけない悪手となる場合がある。

他方、カンボジア、ラオス、ミャンマー等のアジア新興国の裁判制度は、汚職や裁判官の能力不足等という問題があり、現時点において利用することは推奨されない。また、カンボジアやラオスにおいても、現地に仲裁機関や仲裁制度が存在するものの、過去の経験を踏まえると、同様に利用することは推奨できない(過去、カンボジア、ラオス、スリランカ等で裁判および仲裁センターを利用したが、色々と興味深い事例や経験があるが、ここでは紙面の関係上、割愛する)。そのため、実務上は、新興アジアでの紛争処理については、下表の通り、第三国において、ある程度信用が確立されている仲裁機関を必ず設定すべきである(アジア新興国の紛争案件において、過去、相手方に現地国での裁判や仲裁実施を持ち出され、交渉において苦汁を飲まされたケースが多くある。)

<アジア新興国における係争地規定のポイント>

※表はPDF本文をご確認ください

しかしながら、ある程度信頼がおける第三国の仲裁機関で合意していたとしても、相手方国での外国仲裁判断の承認執行について問題が生じる可能性がある。アセアンや南アジアの新興アジア諸国は、外国仲裁判断の承認執行に関するニューヨーク条約[4]の加盟国[5]であるが、現地裁判所での外国仲裁承認事例が限定的で、事例が蓄積していると言い難い状態であり、現地国での承認執行手続きの実施可否や手続き上の留意点について十分に確認する必要である。

例えば、現在ラオスにおいて、外国仲裁判断の承認執行手続きを行っている事案があるが、問題となっている契約書の準拠法がラオス法ではないことを理由として、ラオス外務省、司法省、裁判所等での承認執行のプロセスが進まない状態となってしまっている。ラオス仲裁法上、準拠法について、いかなる規制も存在しないが、執行国の仲裁法の承認執行の拒絶事由や手続きのみならず、このような実務、運用上の留意点等についても十分に確認することが肝要である。

  • 7. まとめ
  • アジア新興国において、近年、インフラプロジェクトが増加しているが、上記に述べたような問題以外にも、例えば、政府による輸入申請、手続が円滑に実現できず、建設部材や建設設備が十分に整わず工事に遅延が生じる事案や国際建設インフラ契約約款(いわゆる、FIDIC契約約款)等ではDispute Boardの選任を推奨しており、当事者間で合意がなされているケースがあるが、相手方国において適切な人材が存在しないこと、コストの問題等で、Dispute Boardの選任が全く進まない事案、政府用地利用や許認可取得の際の贈収賄等、様々な問題に現場では直面している。また、アジア新興国では、司法制度が十分に整っていない点もあり、紛争化すると著しく不利な立場に状況に追い込まれるケースもあるため、とにかく紛争を生じさせないために予見できるリスクをできる限り洗い出し、事前に対応策を構築しておくことが極めて重要である。

以 上

本記事やご相談に関するご照会は、以下までお願い致します。
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)

 

 

[1] 国土交通省ウェブサイト「国土交通省インフラシステム海外展開行動計画2020」(https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo05_hh_000232.html

[2] 外務省ホームページ 無償資金協力に関する取り組み (https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/keitai/musho/index.html

[3] 外務省ホームページ 有償資金協力に関する取り組み

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/keitai/enshakan/index.html

[4] ニューヨーク条約は通称であり、正式にはConvention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards (New York, 1958)という名称である。ニューヨーク条約加盟国同士は、外国における商事仲裁についての仲裁判断が、他国の裁判所によって承認執行が可能となっている。

[5] New York Arbitration Convention ウェブサイト(http://www.newyorkconvention.org/countries